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処刑された公爵令嬢は竜となって蘇る(※復讐は竜をも狂わせます)  作者: ゆうらり薄暮


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24 境界の向こう側



 ルイは、すぐには何も言えなかった。


 頭の中で、点だったものが静かに線になる。


 異様な回復。

 説明のつかない安心感。

 この屋敷で扱われる「命」の軽さと重さの同居。


 そして――自分が、なぜ助けられたのか。


「……だから、ですか」


 声が、少し低くなった。


 思い返せば、あの時。

 倒れていた自分に向けられていたのは、同情でも哀れみでもなかった。


 ただの判断。


 生きている。

 なら、助ける。


「……あの時、俺を」


 拾った。

 運んだ。

 治した。


 言葉にする前に、ヴィーラが首を振った。


「それは関係ありませんわ」


 迷いのない否定だった。


「倒れていたから。生きていたから。それだけです」


 それ以上でも、それ以下でもない。


 それがこの家の基準であり、

 この巣の掟なのだと、ルイは直感した。


 ルイは、視線を落とした。


 本来なら、恐ろしいはずだった。

 竜だと知れば、距離を取るのが普通だ。


 捕食者。

 力の象徴。

 人とは違う存在。


 なのに。


「……納得しました」


 自分でも意外なほど、声は落ち着いていた。


 怖くない理由が、分かってしまったからだ。


 ここでは、自分が“弱いから”守られているわけではない。


 ただ、生きているからここにいる。


 それだけだった。


 ヴィーラは、何も言わなかったが理解したらしい。


「……踏み込みましたわね」


 確認するような声。


「はい」


 短い返事。

 けれど、逃げは含まれていない。


「後戻りは、できませんわよ」


 脅しではない。

 忠告だ。


 境界を越えた者にだけ向けられる、静かな注意。


「……覚悟は、しています」


 ルイの声は、揺れなかった。


 その時、ライハルトが初めて口を開いた。


「そう言うと思った」


 呆れたようでいて、どこか納得した声音。


 拒絶は、なかった。


 ヴィーラは一瞬だけ困ったように笑い、それから少しだけ表情を引き締めた。


「では、正式に言いますわね」


 椅子から立たない。

 威圧もしない。


 けれど、逃げ場のない距離で、ルイを見る。


「ここにいる以上、あなたはもう竜の領域に片足を突っ込んでいます」


 一拍。


 妖精たちの動きが、止まった。


 火が、静かに鳴る。


「それでも、ここにいますか?」


 問いは、優しかった。

 だからこそ、重い。


 ルイは、考えなかった。


 考える時間は、もう終わっていた。


「はい」


 即答だった。


 その夜、何かが壊れたわけではない。


 誰かが変身したわけでも、世界が揺れたわけでもない。


 ただ、ひとつ。


 人と竜を分けていた線が、静かに消えた。


 気づいた者だけが分かる速度で。


 音もなく。


 戻れない場所へと。


※完結まで毎日投稿です。

よろしくお願い致します。

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