第八話:放課後の戦い②
疲れた、眠い、帰りたい、何でこんなに歩かされねばならんのだ。
「---って顔してるね」
!? 此奴、心を読みおった!怖いよ。ニッコニコで読心術使ってくるなんて。
「あはは、『何でバレた!?』って顔してるね〜。わかりやすいよ!」
なるほど顔に出ておったという訳か。確かに、前世でもよく『顔に出過ぎ』と言われた思い出が。
「もう腹も膨れたし、疲れたし……どこに向かっておるのだ?」
「ゲームセンター!ゲーセンとかあんま行かない?もしかして、プリとか苦手?」
「ゲ…?プ、ぷり?」
「あれ、なんかデジャブだな、このやりとり」
そう言うと、凛は腕を組み、やや首を傾げて、桜華の顔をじーっと見つめた。
まずい、怪しまれておる。もう少し話を合わせるべきだったか?しかし、それもいつかはバレるだろうし…クッ、万事休すか。
何か手を打たねば、と策を巡らせていると、険しい顔をしていた凛が、なにか思い浮かんだような顔でポンと手を打ち、口を開いた。
「もしかして、桜華ってさ……。地方からの上京組?」
よかった、何とかバレてはいないようだ。もしかして、此奴も中々の阿呆か。何はともあれ助かった。
「そ、そうじゃ。生まれも育ちも尾張でな、この辺りのことはあまり知らんのだ」
「ふーん、でも尾張って愛知、じゃなかった?田舎って訳じゃ無さそうだけど……」
凛の顔に、再び疑問が浮かび上がりかけたその時、晴が、
「わ、私たち愛知の少し外れの方の出身なんだよね〜。だから一緒に上京してきて、二人で暮ら
してる〜。みたいな?ね、桜華ちゃん!」
「え?あ、ああ。その通りじゃ」
「あーなるほどね、だから二人とも仲いいんだ!」
どうやら気を利かして、助太刀してくれたらしい。何とか首の皮一枚繋がった。
そうして何とか危機を乗り越え、桜華と晴は、ちらっと目を合わせ、クスッと微笑んだ。
*****
それからまた、しばらく歩いたのちゲームセンターとやらに、ようやく着いた。
そこは、さっきまでの商店街の店々とは打って変わって、薄暗く、かつ眩い光を放つ未知の様子だった。
「随分と騒がしいところだな。奇天烈なモノばかりじゃ」
「あはは、これはUFOキャッチャーね。プリ撮り終わったら見て回ろっか」
そう言うと、プリコーナーと書かれた方へ歩いていく。
そこは、摩訶不思議な空間で、狭い茶室くらいの四角い塊に、人が出入りしているのだが、男の類は一人もいない。高野山のような女人禁制の場所は知っているが、その逆は初めて見た。
「これでいんじゃない?めっちゃ盛れるし」
「おー、でもあっちのあれも評判いいらしいけど、どうなんだろ」
と、またしても三人で盛り上がっていて、わしは完全に蚊帳の外状態。そろそろ足も限界、帰りは馬を使いたい。
一分ほどで、三人の議論はひと段落ついたらしく、数枚の銭を入れてゾロゾロと暖簾のようなものを潜って中に入っていったので、わしもついていくと、中は真っ白く、背面だけ緑色だった。異様な雰囲気の飲み込まれかけていると、突然壁から大音量で『コースを選んでね!」などという意味不明な声が聞こえ、思わずぎょっとした。
それからも、その都度壁から声が流れ、皆がそれに従って動くので、とりあえず真似てみた。
何度も姿勢を作っては変え、作っては変えを繰り返していたのだが、何のためなのかがさっぱりとわからん。
壁から声が聞こえなくなると三人が出て行ってしまったので急いでついていくと、そこはさらに手狭な場所だったのだが、驚くべきはそこではなかった。なんと、自分と瓜二つの顔が写っているではないか。しかも、めっちゃ上手い。まさか、あの部屋の向こうには絵師がいて、一瞬で肖像画を描いたのか!?などと驚いていると、3人はおもむろに、顔に落書きを始めたではないか。猫の髭を付け足してみたり…まじ卍、などと訳のわからぬことまで…。
「せっかくだし桜華ちゃんも、なんか書く?」
「ん、良いのか?仕方ない、わしのとっておきを見せるしかあるまいて」
そう言うと桜華は、達筆な花押をデカデカと描いてみせたのだが、死ぬほどプリクラの雰囲気と合っていなかったので、速攻消されたのは言うまでもない。
*****
謎の落書きがかなり長引きそうだったので、店の中を見て回ることにした。
それにしても奇妙なものばかりだ。何から何まで理解できん。あ、でもあの音に合わせて太鼓を叩くやつ、あれは面白そう。時が流れると、娯楽すらこうも変わってしまうのだな。ひさしぶりに双六がやりたい。
しばらく歩き回っていると、3人がわしを探しに来て、何やら小さい紙切れのようなものを手渡してきた。それは、さっきの写実的な肖像画だった。
「えへへ〜、お友達記念のプリ、だね!」
そう言うと椿は、朗らかな顔で、大切そうに持つそれを眺めた。
半分ほど、わしの顔が大惨事になっておるが…まあ、それを言ってしまうほど、わしも野暮ではない。
*****
店を出ると、外はすっかり夕暮で、橙色の陽が四人の背中を照らしていた。
「じゃあ、私たちは電車だからこっちだけど、桜華と晴は歩き?」
「うん、ちょうど反対方向だね」
「そっかそっか。今日はめーっちゃ楽しかった。絶対また出かけようね、バイバーイ!」
桜華と晴は、手振りながら走っていく椿と凛の背中を見送り、すっかり見えなくなってしまってから逆方向へと歩き始めた。
「楽しかったね〜。二人とも優しくて面白くて、こーんなすぐに仲良くなれちゃった」
晴は随分傲慢悦な様子である。
「桜華ちゃんも、結構楽しめた?四百年進んだ日本はどうよ」
確かに、日が暮れるまで遊んだのは何年ぶりだろうか。子供の頃に、野原を駆け回って迷子になった時ぶりであるかな。たまには悪くない。まあでも、
「疲れるから当分はいい」
「……」
花押→今でいうサインのようなものです。
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