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第三話:出会いと始まり

「イ、イチモツが、イチモツが無くなっておる…」


「…はい?」




 そこから先は、少し記憶がとんでいる。卒倒しかけていたわしを、何とか抑え湯船にぶち込み、服を着せ、今に至るようだ。

 

 そして今わしは何をしているかというと--

 出された茶菓子を頬張りながら、薄平べったい謎の塊の中に閉じ込められた者たちが、談笑しているのを眺めている。


「この者たちは、罪人か何かか?いかにしてこの中に入ったのだ?」

などと独り言を呟きながら、甘味を口に詰め込んでいると

 


「あのー、もう辛抱ならないんで色々聞いていいですか?」

と、小童が意を決めた顔でわしの横に正座をした。


「ん?何じゃ。あ、茶や菓子のもてなし、実にかたじけない。美味であるぞい。」

「いや、いやいや、そんなことはどうでもよくてですね……」

そういうと、小童は、二つばかり深い呼吸をし目を見開いた。



「さっきから、ここが何処かとか、天正とか、イチモツとか、君、一体何者なの?

 なんで、あの時間にあそこで倒れてたのか。なんで財布には、学生証と、見たこともない

 貨幣しか入ってなかったのか。訳ありかも知れないけど、こんな私でも少しは力になれると思うから!」


 本当のこと、か。確かに打ち明けるのが最善であろう。しかし、四百年前から来た、などと言って信じるものだろうか。間違いなく気狂いの類のものと思われるであろうな。だが此奴なら、此奴になら打ち明けても良いのかもしれん、もしかしたら、帰るための手助けをしてくれるやもしれぬと、特に根拠もないがそう思ってしまう。


 わしは意を固め、胡座のまま小童の方へ体の向きを正対させ、ゆっくりと目を見た。



「今からいうことは決して嘘偽りでは無い。ましてや、気を違っているわけでもない。それでも、わしの言葉に耳を傾けてくれるか。」

 冷静に、かつ威圧するかのような声色で問う。視線と視線が交わり、まるでつば迫り合いの様相を成し、それに呼応するように、小娘が小さく頷く。

「わしは尾張国で生まれ育ち多くの争いをこの目で見てきた。戦乱にまみれ、民も兵も皆、疲弊し苦しんでいるこの世を平らげ、安寧の世を作るため、天下静謐(てんがせいひつ)を為さんとした。名を、

 ーー織田信長ーー と申す。しかし志半ばで命を落とすこととなってしまってな。燃え盛る

 寺の中で自害したのだが、目が覚めると見知らぬこの世界にいた。そこでお主と出会い、今

 に至る、と言うわけじゃ。」



「へ?」



 小娘の顔を見るときょとんとしている。だろうな、言っててわしも意味がわからんかったわ。

「は、ははは……つまり君の前世は織田信長で、死んだと思ったらこの世界にタイムリープしてき

 た、ってこと…?もうわけわかんないや、夢でも見てるのかな、あたし」

 

 小娘は頭を抱えながら、ボソボソと呟いていた。まあ無理もあるまい。かような話、にわかに信じろと言う方が無理がある。しかし、信じて貰わねば困る。今見限られてしまえば、行く宛も頼りも無くなってしまう。


「頼む。この通りだ。わしには帰るところも頼る宛もない」

 わしは、深々と頭を下げた。いつぶりであろうか。こんなにも深く頭を垂れたのは。それを見て、小娘はぷっ、と吹き出し笑い始めた。そして、ひとしきり笑い終わったのち、頭を上げたわしの目をまじまじと見つめ、


「はははっ、面白いね。どうせ何もないし、一人暮らしだし。

 いいよ、君を信じてあげる。殿様と同居なんて字面だけでも面白いしね。あー、笑った笑った。

 だから体見て、『イチモツがー!』なんて叫んでた訳か。現代から過去にタイムスリップする

 話はよく聞くけど、まさか逆もあるなんてなー」


などと、饒舌にベラベラ喋っていた。自分で頼み込んでおいて何だが、この娘の頭はどうなっておるのか。立場が逆なら、おそらくわしは信じていないだろう。何なら斬り殺しているやもしれん。此奴の決断力の凄まじさには、驚きを通り越して恐怖すら感じている。体は女子でも、わしの中身はオヤジだぞ?危機感のかけらもない。まあ今は逆に、それに感謝しよう。


「なかなか肝が据わっておるのだな、小娘。」

「小娘って……。晴!あたしの名前は森下 晴(もりした はる)。で、あたしは君のことなんて呼んだらいいの?殿?信長さん?財布の中にあった、学生証にはー明智桜華ーって書いてあったけど」

 

 明智桜華……明智か。一体誰がつけた名前なのやら。まさかわしを死に追いやった十兵衛と同じ姓とは。しかし、今最も重要なのは、1日も早くこの世界を知り、溶け込むこと。余計な波風を立てるのは、得策ではあるまい。


「ひとまずの所は、その桜華とやらで良い」

「はいはーい、桜華ちゃんね」


 小娘はやけに嬉しそうだ。何はともあれ大きな協力者と、屋根がある寝床が出来たわけだ。見知らぬ世界にやってきて、右も左もわからんが、一つずつ一つずつ、地道に知っていくしかあるまい。まずはこの世界の事。次にわしが死んだ後、日の本はどうなっていったのか。最後に、どうしてこうなってしまったのか。やるべきことは山積みだが、本願寺の坊主どもを攻略するのにかかった手間を思い返せば屁でもあるまい。


「とりあえずよろしく頼むぞ。晴」

「こっちらこそ〜。あ、とりあえず必要なものは、明日買いに行くとしてー、ていうか昔の人が使ってたものって何?全然わかんない。とりあえず明日は…………」


 晴はもう、この異常な生活と関係に、すでに何の違和感も感じていないらしい。全く、わし以上のうつけ者め。


 

 何はともあれ、こうしてうつけものJKと、元天下人系JKの奇妙な同居生活が幕を開けた。





 









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