第43話 完治、その後
「そらちゃん?」
観奈月あかりは突然の銀河そらの訪問に驚いた顔を見せた。しかも走ってきたのかずいぶんと息を切らせている。
「お見舞いに来てくれたの?」
そうあかりはベッドに寝たまま、そらに薄っすらとした儚げな笑顔を見せる。
「う、うん。あかりちゃん、調子はどうかな?」
「今日はね、ずいぶんと体調がいいんだ。ご飯もいっぱい食べちゃった」
そう言うあかりの顔色はそらにはずいぶんとよく見えた。ツヤツヤとしてまるで重病を患っているようには見えない。
「ふふ。今日はね、夢で天使様を見たの。それがね、そらちゃんとコラボしたモコスさんとそっくりだったの。かわいかったなあ」
「へ、へぇ~」
そらは移動中、モコスから連絡をもらっていた。治したから後はよろしくと。理由も説明された。医療関係者にはモコスがアンドロイドだとばれるリスクがあるのだ。
「顔色がずいぶんいいね。もしかして治療が成功したとか~?」
「あはは。さすがにそんなわけないじゃん」
そういうとあかりが不意に涙をこぼした。
「あれ? おかしいな……」
「ぐ、具合が悪いの? 一度お医者さんに見てもらったらどうかな?」
「いいんだ、もう……」
あかりはポロポロと涙を流し続ける。
「え? それは良くなくない?」
「ごめんね。そらちゃんには黙ってたんだけど、私もうダメなんだ」
「ぜ、全然そんなことないよ! ものすごく元気そうだよ!」
「ううん。お医者様には今夜が峠だろうって。今は薬がよく効いてて元気そうに見えるだけ」
そう言って悲しげな顔を見せるあかりの顔色は相変わらずいい。入院中に伸びた髪も心なしツヤツヤしている。
「本当は黙って逝こうと思ってたんだ。けどそらちゃんが最後に来てくれた」
「だ、大丈夫。あかりちゃんはまだまだ生きられるよ!」
「そうだね。そらちゃんが励ましてくれたから、なんだか元気が出てきたよ……」
完全に悲劇のヒロイン気取りである。実際医者の言うように今夜が峠だったのだし、あかりも完全に覚悟を決めていたのだろう。普通ならそれが完治しているなどとあり得ない話なのだ。
「聞いて。あかりちゃん、ずいぶんと顔色もいいし元気そう。もしかしてガンが治ったのかも。もう一度お医者さんに見てもらおう?」
そらの必死の懇願にあかりは首を振る。
「いいの。私、お金だけは稼いでたから色んな治療を試してもらったの。でも進行を遅らせるくらいでどれもあまり効果がなかった。もう疲れちゃったんだ……」
そう言ってあかりは静かに目を閉じる。
「聞いて。あかりちゃんが夢で見たモコス様、さっき本当にここに来てたんだよ。私がガンを治してくれるように頼んだの」
「そうなの? モコスさんは本物の天使なの?」
「モコス様は宇宙人だよ。銀河連盟の進んだ技術でガンとかも簡単に治るんだって。だからあかりちゃんはもう治ったんだよ」
そらはあかりにはモコスのことは教えていなかった。ガンで死にそうな人間に宇宙怪獣で地球がピンチとか刺激が強すぎる話題だと思ったからだ。
「モコスさん、漫画の続きが読みたいって。あの世でも漫画が描けるのかなあ……」
そう言ってあかりがまたさめざめと泣き始める。
そらは思った。これどうしよう? と。ナースコールを押すか? でも治ったことをなんと説明する?
