番外編 ある店長の覚え書き
拍手お礼画面へ掲載した、小話の加筆再修正版その5です。
時系列としては、26話の直後辺りです。
名もなき店長さんの、ちょっとした考え事です。
ついでに、客観的に見た先生と十和の立ち位置も出て来たり。
三人連れの客を見送りながら、店長は胸中で呟いた。
何とも変な客だったな、と。
呟くと共に、ぼんやりと彼らの奇行を思い返す。
少女二人は、一見すると変わった点もなかった。入店時にも、不審点など皆無。
賑やかな子と大人しい子という、ありふれたコンビであった。
だが、そこに乱入した男が奇妙だった。
魔法のように突然姿を現したかと思ったら、いきなり血を吐いたのだ。
大人しい少女が、肌も透けて見える、薄手のブラウス一丁で試着室から出て来たとはいえ、過敏にも程がある。小学生あるいは、中学生じゃあるまいし。
お淑やかな顔立ちに反してあの胸の大きさは、同性から見てもクラリとするものがあったが。
また、間近で血を吐かれたというのに、動じる素振りすら見せなかった少女二人も異常だ。
普通は自分のように腰を抜かしたり、悲鳴を上げたりするものだろう。
彼女たちはあの光景に、慣れているということだろうか?
男は確かに、線が細くて病弱そうな外見をしていた。
死人のような白さも手伝って、どこぞのサナトリウムで療養していそうだった。
吐血したということはつまり、外見通りの病人ということか?
そんな人間を出歩かせて、大丈夫なのか? どこかへ隔離するべきではなかろうか?
だが反面、男の身体はバレエダンサーのように、細く強靭に鍛えられていた。手足も長かった上に、少女たちから「先生」と呼ばれていた。
本当に、売れないダンサーの類なのかもしれない。
ストイックな容貌を思い返すと、そんな気がしてくる。
しかしそうすると、今度は吐血の理由が分からない。
ダンサー故の高い感受性が、少女の胸に過剰反応したということか? それとも根を詰め過ぎて、胃に穴でも開いたというのか?
いやそれ以前に、突然店に出没したカラクリは何なのか?
実はダンサーではなく、マジシャンなのか?
やはり謎の尽きない三人だ。
「一番分からなかったのは、あの女の子がずっと、『先生』を心配してたことかなー」
ぽつり、と誰に言うでもなく口にした。
自分だったら絶対にお断りであろう、何とも面倒くさそうな男に心を砕いていた。
あのお淑やかな少女の心が、最大の謎だ。
一体、どこが良いと言うのだろうか。男運がない身としては、詳しく訊いてみたい。
ついでに何となく、二人のその後が気になった。
「また、お店に来てくれるといいけど」
再び呟いたところで、一組のカップルが入店した。
「いらっしゃいませー」
すぐさま表情をにこやかなものに切り替え、彼らを迎え入れる。




