第十二話:乱痴気騒ぎと新たな策
怒涛の四月が終わり、青々とした草葉が芽吹く五月に入った。
学校生活にも特に起きな変化はなく、と思いきやひとつだけ変わったところと言えばーー 竜之介に対する桜華の態度だ。あの保健室での出来事以降、毎日のように絡みにいくのだが、あえなく撃沈。あれやこれやと策を講じて気を引こうとするも、特に進展がないまま月日が流れていた。
「あやつ…。ムカつくわい。
このわし自らが話しかけてやっているのに!『おう』とか『知らん』とか、終いにはわしを
見るなりどっか行きよった…。流石にちょっと酷くはないか!?」
「まあ、あんな毎日懲りずにグイグイ来られたら流石にねー、でも桜華くらいの美人相手にあんな
仏頂面できないよね、普通。ち◯こついてんのかなあいつ」
「ちっ…!? ちょっと凛ちゃん!周りの人に聞かれちゃうよ!」
四人は、二限と三限の間の十五分休みに集まってお菓子を食べながら、いつも通りおしゃべりをしていた。
「それにしても、すーっかり恋する乙女だねえ、桜華さーん」
そう言いながら、椿はニヤニヤしながら桜華の肩をこずいた。
「恋?乙女?このわしが?別にあやつに対して抱いている感情は、色恋のそれというわけではな
いぞ。ただ、相手にされないこの屈辱をいかにして晴らそうかと考えているだけじゃ」
「えー、ほんとにー?じゃあもしさ、あたしが桜華より先に竜之介くんと仲良くなっちゃったらど
するー?」
と、椿が問いかけたちょうどその時、始業開始のチャイムがなったので三人はそれぞれの席に戻っていった。
椿と龍之介が仲良くか。まあ、あの男は誰であろうと興味なさげだしな。万が一にもそんなことは起こるまい。だがーー だがもし、そうなったら?別に何かが大きく変わる訳ではないだろうな。でもなぜだろうか、ほんの少しだけ妬ましいと思ってしまう、かもしれぬ。『恋する乙女』か。なるほど、この気持ちの正体が何かいまいちよくわからんが、確かにこの言葉は言い得て妙かもしれん。
ただ、このままひたすら責めても、何も変わらん。何にか…何かいい機会はないか。
そう考えていると、ガラガラとドアを開け先生が教室へと入ってきた。三限は現代文、担当は桜華たちの学級担任である。そして教壇に立ち挨拶もほどほどに、
『あー、授業始める前に、昨日伝え忘れてたことがあるので、先にお伝えしておくとですね、実
は来週に炊事遠足がありましてですね…班決めとか、役割分担とか颯太諸々やるべきことが大
量にあるんですよ。なので今日のこの時間は、そっちを優先します」
と言った。そしてそれを聞いて、声を上げて喜びだす生徒たち。なんじゃこの乱痴気騒ぎは。
「晴、何がどうなっておる。何故、かようなことになっているのじゃ」
「炊事遠足があるからじゃない?あと、それで授業も潰れたし」
「炊事遠足?なんじゃ、それは」
「んー、自分たちだけでご飯を作って仲を深める、的な?準備も後片付けもぜーんぶ自分たち」
その刹那、わしの頭にはまるで雷が落ちたような衝撃と新たな策が浮かび上がった。
皆で飯を作り、飯をくう。これじゃ!この機会をうまく使えば、あやつを振り向かせることができるはずだ。実際『同じ釜の飯を食う』という言葉があるくらい、その影響力は凄まじい。戦の最中にそれはよく思い知った故、絶対にうまくいく確信がある!
「晴、ここが攻め時じゃ。絶対に逃してはならん。
孫子曰く『勢とは利によりて権を制するなり』まさにその通りじゃ」
「ごめん、よくわかんない」
そういうと桜華は、何かを決心したような面持ちで立ち上がり、皆が班ぎめで盛り上がる中、急足で龍之介のところへと向かった。
*****
机の前に立ち、上から見落とす桜華。そしてそれを気にもしない竜之介。
「おう、竜之介。件の炊事遠足とやら、どうじゃ。わしらと組まぬか?」
「あー…、まあ誰でもよかったんでいいですよ」
此奴は、相も変わらず…まあいい。その仏頂面ができるのもせいぜい今のうちじゃ。
「よし、決まりじゃ。わしら四人とお主の5人だな」
晴たちには何も伝えてないが…、後から謝ろう。
そうして自分の席に帰ろうとしたのだが、急に腕を捕まれた。
「な、なんじゃ?」
「桜華さんたち女子四人の中に、俺一人は無理なんだけど。だからもう一人、こいつ入れて欲し
いんだけど。一班6人までだし別にいいよね。お前もいい?どうせ入るとこないでしょ?」
そういうと、竜之介は前の席の男子に声をかけ、その男は気だるそうな様子で後ろへ振り返った。そしてわしの顔を見るなり、
「うおっ!おっさんみたいな喋り方のべっぴんさんやんけ!驚いたわー、いいのー?俺も入れて
もろて。ほなら、お言葉に甘えさせてもらうわ〜」
などとほざきよった。
……。生前のわしなら、火刑に処していたところだが、竜之介を攻め落とすのが優先、此奴への処罰は二の次じゃ。というかこの喋り方、京の方の出の者か?まあ、おいおい色々と聞いてみることにしよう。
何はともあれ、次なる策は出来上がった。この雪辱、必ず晴らしてやるぞ。
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勢とは利によりて権を制するなり→勢いとは有利な状況を見抜き、その時々に臨機応変に対応することである
(https://sonshi-heihou.com こちらのサイトより引用させていただきました)




