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片翼の小鳥  作者: Atyatya


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第百四十話 戦利品

 しばらくして、魔獣の死体が消えると同時に団員の声が小さくなっていく。


 それにしても、エフォードの最後の一撃、あんな高威力の攻撃があるなら初めからやって欲しかった。


 恨みがましい目を後ろに向けると、倒れ伏しているエフォードの姿があった。


「エフォードッ!」


 彼へと駆け寄り、外傷がないかを確認する。


「平気ですよ。魔力がなくなって力が入らないだけなので。それにしても、声が出るようになったのですね。」


 言われて首に手をやる。


 喉の渇きがなくなって、声が戻った。


 あの時、首が繋がったときに正常な状態へと戻ったのかもしれない。


「そんなことより、最後の攻撃は……?」


「魔力矢と言って、矢に魔力を込めて射程と威力を底上げする技なのですが、人族よりも膨大な魔力を保有しているエルフですら一撃でこの有様なのですよ。」


 なるほど、だから最後のダメ押しに使ったのか。


「さて、私のことは話しました。次はシエル君、あなたの番ですよ。さっきのあれは一体なんですか?」


 真剣な眼差しを真っ直ぐに向けられ、たじろいでしまう。


「あなたは首を切られ、頭を潰されたはずです。あなたが神聖術師でなければ幻術の類を考慮に入れますが、そうではない。」


 神聖術師の行使する術は決まっている。


 回復魔術、結界魔術、浄化魔術の三つだけ。


 言い逃れはまずできない。


「それはあたいも気になるねぇ。」


 隣から聞こえる声に振り向くと、オルテナたち三人がこちらにやってきていた。


 遠巻きからは他の団員達から奇異な目を向けられている。


「助けてもらっておいて何だけど、流石に無視できない現象だからね。」


 確かに、助けてくれた人が人ならざる力を見せたなら、自分にも何かされたのではないかという疑念を持ちたくもなるか。


 ……まあ、彼らの目的はここのボスの討伐だったわけだから、目的を達した今、一緒に行動する理由はない。


 いくら嫌われたところで、問題はない。


「僕は――。」


 意を決して口を開くと、二つの衝撃と共に体が重くなる。


 下を見れば、エルトラーナとフォルテシアが僕に抱きついている。


 この状況下でそのようなことをされる謂れはなく、動揺が僕の言葉を遮る。


 助けを求めるようにオルテナやエフォードに視線をやるが、どうやら呆気に取られていたのは僕だけではなかったらしい。


 その一瞬の沈黙が彼女達の鼻を啜る小さな音を僕の耳に運んでくる。


「ありがとう、助けてくれて。」


「お姉ちゃんを助けてくれて、ありがとう。」


 突然の感謝の言葉に戸惑っていると、エフォードがその間を埋めるように言葉を発した。


「すみません。質問よりも先にするべきことがありましたね。」


 ふらふらな状態で体を起こし、手を地面へ付け、深々と頭を下げるエフォード。


 それに倣い、オルテナをはじめとした全団員が頭を下げる。


「この度は我々の命を救っていただき、ありがとうございます。」


 大勢からの感謝なんて初めての経験で、体がむず痒くなる。


「初めてだった……。」


 突然の呟きに下を向く。


 エルトラーナは僕のお腹に顔を埋めながら熱を帯びた声で吐露する。


「初めて思った、死ぬかもしれないって。怖かった……。」


 腰に回された腕の力が強くなる。


「一番強いから、あたしが。みんな死んじゃう、あたしが死んだら。家族だから、みんな。死んでほしくない。」


 そっと、彼女の頭に手をやる。


「助けになれたなら、よかった。」


 家族が死ぬことの辛さはよくわかる。


 共に育ち、共に笑い、共に泣いた家族を失うなんて考えただけでも怖い。


 その恐怖が、自分の死に対する恐怖を上回ったのだろう。


 すごい、と素直に思う。


 こんな小さな子が自分の死を前にして他者を思いやれるなんて。


 あの時の僕はどうだったろうか。


 自分の死と兄ちゃんの死、どちらに恐怖を覚えたのだったか……。


 今となっては思い出すことすら難しい。


「頭を上げて。僕のことを話すよ。」


 そうして、僕は自分の力についてのみ彼らに話した――。


***


「なるほど。神聖力が常に作られ続ける、ですか。」


「死なない体ってもの意外と不便なんだな。傷を負い続ければやがて自分の再生能力によって肉体が原型を保てなくなり、死に至る……か。」


 痛々しいものを見るような目に逃れるように僕は歩き出す。


