第十五話:炊事遠足②
大自然に囲まれた調理場で、6人はそれぞれの作業を始めた。
と言っても男子二人が火おこしと薪割り、その間に女子が食材を切るだけなのだが。
ちなみにわしは芋の皮剥きをしようとしたら、危うく包丁で、椿をあの世送りにしかけたので、待機。何もすんな、と割と本気で止められた。なので、手頃な岩の上で胡座をかいて皆の働きを見ているのだが…流石に暇だ。
「疲れた〜」
ボーッと、飽きも限界に達しかけていた時、一仕事を終えた竜之介と虎太郎が歩いて戻ってきた。
「火ついたー?もう食材の方はOKだよー」
「おう〜、なんとかついたわ。めちゃくちゃ重労働やったで!な、竜」
「…うん」
「おつー、じゃあ早速作りはじめますかー」
そう言うと椿は、切った具材が入った鍋を持ち上げ、移動した。
*****
そこには、長方形の石で組まれた大小二つの天然のかまどがあり、その中では薪が燃えていた。
その横には補充用の薪が積まれているが、ずいぶん形に差があり、片方は綺麗なのだがもう片方は、どうやったらそう割れるのかわからない形をしていた。男二人の人間性が垣間見えたな…どっちがどっちとは言わんが。
その近くには、木製の机と椅子。真隣には川が流れている。
「いいじゃんいいじゃん!じゃ、あたしと晴で具材炒めて煮込んじゃうから、おしゃべりでもし
て適当に暇潰しててー」
と言って、椿たちはせっせと料理の続きを始めたので、わしらは座って待つことにした。
「つってもやることないよねー、しりとりでもする?」
「ふっふっふっ、凛ちゃんよ。なんでわざわざかまどを二つ…、それも離れたところに作ったと
思う?」
「???」
「じゃじゃーん!マシュマロを焼くためにきまっとろうが!せっかく外で火が使えるんや、やら
なきゃ損やで」
そう言うと虎太郎は、大きな袋に入ったマシュマロを机の真ん中で開いた。
これまた見たことのない食い物が出てきたな。白く小さい、触った感じはかなり柔らかいな。
どうやって食うのだろう?と疑問に思ったのでまわりを見て見ると、長い楊枝に刺して直接火で炙っていたのが目に入った。とりあえず、真似て見るしかない。
見よう見まねで火に入れると周りが真っ黒焦げになってしまった。それを見かねて凛が、
「あまり火に近づけちゃうと焦げちゃうからさ、いい感じの距離で、弱火で炙るんだよ」
と教えてくれたので、実践してみる。二つ目はうまく炙れた?はずだ。
恐る恐る自分で炙ったそれを口に入れてみるとーー うまい!とろっとしていて甘い。
「ずいぶんうまそうに食うなあ、あんま食べへんの?」
「いや、初めて食べた」
「ほんまかいな!いっぱいあるからどんどん食べ〜。チョコつけると一層うまいで、あ!ビスケ
っともあるからそれで挟むとなーー」
虎太郎は、クシャッと笑いながら饒舌に語っていた。
可愛げのある子犬のような男だな、此奴は。
初めて見る菓子とマシュマロで盛上がっていると椿と凛も戻ってきたので、みんなで菓子を食いながら、『カレー』とやらが出来上がるのを待った。あとは煮込むだけらしい。
ただひたすらあれやこれやとくだらない話をするだけ、学校の話や出身の話、最近あったくだらない話(これは主に虎太郎であるが)。やはりこう言う時間が一番ちょうどいいものだな。
「そろそろいい感じっぽいね〜。手空いてる人、お皿にご飯盛ってちょうだーい」
といい椿が立ち上がって指示を出し、皆も動き出す。
「あーい、おっ米もええ感じやんけー!みんなご飯どれくらい食べるんー?」
「あたし少なめー、ダイエット中…」
「わ、私は、お腹空いたから少し多めでお願い、します…」
「あいよ〜、竜はー?」
「多め」
こいつ、細いなりをしているが案外食うのか。それにしてもこの感じは、どこか戦場での飯と重なるな。こんな立派なものでも、楽しいものでもなかったがー。
と、追懐して苦笑していると、桜花の前に皿が出てきた。目の前にある『それ』は一度も見たことない料理だったが、見た目と香りだけでわかる、絶対に美味い。
「よーし、みんなの分揃ったかー?ほな、いただきまーす!」
虎太郎の掛け声と共に、わしら5人も手を合わせ食べ始める。匙で一口すくってーー
うん、美味い!この飯に掛かった『カレー』とやらが白米と完璧に合っており、そこに一口大に切られた野菜がそれぞれの味を出しつつも、主張が強すぎず、かといって弱すぎず。そして極め付けはこの牛の肉!買い出しの時に、牛の肉を買った時は割と本気で引いたが…。なるほどこれはうまい。煮込まれて柔らかくなり、噛めば噛むほど味が湧き出てくる。
「そんな顔になるほど美味しいのか〜」
といって椿は、わしの顔をニマニマと眺めていた。おそらくかなり顔に出ていたのであろう。
「ああ美味い、初めて食ったのだが、これはハマってしまいそうじゃな」
「カレーも初めてだったの!?まあ、今更驚かないけど。とにかく幸せそうに食べてくれて、
作り手としては嬉しいよ。ね、晴〜」
「うん!」
と、嬉しそうに微笑んで見せた。
この二人、将来は良妻賢母になるであろうな。前世のわしなら側室に欲しがったかもしれん。
それにしても、何か大事なことを忘れている気がするが……。あーー
*****
『カレー』を二杯ほど平らげ、それぞれ片付けを始めていた。わしは川の水を使って皿やら箸やらを洗っていたのだが、ようやく思い出した。今日ほとんど、竜之介と話をしていないではないか!何のために周到な準備を……。
などと、一人でやっていると、竜之介が、何も言わずに隣にスッと並んできた。
「!?」
「いや…一人じゃ大変そうだなと思って、特にやることも無いし」
遠くで虎太郎が、かまど用に組み上げた石を死にそうな顔で運んでるが…。うん、わしは何も見ていないことにしよう。
「そうかそうか、すまんな。皿洗いなど久々でな」
唐突なこの機会!何を話せば良いのだー、ここはあえて何も話さないのが…と考えていると、
「……。あの」
「ん、ん?どうした」
「前言ってた呼び方、でいい?下の名前、呼び捨てで」
「ああ、構わんが…。何で急にーー」
訳を問おうとすると何かを思い出したように立ち上がり、
「じゃ、俺、虎の手伝いあるから。それだけ」
と言って、立ち去ろうとしよった。
「ま、待て、わしもお主を『竜』と呼ぶが…良いか?」
「……。お好きに」
淡白にそれだけ言うと、虎太郎のところへ行ってしまった。
あやつめ、最初から最後まで、全く何を考えているがわからん奴だったな…。
だが最後のあのやり取り、もしあれがあやつなりの歩み寄りであったとしたら、ほんのわずかだけでも近づくことができたのだとしたら、この炊事遠足わしの勝ちじゃな。
面白いと思っていただけたら、ブクマや評価の方も、ぜひお願いします!
補足:信長の南蛮貿易によって、一時的に西欧の肉食文化などが入ってきたとされていますが、基本的に牛肉を食べる事は忌避されていたそうです。




