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処刑された公爵令嬢は竜となって蘇る(※復讐は竜をも狂わせます)  作者: ゆうらり薄暮


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3/11

3 竜の里へお出かけ



 私たちはそのまま屋敷の外へ出た。

 お父様が先に竜の姿になり、お母様がそれに続く。

 白銀と金が混じった巨大な影と、白銀そのものみたいな影が並ぶ光景は、何度見ても少しだけ現実味がない。


 お兄様は最後だった。

 わざと私の前で一拍置いてから白銀と金の混じった若竜の姿になる。


『遅い』


『お兄様が一番最後でしたでしょう』


『余裕の演出』


『性格が悪いですわ』


『褒め言葉だな』


 私は尾で軽く地面を叩いた。

 お兄様は鼻先をこちらに寄せてくる。


『飛べるか?』


『……少しなら』


『落ちたら拾う』


『縁起でもないことを言わないでくださいまし』


 でも、そう言われると少し安心する。

 私は翼を広げ、地面を蹴った。


 風が頬を撫でる。

 屋敷が小さくなる。

 お母様の白銀がすぐ横にあるのが見える。

 お父様の金銀が少し前を飛んでいる。


 私は、飛ぶのが好きだった。

 理由はよく分からないけれど。

 でも実は竜の里までの飛行は仔竜の私では体力がギリギリなのだ。


 ◇


 竜の里は、相変わらず静かだった。

 重い静けさ。

 でも嫌いじゃない。


 岩棚の影や洞穴の奥から何頭もの竜がこちらを見ている。

 近づいてこない。

 でも、ちゃんと見ている。


『おはようございます』


 私がそう言うと、空気が少し揺れた。

 返事だ。


『……おはよう』


『小さいな』


『きれいな色』


 私は少しだけ胸を張った。

 この色は、昔からちょっとした自慢だ。


 その時、少し離れた場所に、私とよく似た色の竜がいるのに気づいた。

 深紫に銀が混じった鱗。


『……あ』


 思わず声が漏れる。


『ほら、いるだろ』


 お兄様が言う。

 何度も訪れてはいるが私と同じような色をした鱗の竜を見るのは初めてだった。


『私だけじゃないんですね』


『当たり前だ。里は広い』


 でも、その若竜の隣にいる親らしき竜は、まったく違う色だった。

 赤銅色と濃い青。


 私は、ほんの少しだけ首を傾げた。


『……お父様』


『ん?』


『あの方、親御さんと色が違います』


 お父様は一拍置いた。


『……よく見ているな』


 私はちょっと誇らしくなる。


『私も、ですよね』


『そうだな』


『どうしてなのでしょう』


 その問いに里の空気がほんの一瞬だけ止まった気がした。

 気のせいかもしれない。


 お父様は、私の頭にそっと鼻先を寄せた。


『それはな』


 一拍。


『お前の魂の色なんだよ』


『……たましい?』


『前からずっとそこにあった。お前自身の色だ』


 私は少し考えた。


『……つまり、すごいってことですの?』


『そういう解釈でいい』


『でしたら、良いですわ』


 深く考えるのは得意じゃない。

 私は今の色が好きだし、お父様がそう言うならそれでいい。

 ただちょっと、大好きなお母様とお父様とお兄様に似た色だったならと考えてしまうだけなのだ。


 お母様が静かに頷いた。


『きれいよ』


 その一言でもう十分だった。


 ◇


 里を一回りしたあと、私たちは岩棚に腰を下ろした。


 私はお母様の翼の影に入り込む。

 ちょうどいい温度でちょうどいい暗さ。


『……ねえ』


『なに?』


『私、ちゃんと竜ですわよね』


 お母様は、すぐには答えなかった。

 でも、否定もしなかった。


『ええ』


 一拍。


『ちゃんと、あなたよ』


 私はその言葉をよく分からないまま、でも大事に胸の奥にしまった。


 お兄様が横から言う。


『お前は弱いけど』


『余計ですわ』


『でも、うちのだ』


『それは当然ですわ』


 でも、尾は勝手に揺れてしまった。


 ◇


 その日の帰り道。

 私はお父様の背中に乗っていた。


『……お父様』


『ん?』


『私、幸せです』


 お父様の羽ばたきが一瞬だけ緩んだ。


『それは良いことだ』


『ずっとこのままがいいですわ』


『……そうだな』


 お母様の白銀が横を飛んでいる。

 お兄様の金銀が少し後ろをついてくる。


 私は目を閉じた。


 この時間が、ずっと続くと思っていた。


 世界は安全で。

 私は愛されていて。

 何も疑う理由なんて、どこにもなかった。


 ◇


 ――あの処刑台の記憶が、私の魂の奥に眠っていることをこの時の私は、まだ何も知らなかった。


※完結まで毎日投稿です。

本日のみ1日3話投稿、3話目。

よろしくお願い致します。

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