「そんなことより、これ、開けてみてよ。」


 無理やり話題を変えようと、ミノタウロスの死体があった場所に突如として出現した宝箱を指差す。


 これ以上話したくないと言う僕の気持ちを察してくれたのか、歩くことができるほどに回復したエフォードが近づいてくる。


「そうですね。本日のメインイベントを執り行いますか。」


 エフォードは宝箱に手をかけ、一呼吸おいてから開け放つ。


 大きな宝箱の中に入っていたのは、大きな両刃の斧だった。


 箱に収まるようにするためか、その斧は斧頭と柄に別れている。


 そして、それぞれに魔法陣が刻まれている。


「かっこいいー!」


 エルトラーナが横から顔を出す。


 その表情からは使ってみたいと言う感情が滲み出ている。


「使ってみますか?」


「いいの!?」


 目を輝かせながら柄を握り、斧頭を取り付けようとするエルトラーナだったが、どのように取り付ければ良いのかわからないのか首を捻っている。


 エフォードが見かねて斧頭を貰い受けると、これまた首を捻る。


「どうしたの?」


「いえね、これ、取り付けられないようなのですよ。」


 そう言って斧頭を僕に手渡してくるエフォード。


 まじまじと斧頭を見やるが、確かに柄を取り付けるための穴のようなものは一切存在しない。


「ええー、ゴミ? ただの。」


 しょんぼりとするエルトラーナを横目に僕は刻まれている魔法陣を見やる。


 かなり複雑な幾何学模様だ。


 これでは魔力を流し込んだら何が起こるかわからない。


「エルトラーナ、柄を貸してくれる?」


「……や。」


 エルトラーナに向けて手を差し出し、そう言ってみるがそっぽを向かれてしまう。


 何か癇に障ることでも言ってしまっただろうか。


 もしかして、自分のものが奪われるとでも思われたのだろうか。


 まあ、せっかく手に入れたものを自分よりも他人の方が長時間触っていると少し嫌な気持ちになるのはわかる。


「……呼んで、エーナって。」


「……ん?」


「貸さない、エーナって呼んでくれなきゃ!」


 違った、全く別の理由だったようだ。


 呼び方か、団長のエフォードも確かエルトラーナって呼んでいたような気がするのだが。


 そう思って当の本人に目線をやると、彼はこちらの意図を汲んでくれたのか説明してくれる。


「エルフの民は愛称なんて使わないのですよ。人族よりも名前を神聖視していますから。エルトラーナのことを団員達はみんな副団長と呼んでいて、妹のフォルテシアはお姉ちゃんですからね、愛称で呼ばれるのに憧れていたのでは?」


 なるほど、それで。


「わかったよ。……柄を貸してくれるかな、エーナ。」


「うんっ!」


 満面の笑みで柄を差し出すエーナ。


 柄を握ると同時に、フォルテシアが僕の服の裾を掴む。


「……フォル。」


 呼べ、と言うことらしい。


「わかったよ、フォル。」


 そう言うと嬉しそうに頬を染めて手を離してくれる。


 僕は受け取った柄と斧頭を見比べ、まずは柄に神聖力を込める。


 魔法陣は込める力が魔力だろうと神聖力だろうと起動する、学園で習った通りだ。


 魔法陣が光を放つと手に持っていた斧頭が浮かび上がり、柄の先端にくっつく。


 神聖力の供給を止めてもその状態は維持されている。


 今度は柄を伝うようにして斧頭へと力を込める。


 すると、軽く振った程度ではびくともしなかった斧頭が簡単に取れてしまった。


 どうやら着脱が可能な武器のようだが、これに何の意味があるのだろうか。


 斧頭と柄を分離させたい時なんてそうそうないだろうに。


 僕はそんなことを思うだけに留めておき、鼻息荒くこちらを見つめるエーナに斧頭をつけた状態で手渡す。


 少し離れたところで嬉しそうに振り回しているエーナだったが、突如として大きく振り上げた状態で静止する。


 遠くの壁を見やり、何やら集中している様子。


「えいっ!」


 斧を振り下ろすと同時に斧頭の魔法陣が光る。


 柄と斧頭は切り離され、勢いそのままに斧頭だけが飛んでいく。


 壁に激突する斧頭。


 大きな音と共に崩れる壁。


 射程、威力共に申し分なし。


 でも、もしその一撃が躱されたら?


 やはりこの武器は欠陥品なのかもしれない。


 そう思ったのも束の間、今度は柄の部分の魔法陣が光る。


 すると、瓦礫の下敷きになっていた斧頭が勢いよく飛来し、柄の先端に収まる。


 ……前言撤回。


 あの膂力で振り回される射程の長い斧。


 相手からすれば、恐怖でしかないな。


 取り敢えず、人に向けてはいけないことだけは早めに伝えておこう。

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