モコス様に迷惑はかけられない。誤魔化すにせよあかりちゃんの協力は必須だが、もうあかりは死んだ気分でそらに聞く耳を持たない。
「ほら。治ったんだからベッドから出てみて?」
そう言ってそらはあかりの手を引く。無理矢理にでも外に連れ出してしまえ。そう考えたのだ。だがその手は振り払われた。
「もうやめてっ。私、このまま静かに逝くつもりだったのに……最後にそらちゃんが来てくれてとても嬉しかった。だけどもうこれ以上私を惑わせないで……お願い……もう帰って……」
もう帰るか。そうそらは思った。何日か様子を見て、それでおかしいとあかりか医者が調べるだろう。
「あのね。モコス様のことだけど」
「うん」
「宇宙人だってことは内緒なの。だからモコス様が来たことは人には話さないでね」
「うん」
「ごめんね。またくるから」
「うん。ありがとう、そらちゃん……私、そらちゃんと友達で良かった……」
そらもなんだか泣けてきた。
「じゃあ帰るね。またお見舞いに来るから。あとモコス様のこと、絶対に内緒にね?」
それだけ言うとそらは病室を出る。無力感に打ちひしがれながら。
◇◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◇
すごすごと敗退したそらだったがやはり心配だったので翌日またお見舞いに行くことにした。
病室を訪ねるとあかりは呆然とした様子でソファーに座っていた。
「そらちゃん……お医者様がね。ガンが小さくなってるかもって」
「うんうん。モコス様が治してくれたんだよ」
「これから精密検査でガンの様子を見るんだって」
それはまずいかもと、そらは考える。
「朝ご飯も美味しかったし、お薬も飲んでないのに体の調子がすごくいいの」
「もう何か検査はしたの?」
「まだ血液を取っただけで、これからレントゲンとか色々やるみたい」
もしかするとまだギリギリセーフかもしれない、そうそらは考えた。
「モコス様のこと、誰かに言った?」
「言ってない。モコス様は本物の天使様なの?」
もう天使でいいかと、そらは雑に返事をする。
「……そうだよ。モコス様は本物なの。本当にガンを治せるの」
だがこれ以上調べられたらまずい。やはり昨日の時点で無理矢理にでも連れ出すべきだった。
「あかりちゃん、服を着替えて。退院だよ」
「え、でも……」
「ガンは治ったの。それで天使様がガンを治したって噂になったら、モコス様に迷惑がかかるよ」
「え、あ……」
逃げちゃおう。そうそらはあかりに言って、部屋の鍵をかける。
「ほら、服を着て。大事なものも忘れずに」
「あかりさ~ん?」
間一髪、ガチャガチャとノブが回される音がして、外から声がかけられる。
「シャワー浴びて着替えてるって言って」
高級な個室なのでお風呂までちゃんとあるのだ。
「いまシャワーを浴びて着替えてるますから、少し待ってくれますか~」
幸いここは一階。窓から出られる。
「書き置き。元気になったので退院します。以後の連絡は弁護士にお願いします、と」
そらはささっと書いたメモをテーブルに置き、あかりの様子を確認する。ちゃんと外に出る用意を完了させたようだ。
「行くよ、あかりちゃん」
窓を開き、二人して乗り越えて外に出る。
「ほ、本当に勝手に出て行っちゃっていいのかな?」
「平気平気。あかりちゃんも天使様にもう一度会いたいでしょ? ここでガンが奇跡の治癒とかで大騒ぎになったら、モコス様に会えなくなっちゃうよ?」
「本当に天使様が治してくれたの?」
「モコス様は本物だから」
「もう一度会える?」
「うん。会えるよ」
オフコラボがしたいって言ってたし、だけどまずは今日の宿だ。念のために家には戻らせない。ホテルか、それともうちに連れて行くか。それとあかりの弁護士に連絡をする必要があると、そらは考えた。
「弁護士さんに連絡を取って。少し具合が良くなったから一時退院するからって。病院から連絡があっても取り合わないようにって。ああ、友達と一緒だから安心って言っておいてね」
「う、うん」
これでよし。なんだかまたしても面倒なことになったが……
それでも不安そうに、死にそうな様子など欠片も見せずに電話をするあかりを見て思う。あかりが助かって良かった。本当に良かったと。
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