第七話:放課後の戦い⓵
「じゃあ、今日のやることはこんなもんかな。明日から早速授業が始まるから、教科書とか忘
れない様にね〜。それじゃ、また明日」
そう言って、学級担任は教室を後にした。それに連なる様に周りの生徒たちも、一人、また一人と席を立ち、教室内はガヤガヤと賑わい始めた。
ふう、やっと終わった。ただ話を聞くだけというのも退屈なものだ。
「学校とは、これが何日も続くモノなのか……。思ったより骨が折れそうじゃの」
「んー、まあ慣れたら案外だよ。それに今日は半ドンだしね。明日からは、お昼休み挟んで午後も授業あるから今日のちょうど倍くらいだよ」
「そうかそうか……え?」
倍?朝方に始まって、夕刻までこれが続くのか?いかん、考えたくもない。こういう時は甘いものが食べたい。あぁ、金平糖…。帰ったら、早々に惰眠を貪ってやろう。
そう決意し、思い腰を上げ帰ろうとした時、椿と凛が、小走りで駆け寄ってきた。
「ね、放課後ひま!?お友達記念にクレープ食べに行こうよ〜」
うーん、屈託の無い澄んだ良い笑顔、晴、助けてくれ。お主も早々に帰りたいであろう?よもや、行くなどど言い出したりはせんよな?案外賢いお主の事だ。きっと波風立てずにこの場を…
そう願いながら横を見ると、晴は目を輝かせ、満面の笑みを浮かべていた。
「いく!絶対行く!ね、桜華ちゃん!」
もうだめだ、何を言ってもこの状況はひっくり返せない。
「おう、好きにせい…」
桜華は、全てを諦めた顔でそう答えると、そっと立ち上がり、ワイワイと盛り上がる三人の後ろを、黙って着いて行った。
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四人は校門を出て、クレープ屋を目指し、少し栄えた街中の方へと歩いた。そこらの辺りは、どこか下街情緒を感じさせる、こざっぱりとしたエリアで、店前に立っている人たちは皆、朗らかな様子でいて、街全体が、何か明るく包まれているような感じだった。
「ところでその、クレープ?とは何ぞ?」
三人は、学校を出てからずっとハイテンションで盛り上がってい他ので、聞くに聞けずにいた桜華だったが、ちょうど落ち着いたタイミングを見計らって、切り出した。
「え!もしかして、クレープ食べた事ない?」
「いや、食べた事ないというか、それがなんなのかすら知らん」
そう答えると、椿と凛は目を点にして驚いた。
「そうかそうか。つまり、今日が初クレープ記念日になるわけだね!リアクションが楽しみだなぁ。あまりの美味しさに、本当にほっぺた落ちちゃうんじゃない〜?」
ほう、そこまでの食い物なのか。しかし、みくびってもらっては困る。前世では、南蛮の甘い菓子をよく食べていたからな。そんじゃそこらの菓子では、驚くまい。まあ?そこまで言うくらいであるからな、別に楽しみというわけではないぞ?仕方なく食べてやっても良い、と言う感じだな!
などと一人勝手に合点して頷いていると、何かが焼けた甘い匂いが、風に乗せられて、どこからか香ってきた。それとほぼ同時に凛が、
「やっと、着いた〜」
と言った。
どうやらここが、そのクレープとやらを売っている店らしい。確かに旨そうな香りだ。
しばらくの間、思わず涎が垂れそうになるそのにおいに意識を奪われていると、三人は、何やら大きな立て看板を眺めながら、あれやこれやと話し合っていたので、何事かと思いひょいと覗いてみると、眼前に広がる光景に思わず目を疑ってしまった。
「これが皆全て、クレープというやつなのか?」
黄色味がかった薄い生地が、色とりどりの具材を包み込んでいて、それが何なのかわからなくても間違いなく旨いという事だけは伝わってきた。
「驚いたでしょ〜。どれも美味しんだよ!でもね、おすすめはやっぱり王道のチョコバナナかな。私め〜っちゃ好きなんだ。桜華は、どうする?」
「どれもうまそうだが、いまいち違いがわからんのでな。わしも同じのを頼む」
それを聞いて、椿は店員に注文をするために並びに行ったので、わしは少し離れた木陰の下で待つことにした。
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十分程したのち、椿が両手にクレープを持って戻ってきた。晴と凛は一足先に戻ってきていたのだが、全員揃うまで、食べたそうな気持ちを必死に我慢して、待ってくれていた。
「じゃ、食べよっか!いただきまーす」
と言い三人が食べ始めたので、それをチラリと横目に見つつ、覚悟を決めて大きく一口齧り付いた。未知なるものへの不安も少しあったが勇気を振り絞って咀嚼し、飲み込む。それは--そのクレープは、文字通り雷にうたれたような旨さだった。あまりの旨さに自然と口角が上がり、一口、もう一口と手が止まらない。
「どやさ!美味しいでしょ〜」
頬張ることに夢中になっていると、ニヤニヤと自慢げな顔で凛が聞いてきた。
「予想以上であった。まさか、ここまでのものとは…これは今度、他の種類も食べ比べねばなる
まいな」
いやあ、実に旨かった。食文化もここまで進んでいるとはな。晴に頼んで、他のものも色々教えて貰おう。とりあえず今日は、帰ってあとは寝るだけだな!
と満足げにしていると、椿が横からとんでもないことを言いよった。
「よーし、腹拵えも済んだしー、んー、あ!次は記念にプリでも撮りに行こっか」
え、次?まだ続くのか?も、もう足が……
そう、馬での移動に慣れている桜華にとって、長距離の徒歩移動は久方ぶりの苦痛でしかなかったのだ。
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