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第九話:巨乳の運命

「男どもがわしのことを、いやらしい目つきで見てくるのが耐えられん!!」


 と、昼休みの屋上で昼飯を食いながら嘆く桜華であるが何があったのか。話は午前中に遡る。




*****


 桜華と晴は昨日の移動の疲れがまだ残る中、辿々しい足取りで教室へと入ると、二人はやけに視線を感じた。それは主に桜華へ向けられたものであった。


「なあ、晴。やけに見られているような気がせんか?特に男どもから」

「ね、私も思った。あれじゃない?やっぱり昨日の自己紹介の……」

「やめい、思いださすな。あれは気の迷いじゃ。

 まあ、わしらの勘違いという説もあるしな。少しすれば気にならなくなるであろう」


と、当初は楽観的でいた桜華。しかしいざ授業が始まり一限、二限と時間が進むも、視線は減るどころか、むしろ増えてさえいるように感じられた。


 ーーそして、話は冒頭につながるーー


「どうしたら良いのだ。あの目つきは間違いなく男が女を狙う時のそれだ。このままではわしは…」


「まあ、確かに男子の気持ちも分かるかも…。だって桜華ちゃん可愛いし、スタイルもいいし、

 めちゃデカいし…何がとは言わないけど」

「ねー、最初見た時びっくりしちゃったもん。モデルさんとかかなーって」

 椿と凛は、紙パックのジュースを飲みながら、まるで他人事のような様子で言った。


 なるほど、自分ではイマイチわからぬが、かなり見目がいい方らしい。化粧などは微塵もしておらんのだがな。


「しかも、五限は体育だよ…Tシャツにハーフパンツ…。桜華、覚悟しておいた方がいいかも。

 男はみんな獣だからね!」

 と、男を軽蔑する目つきで言った。

 うっ、前世が男であるワシにとっては、耳が痛い話じゃ。



*****


 昼休みが終わり、五限の体育の時間となった。

 言われるがままに、体操服とやらに着替えたのだが…何だこの服装は。ちとハレンチではないか?足も腕もかなり出ておるし、何より……胸が!わしの弾けんばかりの胸が目立ってしまっておる!

 女子の姿になってわかったのだが、乳というのは、存外邪魔くさいモノである。ふとした時に足元が見えなかったり、少し走るだけで上に下にと揺れ動いたり。皆苦労しておるのだな…


 少し遅れて晴もやってきたが

「うわ、やっぱりすごいね。なんてゆーか、その、自信なくす」

 暗い声でそう言うと、自分の胸元を手で隠してしまった。



*****

 先生の指示で、二人組のペアで、準備体操が始まった。桜華の相手は凛だ。


「して、この体育というのは何をするのだ?」

「まあ体を動かすことだねー。今日は持久走らしいね」


 持久走、つまり走るということか。昨日の疲れがまだ残っておるというのに。しかも、走るということはつまり……。ハッと自分の胸を抑え、事の重大さを理解する。それを見て凛が、羨望と哀れみが入り混じった目でわしを見つめてきよった。




「じゃそろそろ始めるよー」

 教師の呼びかけに応じるように、ゾロゾロと女子がスタートライン近辺に集まり出した。順番は女子→男子の順だ。


 ……。もう腹を括ろう。第一、わしはこの間まで男だったわけで、そんないやらしい目で見られたところで気にするものか!むしろ澄まし顔で、『何も気にしておらんが?』という貫禄を見せつけてやる。見ておれ、下衆どもめ。

 


 教師の合図とともに女子たちが一斉に走り出した。男子はトラックの中でアップをしている。


 最初は周りに合わせて走っておったのだが、わしの悪い所が出てしまい、つい無意識に、やけになり一番を目指してしまった。


 皆、軟弱だのう!ここで圧倒的な差を見せつけ、昨日の汚名を晴らしてやろう、桜華はさらにペースを上げた。その時点でトラックをちょうど一周したあたり、残り一周という所だったのだが……。悍ましいものが目に入った。男子たちが頬を赤らめ、鼻の下を伸ばしてわしを見ておった。いやわしの胸を。


 ひさしぶりに感じた恐怖であった…。信玄が動き出した時より、長政が裏切った時より。


 もう一番を目指すのはやめよう……。

 結果、ゴールした順位は、後ろから三番目。



「それはもう、巨乳の運命…だね、どんまい…」

 そう言って3人から向けられる哀れみの目は、突き刺さる針のように痛かった。


 











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