47
僕らはバスに揺られて隣町に行った。
「こんなに近くに住んでたんだよ、僕と父さん」
「ホント、求めていたものが、こんなに近くにあったんだね」
僕が求めているものは、ずっと遠くに行ってしまった。
だから、佐崎が求めているものを、必死で守ってやりたい。
僕は心からそう思った。
「・・・」
佐崎が急に無言になる。
「・・・ダイジョウブ、僕らがいるよ?」
僕がそう言おうとしたとき、バスが止まった。
僕らに緊張が走った。
バス停のすぐそばに、佐崎の親父さんの家はあった。
「・・・」
僕は佐崎の背を押した。
佐崎がためらいがちにインターホンを押す。
その手が震えているのを、僕は見のがさなかった。
「ダイジョウブ」
僕は佐崎につぶやいた。
ダイジョウブ。僕らが付いてる。
「はい」
中から、太い男の人の声が聞こえた。
「どちら様・・・」
ドアが開き、中の男の人が佐崎を見た。
「またきたのか」
そういう親父さんさっきの心優しそうな声とは全く違う、冷たい、氷のような声だった。
そう・・・仲直り前の泰葉のような・・・
僕は一歩前に出る。
「始めまして、僕は梶谷といいます。裕介君の友人です」
「俺には関係ないことだ」
「自分の息子のことが、関係ない分けないじゃないですか」
僕の言葉に、おじさんが一瞬硬直する。
「・・・玄関先で騒いでると目立つからな、中に入りなさい」
僕らは家に入る。
僕はちらりと佐崎を見た。
緊張した顔で、肩が小刻みに震えている。
僕はそっと背中をさすった。
ダイジョウブ。僕らがついてる。
「何故また家に来た?しかも、友達まで連れて・・・どういうつもりだ?」
「・・・言わなきゃいけないことがあるから」
「言わなきゃいけないことぉ?」
おじさんは心底バカにしたような口調で言った。
「僕は・・・僕は、あなたの息子だ」
「はっ、オマエの母親と離婚した時点で、お前はもう俺の息子じゃないんだ。たわごとはいい加減にしろ」
僕はその言葉にカチンと来た。
「ふざけないで下さい」
「はぁ?」
「何故認めないんですか?裕介君は・・・佐崎は、あなたの息子でしょう?」
「他人に、そんな口出しされる筋合いはない」
「佐崎の気持ちはどうなるんですか?あなたの言葉に、佐崎がどれだけ傷ついたと思ってるんですか?佐崎は・・・佐崎は、ずっとあなたのことを信じていたんですよ?ずっと、ずっと、ただ、信じていたんです」
僕は続ける。
言葉が体中からあふれ出してくる。
「それを・・・平気で裏切ったんです。そんなことが、よくもで・・・」
「うるさい!」
おじさんが、僕の声をさえぎる。
「もう、親子じゃないんだ!」
僕はまた言い返そうとした。
でも、それを佐崎がさえぎった。
「僕はあなたの息子だ。母さんと離婚しようとも、僕と父さんは、血のつながった親子なんだ」
佐崎がきっぱりという。
「うるさい!・・・全く、若菜も何を考えてるんだ・・・今更こいつをよこすなんて・・・」
おじさんがぼそぼそとつぶやく。
「それは、おばさんが佐崎にはあなたが必要だと考えたからですよ」
「何ぃ?」
「佐崎は、あなたを求めている。せっかく血のつながった子供が近くにいるのに、何故見放すんですか?僕なんて、うらやましいぐらいです。大事な家族の一人が、すぐそこにいるんだから」
「・・・」
おじさんが黙り込んだ。
「僕は今でも、父さんを信じてる」
佐崎が続ける。
「だから・・・だから、父さん・・・」
「・・・帰ってくれ」
おじさんはボソリとつぶやいて佐崎の声をさえぎった。
「・・・」
僕らは無言で立ち上がる。
部屋を出ようとしたとき、不意に佐崎がおじさんのほうを振り返った。
「もう一つ、大事なこというの忘れてた」
佐崎はそういって、おじさんを見る。
「ありがとう。母さんと出会ってくれて、ありがとう」
僕は佐崎が語ってくれた「夢」を思い出した。
「・・・」
おじさんは無言で座っている。
その目から、涙が零れ落ちた。
小さな音を立ててドアが閉まった。




