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「はい、じゃあ、この輪をそこに・・・」
本番当日で、僕は一生懸命になって輪投げのルール説明をしていた。
執行部はチームの中には入らず、ポイントに立っていなければいけない。
あまり、人に説明したりする役目は得意ではないので、分かってもらえたかの自信はないけれど、みんなすごく楽しそうで、僕も自然に笑顔になっていた。
結局、このレクのルールは、好きな人などを配慮したチーム編成で、気になる相手やそうでもなかった相手のいいところ、悪いところを発見してもらい、ゴールした後に、高校生などの学園祭の定番「告白タイム」で、告白。みんながみんな、OKしてもらえはしないだろうけど、秋のいい思い出だ。
そして、秋の大レクリエーション「カップル伝説大会」では大盛り上がりで幕を閉じた。
「大成功おめでとうございまーす!」
翌日の土曜日。
執行部の打ち上げ的パーティーが、なぜか僕の部屋で行われた。
みんなが持ち寄ったお菓子や食べ物を、みんなぼろぼろ床にこぼしながら食べあさっている。
基本的に僕はきれい好きなのだが、まぁ、今回だけは我慢しよう。
「カップル、いっぱい出来たみたいだね」
如月が和倉のコップにジュースを注ぎながら言う。
「うん、よかったわ。とりあえず、当初の目的はクリアしたことになるわね」
中田がアップルパイにかじりつく。
「そ・・・そうだな・・・」
田口が顔を赤らめて言う。
・・・なんだ?
さっきから、どうも田口の様子がおかしい。
僕は江桜を見た。
江桜も頬をほんのり赤らめて、田口を見ている。
もしかして、もしかして、もしかして・・・
「え、君ら付き合うことになったわけ?」
僕が問うより先に、佐崎が言った。
江桜が恥ずかしそうにうなずく。
「昨日、電話で・・・」
一瞬パーティー会場が静まり返った。
近くの工事現場の、ガガガ、という音だけが響く。
次の瞬間、お菓子の山を囲んでいたみんなが、田口と江桜の前に詰め寄っていた。
「うっそ〜!直也君、よかったね〜!」
「おめでとう」
「すっげぇ!」
「すごいじゃない!直也、やったわね!」
「はぁ〜、直也がそんな勇気のある奴だとは思わなかったよ」
僕らは口々に言いながら、二人の背中を叩く。
「うーん・・・僕も泰葉ちゃんに・・・」
佐崎がそうつぶやいているのを聞いて、僕は飲みかけていたジュースを思わずふき出した。
ちょっとむせ返りながら、僕は笑っていた。
「ちょ・・・なに笑ってんだよ瀬斗〜」
「な・・・なんでもない!」
僕はお腹を抱えて笑ってしまった。
佐崎に恋愛何て、と思ったけど、泰葉となら意外といいコンビかもしれない。
友達として、佐崎の思いが泰葉に届くように僕は祈った。




