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第十四話 隊長さま、全然落ち着かない

 王都。


 王国騎士団本部。


「隊長」


 執務室の扉が開く。


 レオンハルトだった。


「自由都市から手紙です」


 その瞬間。


 ヴェリスの視線が上がった。


 レオンは見た。


 絶対速かった。


「……何だ」


「いえ別に」


 レオンは笑う。


「今、めちゃくちゃ速かったですよね」


「気のせいだ」


 気のせいではなかった。


 封蝋を見る。


 教会の印。


 ヴェリスは静かに封を切った。


 数秒。


 読む。


 そして。


 固まった。


「隊長?」


 返事がない。


「何かありました?」


「猫の赤ちゃん貰い手見つかったんでしたよね?」


 しばらくして。


「……選定会だ」


「は?」


「彼女が選ばれた」


 一瞬。


 レオンが目を丸くした。


「大聖女選定会ですか?」


「ああ」


 レオンは納得した。


 むしろ遅いくらいだ。


 あれだけの力。


 あの人柄。


 知られれば選ばれる。


 当然だった。


 だが。


 ヴェリスは少しも嬉しそうではなかった。


「……隊長?」


「何だ」


「顔怖いです」


「そうか」


「そうです」


 レオンは肩をすくめた。


◇


 聖女。


 王国でも希少な存在。


 特に十代半ばから二十代半ば。


 力が最も強い時期の聖女は貴重だった。


 貴族達は欲しがる。


 聖女を妻に迎えることは名誉。


 家格の上昇。


 権威の象徴。


 そして。


 聖女の血を引く子供は優秀になる。


 そんな話を、


 王国中の誰もが信じている。


 実際。


 王族、名門貴族には元聖女の母を持つ者が多い。


 ヴェリス自身もそうだった。


 だから。


 選定会は。


 王国中の有力者達が集まる場所でもある。


 ◇


「なるほど」


 レオンが笑った。


「嫉妬ですか?」


「違う」


 即答だった。


 少し早かった。


「へぇ」


「心配しているだけだ」


「へぇぇ」


「レオン」


「すみません」


 全然反省していない顔だった。


◇


「でもミラ様、人気ありましたからね」


 レオンがふと思い出したように言う。


「……そうか?」


「そうですよ」


 むしろ何故気付いていないのか。


「商会長の息子」


「町長の次男」


「騎士もいました」


「……」


「教会へ通う理由が聖女様だった奴もいましたし」


「イザリアが自由都市で良かったですね。

 貴族領ならとっくに領主様に目をつけられていたでしょうし」


 ヴェリスが眉を寄せる。


「そうだったか」


「知らなかったんですか」


「知らん」


 レオンは吹き出した。


「神父様が全部追い返してましたよ」


「……そうなのか」


「目が据わってました」


「目が?」


「ミラ様に近付く男を見る時だけ」


 ヴェリスが黙る。


 少し想像した。


 容易だった。


「……あり得るな」


「でしょう?」


 レオンは笑った。


 だが。


 ふと。


 笑みを引っ込める。


「隊長」


「何だ」


「神父様いないんですよ」


 沈黙。


「王都には」


 一瞬だけ。


 ヴェリスの表情が固まった。


「……そうだな」


 低い声だった。


◇


 その日の夜。


 ヴェリスは手紙を書いた。


 王都到着の日。


 迎えに行くこと。


 離宮まで送ること。


 道に迷わないよう案内すること。


 何度も読み返してから封を閉じた。


◇


 六日後。


 返事は来ない。


◇


 七日後。


 まだ来ない。


◇


 八日後。


「隊長」


「何だ」


「元気ないですね」


「そうか」


「返事まだです?」


 沈黙。


 図星だった。


 レオンは笑いを堪える。


(役得だな)


 誰が信じるだろう。


 王都中の令嬢が憧れる男が。


 公爵家嫡男が。


 王国最強の騎士のひとりが。


 一人の女性からの返事を待っている。


 しかも本人は、


 それを恋だと認めていない。


(面白すぎるだろ)


◇


「忙しいんじゃないですか」


「そうだろうな」


「あるいは」


 一拍。


「他に男がいるとか」


 空気が止まった。


「……は?」


 低い。


 かなり低い。


 レオンは即座に悟った。


(言い過ぎた)


「いや冗談です」


「……」


「冗談ですって」


 無言。


 だめだ。


 本気で考えている。


◇


 翌日。


「隊長ーーーー!!」


 勢いよく扉が開く。


「来ましたよ!!」


 教会の封蝋。


 一瞬でヴェリスの手に消えた。


 レオンは見た。


 絶対奪った。


 数秒後。


 ヴェリスの表情が緩む。


 レオンの口元にも、自然と笑みが浮かぶ。


「何て?」


「到着日に会えるそうだ」


「ふん」


「案内も頼まれた」


「ふんふん」


「迷子になると困るからな」


 レオンは天井を見た。


 違う。


 絶対違う。


 そろそろ気づくでしょ。


◇


 窓の外。


 初夏の風が吹いていた。


 ヴェリスは、届いたばかりの手紙をもう一度見る。


 ほんの少し、


 口元が緩んだ。


 そして。


 眉を寄せる。


 選定会。


 その言葉を、もう一度だけ目で追った。


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