第十九話:ビキニと固定資産税
6月下旬、梅雨明け、夏至と季節は流れ、東京は少し早めの夏が始まりそうな空気だった。
「暑い…暑すぎる。海で泳ぎ回りたい」
わしは制服の前を大きく開け、下に履いた西洋袴から足を大きく出していた。
「ちょ、桜華ちゃん。流石にガードが緩すぎるって」
「だって暑いものは仕方がなかろう、ほれ晴もやらんか」
などと会話をしていると、椿が何やらニヤニヤしながら近づいてきた。
「むふふ、お二人さんやい。プール、行きたくはない?」
『プール!?』
思わず声が揃う桜華と晴。
「ってなんじゃ?」
「…言うと思った。プールていうのは、んーなんだろ、水が溜めてあって泳いで遊べるとこ
ろ?」
「? 海ではいかんのか」
「多分、海はまだ海開きしてないから入れないんじゃないかな。
それにいろんなアトラクションがあったりして色々楽しめるんだよ」
海開き?何故海に入るのに他人からの許可がいるのか甚だ理解できんが…。
「とにかく!こんなに暑いし今週末はプールで涼もうよ、ね?」
そういう椿の目は、見たことないほどに輝いていた。
まあ、涼めるのならどこだって良い。色々と楽しめるものもあるらしいしな。
「決まりね!じゃ凛にはあたしから伝えとくから。
んーとりあえず今日の放課後、水着でも見にいく?あたしそろそろ新しいのーー」
とその時、
「え!なんやなんや、プール行くん?俺らもつれてってや〜。な、竜之介!」
例の如く、阿呆が尻尾を振って話に割り込んできた。
「行かない」
「ほら!竜もこんな行きたそうにしてるで!」
此奴は毎回毎回、何故こんなにも間が悪いのか…。ただ思い返せば最近、竜之介とは毎日一言話す程度しか関わっていなかった。せっかく見目の良い女子に体になったんじゃ、使わない手はあるまい。
「よし、では皆で涼みに行くとしようぞ。椿、水着とやらを選ぶの手伝ってくれ」
「いや、だから俺はいかないってーー」
「さあ、鉄は冷めぬうちに打て、じゃ!」
「……」
わしは渋る龍之介をなんとか封じ込め、無理やり約束をこぎ着けることに成功した。虎太郎という邪魔があるが…、いつも通り無視で行こう。
*****
プール当日、電車に四半刻程揺られて到着すると、そこはすでに大勢の人で賑わっていた。
すごいな、まるで堺の街のようだ。
あっけに取られていたが、中に入るとそれどころではなかった。
手入れされた美しい草花や大きな木、温泉の数倍ほどの広さを埋め尽くすほどの人の数、何やら大きな建物(と言って良いのかわからんが)から滑り落ちてくる人々。
絶対に楽しいではないか、完全に海の上位互換にしか見えん。
口をあけて周りを眺めていると、男は右、女は左に分かれて進んでるのが見えた。
そして晴達もそれに続いて歩いて行った、ということは、着替えをするということだな。
特に何も考えず、流れに着いていこうとしたら、
「桜華!? そっち男子更衣室!あたしらはこっちよ」
と止められた。
危ない危ない…、今のわしは女なのだった。
それぞれに着替えを終え、周りは皆、日焼けがどうの紫外線がどうのなどと口にしていたのだが…。
そんなことよりこの『ビキニ』とかいう水着、最低限しか隠せていなくはないか?周りには、
ほとんど素っ裸のような者もチラホラいる。この世界の人間は羞恥心が欠落しているのだろうか。
「いっやあ、あたしと晴が全力で選んだ水着、似合っててよかったよ。それにしても相変わらずなんつースタイル…、隣歩くのやだなー。あまり燥着すぎると、それ、溢れそうな気が…」
溢れる?それは困る、いや敢えて龍之介の前で…。いや流石のわしでもそんなふしだらな攻め方はせん、いやしてたまるか。
「お、やっときた。女子の着替えは相変わらず長すぎるで」
と言って、待ちくたびれたような顔で虎太郎と龍之介が立っていた。
これは好機!
「龍之介、似合っておるか」
どうじゃ、前世のわしなら鼻血垂らしてぶっ倒れているであろうな、しかも今回は椿直伝の『上目遣い』とかいう手法との併せ技。今日こそ、その仏頂面剥いでやる。
「……。似合ーー」
「桜華ちゃん攻めた水着着てんな〜。てかおっぱいデカすぎひん!?
固定資産税かかるんちゃう?なんて〜」
と言って、ゲラゲラ笑い出した。
……。前もあったな、このようなこと。此度までは寛大な心で許してやるが、、次は必ず殺そう。
とはいえ、今日の目的はこれが本題ではない。あのウォータースライダーとかいうやつじゃ!
「さあ時間がもったいない、行くぞ晴!まずはあの一番でかいところから攻めるぞ」
「あ、桜華ちゃん!走ると怒られちゃうよ〜」
こうして桜華達の長い夏が始まったーー
が、はしゃぎすぎて出禁になりかけたのはナイショの話。
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