45
「全てうまくいくことなんてありえない」
佐崎はボソリとつぶやいた。
「・・・」
「父さんに会って言われたんだ・・・いや、僕が甘かっただけかもしれないけど」
唇をかみ締める佐崎。
僕はその様子をただ見つめていた。
「お前なんか、息子じゃない」
「え?」
「そういわれたんだ」
オマエナンカ、ムスコジャナイ
呪文のようにその言葉が頭を離れない。
オマエナンカ、ムスコジャナイ
「信じて相手に接すれば、全部うまくいくと思っていた。
でも・・・違ったんだ。
僕は、父さんを信じて会いに行ったのに、父さんは僕のことを・・・赤の他人だと認識してたんだ。
バカみたいな話だろ?」
「・・・」
僕が、父さんにそういわれたら、どうだろう。
ショックで立ち直れないんじゃないだろうか?
信じていた父親に、裏切られる。
それが、どれだけつらいことだろう。
僕には、想像もできなかった。
「ほら、梶谷君も笑えば良いじゃないか。
おかしな話だろ?とんだ笑い話さ。バカみたいな・・・」
僕は、反射的に佐崎の頬を張った。
力いっぱい、殴っていた。
「なっ・・・!」
佐崎が驚いて僕を見る。
「ばっか野郎!ふざけるな!笑えるわけないじゃないか!」
佐崎を他人呼ばわりした佐崎の父も許せないけど、それを笑えといった佐崎も、許せなかった。
「笑えなんて、冗談でも言うな!」
「・・・」
「おかしいじゃないか。自分の息子なのに・・・息子じゃないなんて・・・
でも、そんなおかしいことを笑っているお前も許せない!」
「瀬斗に何が分かるんだよ!僕の気持ちなんか、分かるわけ・・・」
「そうだ、分かるわけないだろ!僕はお前じゃないんだ!
でも、信じてもらえないつらさは・・・分かる」
僕は佐崎をさえぎって続けた。
僕も、信じてもらえないと思っていたから。
誰も、僕のことなんて分かってくれなかったから。
「分かるなんて、軽はずみに言っちゃいけないのかもしれない。
でも・・・僕も、信じてほしかったよ。父さんと母さんと、泰葉に」
「瀬斗・・・」
僕は立ち上がった。
知らない間に、佐崎が僕のことを「瀬斗」と呼ぶように戻っている。
なんだか、うれしかった。
「また、会うべきだ」
「え?」
「自分はあんたの息子だって、はっきり言うべきだ」
僕はそれだけ言うと、部屋を出た。
おばさんに丁寧にお礼を言うと、スニーカーに足を入れる。
外に見えた空は、来る前よりもずいぶん明るかった。




