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次の日も佐崎は学校を休んだ。
僕は今日も佐崎に会いに行った。
「・・・」
佐崎は黙ってベッドに座っている。
「決心はついた?」
「・・・」
僕が佐崎に問いかけると、佐崎はゆっくり答えた。
「・・・無理」
「何で?」
「立ち直れない」
佐崎はうつむいて僕を見ようとしない。
「・・・立ち直る・・・か」
僕はポツリとつぶやいた。
佐崎が少し顔を上げる。
「僕も、佐崎とは違うけどさ、すっごい落ち込んでた。
ここの学校は行ったばっかりのとき、まだ全然立ち直ってなかったんだ。
人と壁を作りたいって思ってたし、周りばっかり気にしてた。
でも、そんな時に声をかけてくれたのは、佐崎だろ?」
「それが・・・なんだよ・・・」
「だから、気づかない間に人って元気になってるもんだよ」
「ふざけないでくれ!」
佐崎が叫んで立ち上がる。
「僕と君は・・・違うだろ?立ち直れなくなった理由だって違う・・・全部一緒にしないでくれ!」
「・・・」
僕は佐崎を見上げた。
「もう、自分自身がわかんないんだよ・・・僕は、何の為に存在してるのかも・・・」
佐崎がベッドに倒れこんだ。
「・・・また見つけに行けばいい」
「え?」
「自分自身が分からなくなったら、また見つけに行けばいいだろ?」
僕が佐崎に言う。
佐崎は顔に手を置いたままで何も言わない。
「前に進まなきゃ、自分は見つけられない」
そういってくれたのは・・・佐崎だろ?
あの夕焼けに染まっていた川原で、僕にそういってくれたのは、佐崎じゃないか。
「佐崎も・・・前に進もう?僕らがいるから」
空は、あの日よりもずっと早い時間のはずなのに、もう真っ赤だった。
「・・・一人で父さんになんか・・・会いに行けない・・・」
「じゃあ、僕が付いていってやる。二人なら、ダイジョウブ」
佐崎が顔を上げた。
「瀬斗・・・」
「だって、佐崎は、僕らの仲間だろ?」
僕はそういって佐崎に笑いかけた。
「仲間・・・」
「そうだよ。そういったのも・・・仲間だって言ったのも、お前じゃないか」
佐崎に右手を差し出す。
「親父さんに会いに行って、前に進もう。前に進めば、いつか立ち直れる日が来る」
佐崎は僕の小さな手を大きな手でぎゅっと握った。
あの日と同じ握手。
あの日と同じ・・・でも、ちょっと大人びた手。
「僕らの時代は、これからだろ?」
僕の笑顔に、佐崎がうなずく。
僕らは、夕焼けに染まった空を眺めてから家を後にした。




