後日談 午後のティータイム
巣は今日も穏やかだった。
泉の水は変わらず落ち。
結界の灯は妖精たちが勝手に磨き。
巣の前には小さな石卓が置かれている。
竜の巣にしては、ずいぶん生活感がある。
その石卓の前で、シャルルが真剣な顔をしていた。
「今日はちゃんと淹れる」
「前もそう言っていたわ」
ヴィーラは翼を半分だけ畳みながら言う。
彼女は人型だが、完全には隠さない。
気分だ。
妖精が三匹、石卓の縁に腰かけている。
ひとりは砂糖を抱え。
ひとりは花びらを運び。
ひとりはカップの縁でくるくる回っている。
「やめなさい」
ヴィーラが低く言うと、妖精はぴたりと止まる。
「お前ら、今日の主役は俺だからな」
シャルルは茶葉を慎重に注ぐ。
千年経っても、彼はこういう時だけ妙に真面目だ。
「番に茶を淹れるのは人間の作法だろ」
「そう」
「俺は元人間代表」
「勝手に代表を名乗らないで」
ヴィーラは淡く笑う。
その笑いは、もう破壊の前触れではない。
ただの機嫌だ。
湯気が立つ。
谷の風に乗って、花の香りが混じる。
シャルルが差し出す。
「どうだ」
ヴィーラは一口。
目を細める。
「……悪くないわ」
「悪くない、は合格か?」
「一年経ってようやくね」
妖精たちが小さく拍手する。
シャルルは胸を張る。
「進化してるだろ」
「人間の寿命は進化で伸びるのかしら」
「半竜だからな」
「便利ね」
そう言いながら、ヴィーラは翼の先でシャルルの膝を軽く叩いた。
ほんの一年前の彼女はこんな時間を持てるだなんて想像しなかっただろう。
今は。
茶の湯気と。
番の呼吸と。
妖精の羽音だけだ。
それで、十分だった。
読んでくださり、ありがとうございました。
もし少しでも楽しんでいただけましたら⭐︎やブクマで応援していただけると嬉しいです。
☆☆☆☆☆→★★★★★ (*_ _)人




