第二話:イチモツがないではないか
行く宛もないわしを、この小童は屋敷へと招いてくれた。屋敷といっても、想像していたものとは全く異なっていて、縦に細長い。マン…ション?などというらしい。部屋は無数にあるが、そのうちの一つだけが己のものであり、両の隣には全く知らん人間が住んでいるのだとか。何とも風変わりな風習だと感心しながら歩いていると--
「ここがあたしンち、入っちゃって入っちゃって〜」
と言い、分厚い扉を開けた。
その扉の向こうには、見たこともないような世界が広がっていた。眼前に広がるもの全てが未知のものであった。壁の突起物を押した途端、急に天井についているものが光り出し、小童が何やら不可解な行動をすると、壁にくっついていた塊が生ぬるい風を吐き出したのだ。この世界ではもう蝋燭も扇子も必要ないらしい。
他にも、目を惹かれるものはたくさんあったが、何一つ用途が分からなかった。この時代の人間は、茶器などを集めるたりはしないだろうか…
周りを見渡しながら、呆気からんとしていると、何やら手渡された。
「とりあえず、先お風呂はいっちゃっていいよ。着替えはとりあえずあたしの使って、んー、多分サイズは大丈夫だと思うけど…」
女子ものか……まあ、着るものがあるだけありがたいとしよう。
久しく湯に浸かっていなかったのもあり、意気揚々とした足取りで、案内されるがままについていくと、やけに狭いところへ連れてこられた。なるほど、湯船も一人用で、温泉とは大きく異なるのか。
中を覗き込んで感心していると、小童が
「脱いだ制服は、このカゴの中に入れといてくれたらあとで汚れ落としてアイロンかけるから、じゃ、ごゆっくり」
といって、脱衣所の扉を閉めた。
何から何まで、至れり尽くせり。何か褒美を出してやらねばなるまい。
しかし今日はやけに疲れた。見知らぬ土地に、風変わりなもの。この服も着物と全く違い、何がどうなっているのかさっぱりわからん。脱いでいる最中、ところどころ何かが破れる音もしていたが、この際特に気にするまい。それにしても疲れたな、今日は枕を高くして眠るとしよう。
全てを脱ぎ終え、眠り目をこすりながら浴室に入った。
見たことのないような大きな鏡があることに気づき、南蛮のものであろうか、などと感心した様子でまじまじと眺めてると、ふと自分の体が映った。
感じる大きな違和感、いや違和感どころの話ではない。
そこには、あるはずものがなかった。世に生を授かってから四十九年、ずっとあったはずの
ーーイチモツがないではないかーー
ついでに、あるはずのない乳があった。
「あ゛ああああああああああああ」
人間とは思えない声をあげてしまった。これは夢か、それとも仏罰か。比叡の山を焼き討ちにした祟りであろうか。
思わず出てしまった、この断末魔に近い声を聞きつけ、小童が急いで走ってきた。
「何!?ゴキでた?どうしたの!」
「イ、イ……」
「い?』
「イ、イチモツが、イチモツが無くなっておる…」
「…はい?」




