第十八話:いざ映画館へ
「なあ、前から思っておったのだがこれはどう言う仕組みなのだ。
この『テレビ』というものについてはまあ一応は理解したが、このプ○キュアは
現実の世界ではないであろう?でも動いておるし声もある」
日曜の朝、わしと晴はいつも通り『テレビ』を見ながら朝飯を食っていた。
聞くとこれはかなり凄い。中に人がとじこめてあるのかと思いきやそうでは無く、全く別のところで起こっている出来事を映し出しているらしい…。あまり深く聞くと、かえって混乱しそうなのでその辺りでやめた。問題はこの『アニメ』とやら、空を飛んだり体が光ったり、どうも様子がおかしい。
「あー、これはね…、なんて言えばいいんだろう。
一枚の絵があるとして、それを何枚も少しずつ微妙に変えて動いてるように見せてるの。
実際に見せた方がわかりやすいかな」
そう言うと晴は近くにあった紙を数枚手に取り、その一枚一枚の角の辺りに棒人間を描いた。
そして全部に書き終えると、次はそれをパラパラとめくって見せた。
すると面白いことに、その棒人間はまるで生きているかのように小さく走り出したではないか。なるほど仕組みは思ったより単純、だがアニメの、あそこまでの細かさを出すのは職人技なのだろう。
「まあこんな感じ?映画とかはもっと凄いよ。うちのテレビの100倍くらい音も、映像も迫力がすごいの。」
「なんと!それはどこで見られるのじゃ!」
わしは思わず興奮して、口に米を詰め込んだまま大きな声を出してしまい、それが机中に飛び散った。すまん、晴。
「映画館っていう専用の建物があって、そこに行けば見れるけど…。
今日休日だから多分人多いし、まさか行く、とか言いださないよね」
「行こう!思い立ったが吉日じゃ。
お主は家でゆっくりくつろいで居れば良い、わしは一人で行く故な」
「……」
*****
「なんで私が、女子二人で休みの日にプ○キュアを…」
「しみったれた面をするでないわ、さあ早く行こう。次はどっちじゃ、随分広い建物じゃな」
わしらは『映画館』とやらに来ていた。机にかじりついてでも家から出たくないという晴を引きずり出すのには苦労したが、最後はわしが風呂の掃除を一週間やるという事でなんとか話をつけた。
「もう…、同級生と蜂合ったら一体…」
「あれ?晴ちゃんと桜華ちゃん?」
随分聞き覚えのある、腹立たしい声が横から聞こえてきた。幻聴であろう、うん、きっと間き違えだ。あやつと蜂合うはずは…。
「ちょ、無視せんといてや〜!目合ってたやん!なあ、目合ってたやん!」
……。最悪だ。なぜ学校のない日までこの糞畜生と会わねばならんのだ。
しかもよく見ると、左手には幼子の手を握っている。拐かしてきたのだろう。
少し遅れて、晴も此奴の存在に気付いたようだ。
「あれ、虎太郎くん?その子は…」
「ああ、金に困りどこかから攫ってきたらしい。悪いことは言わん、早く親元に返してやれ」
「ちゃうわ、あほ!コイツは俺の妹や。ほら、この怖いお姉さんらに挨拶し」
「…、沖田 楓…」
おお、兄とは違って随分しおらしい様子だ。いや、兄がやかましすぎるのか。
「よう言えたな〜、えらいで楓。んで、二人は何を見にきたん?」
と、妹の頭を撫でながら虎太郎が聞いてきた。
「プ○キュアじゃ、映画館とやらがどんなものか気になったのじゃ、な!晴」
「……」
俯いて何も言わなくなってしまった。厠か?
「おお!一緒やんけ、ほんなら一緒にみようや。ええやろ?」
んん、この阿呆と一緒というのは癪だが、まあ仕方あるまい。この映画館とやらに来るのは初めてだ、知っている者が多いことに越したことはなかろう。
*****
券を買い、案内に従って歩くと、何やら薄暗く広い部屋にたどり着いた。椅子が段々と敷かれているが、特に何かが始まるという感じもしない。こんなところで『アニメ』とやらが本当に見れるのだろうか、と疑問に思いつつもわしらは指定された席に座った。
「なあ、このような広いところで本当に見れるのか?部屋を間違えているのではないか?」
まわりから聞こえる声も小さかったので、わしもそれに合わせて小声で聞いた。
「合ってるよ、まだ時間じゃないから始まってないだけ。きっと驚くと思うよ」
本当だろうか、此奴、騙しているのではないか?この前の試験の一件で、わしの中での評価はだだ下がりなのだが。
とはいえ、もう銭も払ったし今更帰るとは言い出せないので黙って待つことにした。
期待しすぎたな、せっかくの休み、家で寝ている方が…。
とその時、突如室内の照明が消え、辺りは沈黙に包まれた。そして目の前には『テレビ』とは比べ物にならんほどの大きさの画面が現れ、まるでその世界が目の前にひろがているような感覚にさえ陥った。
なんじゃこれはーー。
*****
上映が終わり、人は口々に感想を述べながら帰って行く。
「んあー、思ったより楽しめたわ。なー、楓。桜華ちゃんと晴ちゃんは…、うわっ!
めっちゃ泣いとるやんけ」
「絶望の中でも立ち上がり、最後には悪を倒す…、まさに武士」
「高校生になってプ○キュアか、なんて思ってすみません…。帰りパンフ買って帰ろう」
そう言ってわしらは、夢見心地のまま立ち上がり、フラフラとした足取りで歩き出した。
そして館内から外に一歩踏み出した時、開放感と空虚感が同時にやってきた。なるほどこれが映画館、侮っておった。
帰り道、虎太郎たちと別れようとした時、妹の楓がぴとっとわしの足にくっつき、そして振り絞った声で
「…またね」
と言ってきた。
「ああ、またな」
わしは頭を撫でてそう答えると、嬉しそうな顔で虎の元へ戻り、振り返ってこっちに手を振ってみせた。
そしてわしも、兄と違い可愛げのある楓に手を振り返し、わしらはそれぞれの帰路へとついた。
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