表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処刑された公爵令嬢は竜となって蘇る(※復讐は竜をも狂わせます)  作者: ゆうらり薄暮


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/58

54 裁判



 裁判は、朝だった。


 祝福も宣告もなく、ただ扉が開き、名が呼ばれる。


「ヴィーラ・ド・ラ・リュミエール」


 それだけ。


 私は立ち上がる。


 鎖はつけられなかった。

 逃亡の意思などないと、最初から決めつけられている。

 いや、できないと思われているのだろう。

 それはそうだ。

 私に公爵令嬢という身分が無ければ、ただの非力な女にすぎない。


 白い回廊を歩く。


 窓はない。

 風もない。

 磨かれた石がやけに冷たい。


 王城は、いつも通り整っていた。

 私が罪人になっても何一つ乱れない。


 ◇


 裁判所は、小さかった。


 玉座の間ではない。

 民衆に開かれた大広間でもない。


 静かに終わらせるための部屋。


 中央に裁判長。

 両脇に評議員。

 そして少し高い位置に――


 アンリ殿下。


 私は、息を止めた。


 ここにいる。


 逃げてはいない。

 隠れてもいない。


 私は彼を見る。


 彼は私を見ない。


 罪状が読み上げられる。


 王太子暗殺未遂。

 王家への反逆。


 言葉だけは重い。


 だが、その声には何もない。

 ただ決定事項を並べるための声。


 証拠の毒薬。

 私の部屋から出たという事実。

 殿下の動線を知っていたという証言。


 私は口を開く。


「それは――」


「静粛に」


 木槌が鳴る。


「被告人の発言はこれ以上不要です」


 不要。


 その一言が、やけに鮮明だった。


 私は、その瞬間理解した。


 この場に必要なのは、真実ではない。


 整った“結論”だけだ。


 傍聴席の最前列に父がいる。


 やつれた顔。

 唇が、わずかに動く。


 ――すまない。


 私は、小さく首を振る。


(お父様のせいではありません)


 それだけは、本当だ。


 父は戦った。

 けれど、この国は王族のものなのだ。


 それでも私は、アンリ殿下を見た。


 五年。


 並んで歩いた時間。

 書庫で交わした静かな会話。

 雨の日に掛けられた外套。


 あれは、嘘だったのか。


 彼なら止めてくれるのではないか。


 けれど。


 彼の視線は、常に少しだけ右を向いている。


 隣に立つ桃色の髪。


 伏し目がちな微笑み。


 私の元親友。


(……ああ)


 胸の奥が、ひどく静かになる。


 私は、もう理解し始めていた。


 ◇


「最終陳述を許可する」


 形式だけの言葉。


 私は前へ出る。


 膝が震えている。


「わたくしは、無実です」


 声は思ったよりも澄んでいた。


「殿下に危害を加える理由はありません」

「王家に背く理由もありません」


 それは事実だ。


「……わたくしは、殿下を信じていました」


 その瞬間。


 アンリ殿下の指が、ほんのわずかに動いた。


 だが、それだけ。


 立ち上がらない。

 否定もしない。


 裁判長が書類を閉じる。


「以上で審理を終える」


 あまりにもあっさりと。


 五年は、紙一枚より軽く畳まれた。


 ◇


 連れ出される直前。


 私は最後に彼を見る。


 今度は、目が合った。


 ほんの一瞬。


 彼の唇が、わずかに弧を描く。


 穏やかな、いつもの微笑み。


 だが、そこに迷いはない。


 私を見ているのに、

 私を選んでいない目。


 その瞬間。


 首の後ろが、じりと熱を帯びた。


 まるで見えない火に近づけられているように。


(……終わったのだわ)


 裁かれたのではない。


 終わらせられた。


 私という「お飾りの女」が不要になっただけ。


 扉が閉まる。


 音が、やけに乾いて響く。


 そして私は理解する。


 処刑は、これからではない。


 ――もう、ここで決まっていたのだと。


※完結まで毎日投稿です。

よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