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第二十三話 もう少し、いいですか?

 最後の患者の診察が終わった。


「こちらも、問題ありません」


 医師が一歩下がる。


 神官たちが記録をまとめ始める。


 患者を運び出す準備も始まった。


 大神官オルディオスが、静かに口を開く。


「以上をもって、第二次選定を終了する」


 ミラは、まだ少し苦しそうな患者たちを見つめる。


(選定は終わったんなら、他の患者さんも治していいよね……聞いてみよう!)


「……あの」


 近くの神官を、小さな声で呼び止める。


「どうしました?」


「えっと、もう選定は終わったんですよね?」


「はい」


「でしたら……」


 ミラは患者たちを見る。


「その……他の方も、もう少し治していいですか?」


 神官が目を瞬かせ、大神官の方を見る。


 その声に気づいていたオルディオスが、ミラを見る。


 沈黙。


(……ちょっと怖い人かも……)


 思わず、そう思ってしまった。


(だめだめ、自分。そんなすぐに人を判断しちゃ……!)


「……構わない」


「ありがとうございます」


 ミラは、ほっとしたように微笑んだ。


 (ほら、大丈夫)


 そして、一番近くの患者へ歩み寄る。


「失礼しますね」


 胸元に手を添える。


 淡い光が、指先から広がった。


 しばらくして。


「……なんだ?」


「まだ治療してるのか?」


 観客から、そんな声が上がる。


 医師が患者のもとへ駆け寄った。


 そして。


「……毒の反応が」


 医師の声が震えた。


「さっきより……弱くなっている」


 近くにいた神官が息を呑む。


 その声に、候補者たちも視線を向けた。


 けれど。


 ミラは気づかない。


「次の方、お願いします」


 次の患者へ向かう。


◇


「本日の選定は、すでに終了している」


 オルディオスの声が、大聖堂に響いた。


 ざわめきが止まる。


 神官たちが患者のそばへ立ち、治療を続けるミラをさりげなく囲む。


 選定とは別の治療であることを示すためだった。


「選定結果は、明朝発表する」


 集まった人々が、顔を見合わせる。


「通過した者は、明日の最終選定へ参加せよ」


 神官たちが、静かに頭を下げた。


 観客たちも、少しずつ大聖堂を出ていく。


「明日、結果が出るのか」


「誰が残るんだろうな」


「今日はもう終わりか」


 そんな声が遠ざかっていく。


◇


 ヴェリスは、まだミラを見つめていた。


 患者のもとへ向かうミラ。


 その顔色が、少しずつ悪くなっている。


「隊長」


 レオンが、静かに声をかける。


「時間です」


「ああ……すまない。行こう」


 心配そうなその横顔を見て、レオンが小さく言った。


「……やはり、ミラ様は最後まで寄り添うんですね」


「ああ……」


 ヴェリスは、静かに頷いた。


 最後にもう一度だけミラを見た。


 そして、レオンとともに大聖堂を後にした。


◇


 そんな中。


 一人。


 また一人。


 ミラは患者のもとを回っていく。


「失礼しますね」


 手を添える。


 淡い光。


「……っ」


 痛みが走る。


 それでも、手を離さない。


「もう少しですから」


 「ミラ、聖力を使いすぎたら駄目よ。」


 ベアトリスが心配そうに声をかける。


「大丈夫です。もう少しだけ」


「……もう。本当に相変わらずね」


 呆れたようにため息をつきながらも、ベアトリスの視線はミラから離れなかった。


 そのときだった。


「……あれ?」


 患者たちが、自分の身体を見下ろした。


「身体が……軽い」


 ゆっくりと腕を動かす。


 自由に動いた。


 医師が慌てて駆け寄る。


「動かないでください!」


「でも……」


 身体を起こす。


「普通に、起きられる……」


 医師が脈を取る。


 瞳を確認する。


 そして。


「そんな……毒が、まるで完全に消えているようだ」


 小さな声だった。


 ベアトリスが息を呑む。


「完全に……?」


 自分が治療したときには、まだ症状が残っていた。

 でも、それ以上は癒す事は出来なかった。

 限界だった。


 それが、今は、何もない?


 リディアも患者を見つめる。


「……残留反応まで、なくなってる」


 エリーゼは何も言わない。


 ただ、ミラを見つめている。


 ミラは次の患者へ向かっていた。


「……ありがとうございます」


 治療を終えた患者が、ミラへ頭を下げた。


「本当に、ありがとうございました」


「いえ」


 ミラは笑顔で首を振る。


「よかったです」


(ちょっと苦しいけど、きっと大丈夫!)


◇


 少し離れた王族席では。


 セドリックが、目の前の光景を見つめていた。


「……」


 しばらく黙ったあと。


「……クラウス」


「はい」


「……あれは、どういうことだ?」


「私にも分かりません」


「だろうな」


 そして、わずかに眉を上げた。


「あとで神官に確かめてこい」


「承知しました」


「できれば、詳しくな」


「……かしこまりました」


 クラウスは、ミラへ視線を向けた。


 その隣で。


 セドリックもまた、ミラを見つめる。


 そして。


「……あ」


 何かを思い出したように、目を見開いた。


 以前、ヴェリスが言っていた言葉。


『目の前の人を見捨てない人です』


 患者のために、まだ治療を続けているミラ。


 その姿を見て、ふっと、口元を緩めた。


「……なるほどな」


 小さく笑う。


「ヴェリスの言った通り、というわけか」


 その声には、どこか楽しむような響きがあった。


 大聖堂の奥では、まだミラの淡い光が消えずに揺れていた。

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