第十話:信長様、部活動見学に行く
「なー晴ー、何か楽しいことはないのかー?そろそろこの生活にも飽きてきたぞー」
「飽きるって…。まだ一週間ちょいしか経ってないでしょうが」
学校生活が始まり、今日でちょうど十日が経過した。本格的に授業が始まり出して、忙しくなってきたものの、桜華にとっては無関係、すでに退屈さを感じ始めていた。
「んー、楽しいこと…か。一人で外を出歩かせるのは流石に怖いし。あ!!ちょうどいいのがあるじゃ〜ん! 部活見学、行ってみる?」
「ぶ、ぶか…?」
「まあ、わかりやすくいうとーーー…」
「なるほどな、大方は理解した。つまり同じ目標を持つものが群れ、互いに切磋琢磨して技を磨く集団、という感じか」
「まあ、そんな感じ。
でも多分、スポーツとかやったことないよね。やったことありそうなのは…弓道とか?
放課後行ってみよっか」
「なんと!弓なら得意だぞ!こう見えても幼い頃は那須与一の再来!などと、そば付きの者に褒められておったのじゃぞ〜」
と言い、桜華は椅子の上でぴょんぴょんと嬉しそうにはねた。
*****
六限が終わり生徒たちは、帰路に着く者、何処へ行こうかと盛り上がりながら歩いていくものなど、人それぞれに動き始めた。
桜華と晴も、荷物をまとめ教室を後にして弓道場に向かう。その足取りは、いつもより軽く見える。
「ここが弓道場、のはずなんだけど…。
すいませーん、部活見学に来ましたーって…まだ部員の人達来てないのかな」
と、二人が入り口でキョロキョロと様子を伺っていると、後ろから
「あれ、もしかして一年生?見学に来てくれたのー?」
という声が聞こえてきた。振り返ると、背がすらっと高い上級生と思しき男子が、弓を抱えて立っていた。
*****
「いやあ、今年はあまり新入生が来てくれなくてさ。どうしたものかって悩んでたんだよねえ」
弓矢の手入れをしながら笑顔でそう話すのは、この部活の長らしい。子犬のような優しそうな顔で、人当たりも良い。
桜華は、並べられた弓道道具をまじまじと見つめた。
ん、此奴、もしかして…
すると突如、
「新学期でみんな遅くなりそうだからね。せっかく来てくれたんだ、僕が射るところを見せてあげよう!」
と言って、準備運動も程々に立ち上がった。
「まあ、こう見えても弓道は3段でね、実は県大会とかでも上位なんだ、まあ見ててよ」
ドヤ顔混じりで弓を引き、そして射る。一射目、弓は右に逸れ、土のうへ刺さる。二射目、三射目も同じく的を外れた。
先程まで、ニコニコだった顔は弓を射るごとに曇っていき、五射目を盛大に外したあたりで仏のような表情になっていた。そして桜華の表情はというとーー憤怒の修羅のようになっていた。
「もう我慢できん。さっきから見ていれば、なんじゃそれは。肩も入っておらん、足踏みも胴作りも全くもってなっておらん。土台ができていなければ、当たるものも当たらんだろうが。見ておれーー」
そういうと、桜華は半ば無理やり弓と矢を奪い取り、弓懸も付けずに弓を引いて的に狙いを定めた。その立ち姿は圧巻で、スッと片目を閉じた横顔は獣を狙う狩人のようでありつつも、端正な美しさすら感じるものだった。
そして、ヒュッと風を切る音と共に放たれた弓はまっすぐに的を捉え、中心の星を射抜いた。
「ふん、どうやらこの世界の弓術はわしの知っているそれと比べれば、話にならんようじゃ。
帰るぞ、晴。退屈凌ぎにもならんわい」
そう言うと、弓と矢を押し付け早々に出入り口から出ていった。
口を開け、その後ろ姿を見つめながら唖然とする部長。急いで後を追いかける晴。
そうだった、忘れてた。この人…、
ー前世、信長だった……
度重なる奇行で、忘れていた事実を思い出した晴は、少し青ざめた表情で前を歩く桜華についていった。
少し短めです。
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弓懸→弓を射るときにつける、革製の手袋のようなものです!




