第十七話:因果応報
試験二日前。わしは放課後、いつものように教室で凛に勉強を教わっていた。
どうやら此奴は賢いらしく、わしとの勉強中も、しょっちゅう他の者達が教えを乞いにやってくる。学者肌なのだろう、普段の様子とかなり異なる。
すると突然、
「ついに手に入れましたよ…、去年の問題。なんとかして姉貴を説得しましたわ」
といい、凛が鞄から問題の書かれた紙を取り出した。多くの者達の手を渡ってきたのだろう、
古い文書のような貫禄が出ていた。
「おお、でかした!」
とわしは喜んだのだが、凛は渋い表情をしていた。
「ん、何か問題事でもあるのか」
「いやー、一週間あたしがパシリにされるっていうのと、桜華の話をしたら『面白そうだから
今度合わせろ』って、その二つが条件だってさ…、ごめんね、めんどくさい事に巻き込んで」
「あー構わん構わん。今はこれを乗り越えることが優先じゃ」
「まあ、それもそうか」
そう言うと、二人は目を合わせて笑った。
*****
試験前日、わしは家で、凛からもらった問題用紙を穴が開くほど見ていた。
一言一句覚え尽くしてやる。
そう心に決めぶつぶつと呟きながら繰り返し眺めていると、風呂から出てきた晴がひょこっと覗いてきたので、
「む、抜け駆けしたお主には見せてやらんぞ」
と言って、体で隠した。
「見ないよ、そんなの。それよりいいの?信長様ともあろうお人が、そーんな手を使って」
此奴め、ニヤニヤと煽ってきよった。
「? 城を攻めるのだって真っ向から攻めるより、調略して内側から崩した方が早いであろう?
それと同じじゃ、『正々堂々』と『骨折り損』は履き違えてはならんぞ」
わしが真顔で淡々と答えると、
「く…暴論だけど正論でもあるから言い返せない」
と言って悔しそうな顔をした。
「使えるものは使う!これが成功の秘訣じゃ、覚えておけ」
「はあ…、いつかバチが当たらないといいけどね。神様は見てるよ」
わしは神仏など信じないタチでな、結局どうせ今回もうまくいってしまう。賢すぎると言うのも困りものだな。
*****
ついに試験当日。
やれることはやった、手も尽くした(ほとんど凛が)。
わからないところは後回し…、困ったら適当でもいいから答える…。5択問題は4番めの可能性が高い…。よし行ける、ぬかり無し。
周りのもの達も必死に教科書を眺めたり、互いに問題を出し合ったりしておった。
馬鹿め、抜け道を使えばそんなことしなくていいものを。
わしは椅子にどっしりと座り、堂々と余裕を見せびらかしていた。
しばらくすると先生が入ってきて、挨拶を済ますと試験の連絡や注意を始め、それがひと段落つくと問題と答案の紙を裏返しに配り始めた。
教室内の空気がどんよりとしていて、皆の顔も引き攣っておるわ。さあ、いつでも来い。
『じゃあ、開始の合図からチャイムがなるまで、よーい…始め」
合図とともに、一斉に問題をめくる音が聞こえ、名前を書く時間すら惜しいと言わんばかりの
殴り書きの鈍い音が聞こえてきた。
ふっ、無様だな。
わしは悠々と紙をめくり、丁寧に名前を書き始めた。そして、問題に目落とす。
ーーん? 見たことのない問題…?
唖然としていると、隣から微かな笑い声が聞こえてきたような気がしたのでチラッと見ると、
晴の肩が震えておった。此奴もしや…。
だが今はそれどころではない、少しでも解かねば赤点とやらになってしまう。どうする、そうするーー。
*****
『はーい、そこまで。後ろから前に送ってきてー』
わしはスカスカの、白紙同然の答案用紙を前の者に渡し、隣で爆笑している晴を睨みつけた。
「おい、お主もしや…。問題が変わることを知っておったな?」
「うん、こないだ委員会の先輩達から聞いてたから。ちなみに残りの四科目も全部別だよ。
だから昨日言ったじゃん?神様は見てる、ってね」
必死に笑いを堪えながら晴は、そう言い捨てた。
もう、無理だ……。
翌日、帰ってきた結果は言うまでもなく全科目赤点。
もう当分ずるいことはやめておこう、神様は見ておるらしい…
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