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片翼の小鳥  作者: Atyatya


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第百四十一話 人探し

「さて、目的も達成しましたし、一度外に出ましょうか。」


 エフォードがそう言うと、団員達は頷き、荷物を背負う。


「シエル君はどうしますか? よければ私たちと……。」


 僕はその言葉を首を振るだけで断る。


「そうですか。――あなたがダンジョンに固執する理由はわかりませんが、いつの日か、その苦悩が喜びに繋がることを祈っています。」


「ありがとう。」


 彼は痛々しいものを見るような表情を浮かべながら頭を下げてくる。


「一緒に来ないんだ、シエルは……。」


 残念そうに口を尖らせたエーナが下から僕の顔を覗き込んでくる。


「うん。まだ目的の途中だからね。」


「そっか……。しょうがないね、それなら。」


 初めこそ暗い表情を見せていた彼女だったが、納得と同時に切り替え、元気よく笑う。


「シエル、じゃあまたね。」


 手を上げて最後の挨拶をしてくれる彼女にこちらも笑顔で返す。


 すると、団員全員が驚愕の表情で固まっていることに気がつく。


「ふ、副団長が……気に入ったやつを連れて帰らないなんて。」


「お、お姉ちゃん、風邪でも引いたの。」


 エーナに駆け寄り、おでこに手をやるフォル。


「大変だ! 普段病気になんてかからない副団長が、病気に!!」


「何の病気だ!? 治るのか?!」


「死んじゃやだよ、お姉ちゃん。」


 皆が一様に騒ぎ立て、フォルなんかは涙を流す始末。


「みんな、どうしたの?」


 戸惑っているのは僕だけではなく、当の本人も困惑しているようだ。


「だって、お姉ちゃん、いつもは気に入った動物は魔獣だろうと何だろうと是が非でも持って帰ろうとするから……。」


 是が非でもって、よほど執着するタイプのようだ。


 でも、そんな彼女があっさり帰るのは確かにおかしい。


 とすると、興味をなくす要因が僕にあったということだ。


 心当たりは一つしかないな。


「そりゃあ、連れて帰るよ、変わった動物好きだもん。」


 僕が、化け――。


「でも、違うじゃん、シエルは。変わった動物でも亡霊でもなかった。ただの人間。犯罪だよ、人間を無理やり連れて帰ったら。」


 ただの人間。


 その言葉には嘘偽りが全く感じられない。


 自分のやりたいに素直な彼女だからこそ、こんなにも嬉しいんだ。


 化け物ではなく、人間として扱ってくれる人が彼女達以外にもいる事が何よりも嬉しくて、涙腺が緩むのを感じる。


「……早くみんなに会いたいな。」


 ボソッと誰にも聞かれないように独りごちる。


 すると、突如として肩が重くなったような錯覚を覚える。


 チラリと肩を見やると、そこには誰かの手が乗せられており、ゆっくりと、その手の持ち主が顔を覗かせる。


「忘れたんですか?」


 エレノアの声は僕にしか聞こえていないのか、誰一人として騒ぐ様子がない。


「お前が一緒にいれば、みんな死ぬ。」


 逆の肩からは兄ちゃんの顔が。


「忘れてない。忘れるわけがない。もっと強くならないと、誰も守れない。」


 もう後悔はしたくないから、自分の力を最大限に利用して強くなるんだ。


「ん? シエル、何か言った?」


 フォルがこちらを向くと、肩にかかっていた重さがなくなる。


「ううん、何でも。フォルもまたね。姉妹仲良く、ね。」


 僕の言葉がいささか疑問だったのか、キョトンとした表情のまま頷くフォル。


 その後、みんなを送り届けた僕はまた一人ダンジョンの攻略に勤しむのだった――。


――――――


「いやー、今日もあの子のおかげで助かったねー。」


 ダンジョン前。


 帰路に着くのであろう冒険者の一団から声が聞こえてくる。


「だな。攻撃から守ってくれるわ、怪我も治してくれるわ、やっぱ神聖魔術師が一人いてくれると助かるよな。」


「この都市にいる神聖術師のほとんどが法外な金銭を要求してくるからな。もし、ダンジョンに連れて行こうものなら……うう、考えるだけで恐ろしい。」


 教会に所属している術師なら聖都で定められた適正価格で治療を施してくれるが、フリーで活動している輩は時折法外な報酬を要求する事があると聞く。


 とは言っても、それは教会のない田舎町や村での話。


 正当な金額で治療してくれる教会があるのなら、わざわざ高額な治療を受ける必要がないからだ。


 彼らはそれを知らないのだろう。


 しょうがない。


