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処刑された公爵令嬢は竜となって蘇る(※復讐は竜をも狂わせます)  作者: ゆうらり薄暮


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8 人化の術 後編



 翌朝、私は少しだけ緊張して目を覚ました。


 理由は、分かりきっている。


 今日は――もう一度、人の形になる練習をする日だからだ。


 ◇


 私は、朝食を終えてから、そわそわと落ち着きなく尾を揺らしていた。


「……」


『……』


「……」


 その様子を、お兄様が無言で見ている。


『……なに見てるんですの』


「尻尾」


『今は生えてますわよ!』


「昨日はなかっただろ」


『それはそうですけど!』


 私は、ぷいっと顔を背けた。

 そこへ、お母様が紅茶を一口飲んでから言った。


「もう一回、やる?」


『……はい』


 即答だった。

 声が少し裏返ったけれど、気にしない。

 お父様が、新聞のような紙束を畳みながら言う。


「無理はするなよ」


『昨日より、ちゃんとできますわ』


「根拠は?」


『……気合ですわ』


「不安だな」


 ◇


 場所は、昨日と同じ裏庭。

 妖精たちは、今日も遠巻きだ。


『今日は爆発しませんよね……?』


『しませんわ』


『昨日もそう言ってました……』


『今日は自信がありますの』


『……』


 信じていない目だ。

 失礼な。

 私は、草の上に立った。


 昨日より、少しだけ姿勢を意識する。


『……やってみますわ』


『どうぞ』


 お母様は、腕を組んで見守っている。

 お父様は、少しだけ近い位置。

 お兄様は、木にもたれている。


 全員いる。

 それだけで、ちょっと安心する。


 私は、目を閉じた。


 昨日の感覚を思い出す。


 ぐにゃり、と世界が歪む手前の、

 あの変な感じ。


 翼を「しまう」んじゃなくて、

 存在しない場所に戻す。


 尾を――


 『……なくす』


 私は、魔力を動かした。


 ◇


 ――ぐにゃ。


 昨日より、歪みが小さい。


 身体の重心が、ゆっくり変わる。


 膝が、少しだけ震えた。


 でも――倒れない。


「……」


 私は、そっと目を開けた。


 前足は、ない。


 腕がある。


 胴体は細くて、

 胸が上下していて――


 そして。


「……!」


 私は、ゆっくり背中を見た。


「……」


 尾が、ない。


「……っ」


 思わず、両手でお尻のあたりを触った。

 つるりとした肌があるだけでいつもは元気に跳ね回る私の尻尾は存在しなかった。


「……ありませんわ……」


 声が、震えた。


 お母様が、少しだけ目を細める。


「成功」


 お兄様が、鼻で笑った。


「やっと人間だな」


「まだ半分ですわ」


「尻尾ないだろ」


「……ありませんわ……」


 私は、もう一度、自分の手を見る。


 昨日と同じ手。

 でも、今日は少しだけ安定している。


「……できましたわ」


 お父様が、静かに頷いた。


「うん。よくやった」


 その一言で、胸の奥がふわっとした。


 ◇


 次の問題は――


「……歩ける?」


 だった。


 私は、恐る恐る、片足を前に出した。


 ぐらっ。


「……っ」


 お兄様が、反射的に一歩前に出る。


「来ないでくださいまし!!」


「なんでだよ」


「自力で立ちたいんですの!!」


 私は、歯を食いしばって、もう一歩。


 ぐらぐら。


 竜の身体と違うこの小さく脆い身体はなんとバランスのとりにくいことだろう。

 でも、なんとか、立った。


「……た、立てましたわ……」


 その瞬間、膝が笑った。


「うわ」


 私は、盛大に尻もちをついた。


「いたっ……」


 草の感触が、また直接的だ。


 昨日より、もっと痛い。


 お母様が、くすっと笑った。


「人間っぽい」


「お母様、それ褒めてますの?」


「うん」


 お父様が、私の前にしゃがみ込み外套をかけてくれる。

 人化の術だけでは竜の時のように全裸のままだ。

 お母様やお父様、お兄様のように人化の術と同時に魔力を織り上げて服を着ることがまだ私にはできない。


「焦るな。筋肉の使い方が違う」


「……竜の脚って、便利でしたわね……」


「だろ」


 私は、お父様の手を借りて、もう一度立ち上がった。


 今度は、転ばなかった。


 ◇


 最後は――鏡だった。


 屋敷の中に戻って、姿見の前に立つ。


 私は、外套を羽織ったまま、そっと鏡を見る。


「……」


 息を、止めた。


 そこにいたのは――


 白銀ではない。

 金でもない。


 深紫に、銀が混じった髪。

 少し幼い輪郭。

 濃紺の瞳。


「……」


 私は、ゆっくり鏡に近づいた。


 指で、頬を触る。


 ちゃんと、触れている。


「……お母様に、似てますわ……」


 ぽつり、と言った。


 お母様は、少しだけ目を伏せた。


「うん」


 お父様は、何も言わなかった。


 でも。


 その沈黙が、なぜか胸に残った。


 ◇


 その夜。


 私は、また人の形で寝台に入った。


 布団が、昨日より重い。


 でも――落ち着く。


「……」


 私は、天井を見つめながら、そっと呟いた。


「……私、人間にもなれる竜ですのね」


 それは、ちょっと誇らしくて。


 ちょっと怖くて。


 でも――


 すごく、わくわくした。


 ――この小さな一歩がやがて人間の世界へ踏み出す扉になることをこの時の私は、まだ知らなかった。


※完結まで毎日投稿です。

よろしくお願い致します。

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