↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「お前はもう必要ない」と捨てられたヒーラー、魔王軍に拾われたら唯一の回復役として溺愛が止まらない  作者: 月代


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/15

第12話 勇者の進軍


 カインの警告から十日。

 その日は来た。


「敵軍、灰の荒野東端を突破。推定八百名。進軍速度から見て、城到達まで半日」


 モルテの報告が会議室に響いた。


 八百。

 千に届かなかった。モルテによれば、行軍中に一部が離脱したらしい。

 それでも、こちらの五百名に対して圧倒的な数だ。


「城壁防衛で凌ぐ。出撃はしない」


 ルシェラが地図の上に石を並べた。


「ガルドは正門の防衛。セリカは空中偵察。モルテは側面からの情報かく乱。私は城壁上で全体の指揮を執る」


「了解。——エイル、お前は」


 ガルドが俺を見た。


「東棟に医療拠点を設ける。負傷者はそこに集める」


「前線には出るなよ。前回とは規模が違う」


「分かってる」


 分かっていた。

 八百名が相手では、前線に出る余裕はない。

 後方で、一人でも多くの命を繋ぐ。

 それが俺の役割だ。


 ◇


 医療拠点の準備は、リコが指揮した。


 包帯。薬草。水。簡易寝台。

 この一ヶ月で蓄えてきた物資を全て東棟に集めた。


「先生。準備完了です」


 リコの顔は真剣だった。

 尻尾は揺れていない。これから始まることの重さを、理解しているのだろう。


「リコ。いいか、約束だ。——重傷者の処置は俺がやる。お前は軽傷の応急手当と搬送の指示。絶対に前線に近づくな」


「はい」


 素直な返事だった。

 いつもなら「先生が行くなら私も」と言うところだが、今日は違う。


 準備が終わり、窓から外を見た。

 灰の荒野の向こうに、砂煙が見える。


 ——来る。


 ◇


 その前に、もう一つ。


 城門で騒ぎがあったのは、敵軍到達の二時間前だった。


「不審者確保! 人間の女! 一人で城門に来た!」


 門番の声が廊下に響いた。


 俺は医療拠点を出て、城門に走った。


 門の前に、一人の女が立っていた。


 銀色の長い髪。

 杖を持たず、手ぶら。

 白いローブは旅の汚れにまみれているが——見間違えるはずがない。


「フィオナ」


 フィオナ・リーデルが、そこにいた。


 門番の槍に囲まれながら、フィオナは俺を見た。

 いつもの無表情に見えたが——目が赤い。泣いた後のように。


「エイル。——ごめんなさい。遅くなったわ」


「……何をしに来た」


「レクスを止めに来た。——あの馬鹿を、このまま行かせたらみんな死ぬ」


 フィオナの声は震えていたが、目は真っ直ぐだった。


「あんたが好きだったから来たのよ。仲間として。守るべき人を間違えちゃダメでしょ」


 門番たちが困惑している。

 敵軍が迫る中、敵の魔導士が単身で城に来た。

 どう対処していいか分からないのだろう。


 ルシェラが城壁の上から降りてきた。


「この女は?」


「元パーティメンバーだ。味方——だと、俺は思う」


 フィオナがルシェラを見上げた。


「あなたが第一魔将? 話に聞いてた通りの美人ね。——私を使って。レクスの戦術は全部知ってる」


 ルシェラが俺を見た。

 俺は頷いた。


「信じていいわね?」


「ああ」


 ルシェラは一瞬考え——頷いた。


「会議室に来なさい。時間がないわ」


 フィオナが走り出す前に、俺の袖を掴んだ。


「エイル」


「何だ」


「……生きてて、よかった」


 それだけ言って、ルシェラの後を追った。


 ◇


 夕方。


 城壁の上に立った。


 灰の荒野の向こう——地平線に、軍勢が見えた。

 白い旗。教会の紋章。

 隊列を組んだ兵士たちが、黄昏の中を進んでくる。


 その先頭に——金色の髪が見えた。


 レクス。


 遠くてはっきりとは分からない。

 だが、あの金色は見間違えない。


 聖剣を背負い、先頭を歩いている。

 ——あの男らしい。常に先頭。常に主役。


「エイル。下がりなさい。もうすぐ射程に入るわ」


 ルシェラの声。


 俺は城壁を降り、東棟の医療拠点に戻った。


 窓の外で——角笛が鳴った。


 戦いが、始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。