 どれ、教えてやる代わりに人探しを手伝ってもらうか。


 そう考え、私は彼らに近づく。


「すまない、話が聞こえてしまってな。知らぬようなので、一つ情報を渡そうと思うのだが、代わりに人探しの手伝いをしてもらいたい。」


 突然話しかけたからか、怪訝な表情を浮かべる彼ら。


「人探しの手伝いって、俺たちも暇じゃないんだ。」


「ああ、すまない。手伝いといってもそちらの持つ情報を提供してもらえればそれでいい。もちろん知らないと言う情報でも構わない。」


「まあ、その程度なら別にいい、かな。」


「まずはそっちの情報とやらから頼むぜ。」


 よし、取り敢えず話は聞いてもらえそうだ。


 私は胸を撫で下ろし、彼らに教会の治療の金額について教えた。


 彼らにとってこれは目から鱗が出るほどの情報のはずだったのだが、なぜか私は大いに笑われてしまった。


「何だあんた、知らないのか?」


「この都市は神聖術師の需要が高いからか、フリーの術師は軒並み高額だ。でも、教会が適正価格で治療するなら、もう少し値段の高騰を抑えられたはず……つまり?」


「教会も不当な金額で治療を行っている?」


「そう、だからみんな怪我しないように慎重に攻略を進める必要があるってわけ。」


「だが、外から術師を連れてくれば……。」


「無駄だよ。それをすれば確かに顧客は確保できる。でも、みんな気づいちまうのさ、もっと値段を釣り上げる事ができるってな。」


「それに、安価で依頼を引き受け続けると教会から目をつけられるし、ね。」


 これは、報告を上げるべきだな。


 あの大司教、どこか胡散臭いと思っていたが、神の教えに背いているとはな。


「まあ、あんたの情報は大した事なかったわけだが、笑わせてもらった礼だ、一つだけなら答えてやるぜ。」


「助かる。では、シエルと言う神聖術師の少年を知らないだろうか? 一ヶ月ほど前にダンジョンに潜ったところまでは掴めているのだが、それ以降行方が分からなくてな。」


 私の問いかけに驚いた表情を浮かべた彼らはそれぞれが顔を見合わせ、一人が先を行っている集団へと駆けていく。


「悪いが、その件は団長に聞いてくれ。勝手に話していいのか、俺たちには判断がつかねぇ。」


 そう言って連れて来られたのは眼鏡をかけたエルフの男だった。


「これはこれは、ティエーラ聖皇国の聖騎士様。何でも、シエル君を探されているとか。」


「知っているのか?!」


「ええ、知っています。ですが、まずは彼の居場所を知ってどうするのか、事前にお話いただけますか?」


 端正な顔つきに凄まれ、一瞬たじろいでしまう。


 けれど、ようやく見つけた手掛かりだ。


 みすみす逃す手はない。


「詳しくは話せないのだが、訳あって、私たちは彼を保護したいんだ。そのために彼の居場所が知りたい。」


 信託のことは誰にも言えない。


 よって、こんな言い回しになってしまうのは致し方ないのだが、それで納得できるはずもなく、エルフの男は目つきを鋭くする。


「その訳とは? 保護された先に自由はあるのですか? そもそも彼はそのことを知っているのですか?」


「うっ。訳は……言えない。私にはその権限がない。」


 どうする?


 このままでは唯一の情報源が失われてしまう。


 ……そう言えば、エルフ族は宗教こそ立ち上げてはいないものの、私たちと信仰している神は同じはず。


 であれば、信託の内容さえ話せば理解を得られるかもしれない。


「話になりませんな。私たちはこれでも忙しいのでね、失礼しますよ。」


「ちょっと待ってくれ! 私の口から訳を話すことはできない。だが、聖女様なら別だ。一度、聖女様と会ってくれないか?」


「っ!? 聖女様がこの都市に? ……それは無下にはできませんね。私の名前はエフォードと言います。突然出向いても迷惑でしょう、二日後でいかがですか?」


「いや、なにぶん急ぎなのだ。明日でお願いしたい。」


「承知しました。」


 それだけ言って男は早足に去っていく。


 エルフ族の始祖は神に名を与えられたことにより膨大な魔力と長寿の力を授かったとされている。


 彼らにとって神の言葉は絶対であり、何ものよりも優先するべきこと。


 ゆえに、世界で唯一神の声を聞くことのできる聖女を自分たちの女王よりも敬っているものが大半だ。


 けれど、一部では人族に媚び諂うことを嫌うものもいる。


 彼が後者だった場合のことも考えて警備は厳重にする必要がありそうだ。


 だが、前者であれば、心強い味方になるに違いない。


 私もようやく良い報告が上げられると、安心半分不安半分といった心持ちで帰路についた。

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