37 恋とはどんなものかしら
恋とは、どんなものなのだろう。
それを考えるようになったのは、最近だ。
◇
竜は、長く生きる。
そのせいか、感情を「始まり」で捉えることが少ない。
気づいた時には、もうそこにある。
積もり、絡まり、生活の一部になっている。
怒りも。
愛着も。
執着も。
だから、恋についても深く考えたことはなかった。
人間が言う恋は、もっと派手で急で衝動的なものだと聞く。
視線が合う。
胸が騒ぐ。
触れたいと思う。
けれど。
それなら私が今感じているものは、少し違う。
ルイのことを私はよく見ている。
歩き方。
呼吸の間。
眠る前に一度だけ天井を見る癖。
彼が自分で思っているよりもずっと多くのことを知っている。
それは、私が彼を拾ったからだ。
命の境目にいた彼をこの巣に連れてきたから。
そう思っていた。
だが最近、その理由だけでは説明がつかなくなってきた。
彼がどこで何を考えているのか。
どんな記憶をまだ言葉にしていないのか。
それを「知らないまま」でいることが、どうしても気になる。
――嫌なのだ。
私が知らない彼が、彼の中にいることが。
◇
竜は、所有しない。
それは竜の掟でもあり、私自身の信条でもある。
奪わない。
縛らない。
選ばせる。
だから、ルイの過去を無理に聞こうとは思わなかった。
彼が話すまで待つと決めていた。
それなのに。
彼が一人で外へ歩いて行く背中を見るたび、
胸の奥で何かが微かに軋む。
連れ戻したいわけではない。
止めたいわけでもない。
ただ。
戻ってくると、信じたい。
その感情に名前をつけるなら、
それはもう「保護」ではないのだろう。
人間は短い。
その事実は、ずっと知っている。
たった数十年ぽっちしか生きていない私だけど。
知識として。
理として。
だが、ルイと並んで季節を数えるようになってから、
それは現実の重さを持ち始めた。
彼の時間は、私より早く進む。
私が気づかない間に終わりへ近づく。
それを思うと触れない距離を保つことが、時々ひどく難しい。
触れれば、進んでしまう。
進めば、戻れない。
それでも。
触れたいと思ってしまう自分をもう否定できなくなっている。
恋とは、どんなものか。
人間の言葉で定義するならきっと「相手の不在を想像してしまうこと」なのだろう。
ルイがここにいない屋敷。
彼の足音がしない回廊。
名を呼んでも、振り向かない背中。
それを思い浮かべてしまう時点で、
私はもう、竜としては少し不出来なのかもしれない。
けれど。
それでもいい、とも思っている。
◇
今日も、彼は窓辺にいた。
呼べば、振り向く。
触れなくても離れていない。
今は、それでいい。
恋がどんなものか、まだ分からない。
だが少なくとも――
私は、彼を失う前提では考えられなくなっている。
それが恋でなくて、何だというのだろう。
ヴィーラは、そう思いながら、
そっと名を呼んだ。
「ルイ」と。
返事が返ってくることを疑いもせずに。
※完結まで毎日投稿です。
よろしくお願い致します。




