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「お前はもう必要ない」と捨てられたヒーラー、魔王軍に拾われたら唯一の回復役として溺愛が止まらない  作者: 月代


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第13話 魔王城防衛戦


 東棟の医療拠点に、負傷者が絶え間なく運ばれてくる。


 開戦から三時間。

 城壁での攻防は激しさを増していた。


「左腕の裂傷、重度!」

「火傷、三名同時搬送!」

「先生、次です!」


 リコの声が飛ぶ。

 俺は右手を光らせ、片端から治療する。

 裂傷を塞ぎ、火傷を癒し、骨を繋ぐ。


 七名。十二名。十八名。

 数が増えていく。


 体が重い。

 再生術の代償で削られた体力が、回復しきっていない。

 だが止まるわけにはいかない。


 窓の外に爆発音が響いた。

 城壁の一部が崩れる音。


「至宝殿! ガルド様が——!」


 兵士が飛び込んできた。

 顔が蒼白だ。


「ガルド様が正門で致命傷を負いました! 搬送が間に合いません!」


 俺は立ち上がった。


「先生!?」


「リコ、ここを頼む。軽傷は全部お前が診ろ」


「先生、前線に行くんですか!? 約束——」


「ガルドが死ぬ。行くしかない」


 リコの顔が強張った。

 だが——頷いた。


「……行ってください。ここは任せてください」


 俺は走った。


 ◇


 正門。


 辿り着いた時、地獄だった。


 城壁が崩れ、瓦礫が散乱している。

 魔族兵と教会兵が入り乱れ、怒号と悲鳴と金属音が渦巻いている。


 その中心に、ガルドがいた。


 片膝をつき、戦斧を地面に突き立て、体を支えている。

 胸に——深い切り傷。

 鋭く光るような切り口。一直線に、左肩から右腰まで走っている。


 聖剣の一撃だ。


「ガルド!」


 駆け寄った。

 ガルドの赤銅色の顔が、灰色になっている。


「おう……至宝殿か。来るなって言っただろうが……」


「黙れ。治す」


 右手をかざした。

 光が流れ出す。


 傷が深い。内臓に達している。

 出血量も尋常じゃない。


 全力を注ぎ込む。

 裂けた臓腑を修復し、断たれた血管を繋ぎ、筋繊維を編み直す。


 五分。

 最も長い五分だった。


 ガルドの呼吸が安定した。

 顔色が戻り始める。


「……てめえ。無茶しやがって」


「お互い様だ」


 ガルドが戦斧を掴み直し、立ち上がった。

 信じられない生命力だ。今の傷で立てるのか。


「まだ立てるなら、後方に下がれ。あとは——」


 言葉が途切れた。


 正門の崩れた壁の向こうに——人影が立っていた。


 金色の髪。

 血に汚れた白銀の鎧。

 右手に握られた聖剣が、夕日を受けて赤く光っている。


 レクス・ヴァルディアが、そこにいた。


 俺と目が合った。


「——エイル」


 レクスの声は、一ヶ月前と変わらなかった。

 自信に満ちた——いや、違う。

 声に疲労がある。目の下に隈。

 顔が痩せている。


 だが目だけは——異様に燃えていた。


「お前を——連れ戻す」


「レクス。これ以上は——」


 レクスが聖剣を振り上げた。


 その瞬間、上空から影が降った。


 薄紫の翼。二枚。

 セリカが急降下し、レクスとエイルの間に着地した。


「やめなさい、人間」


 紅い瞳がレクスを睨む。

 両翼を広げ——壁のように、俺とレクスの間に立った。


「この人に手を出すなら——私を倒してからにしなさい」


 レクスの目がセリカの翼を見た。

 聖剣を握る手が——僅かに、震えた。


 膠着。


 その隙に、ルシェラの声が城壁から響いた。


「全軍、攻撃中止! ——レクス・ヴァルディア。話がある」


 ◇


 戦闘が止まった。


 正確には——ルシェラの号令で魔族側が攻撃を止め、教会軍もそれに倣った。

 兵士たちは疲弊しきっていた。双方ともに。


 レクスは聖剣を下ろさなかったが——振ることもしなかった。

 目の奥の炎が、少しだけ揺らいだように見えた。


 俺は息を吐いた。

 膝が震えている。治療の消耗と、緊張と。


 セリカが振り向いた。

 紅い瞳が俺を見る。


「——怪我は」


「ない。ありがとう、セリカ」


 セリカは何か言いかけ——口を閉じ、翼を畳んだ。

 頬が微かに赤い。夕日のせいかもしれない。


 戦いはまだ終わっていない。

 だが——最悪の一歩手前で止まった。


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