番外編 エレンのそばかす その二
書けました! 作者、絶好値です笑
ミーヤは洗濯室へ戻り、マルタに早退の届け出をしてから森へと向かった。職場のルールをきちんと守れる良い子である。
人間の姿のままで森へと向かいながら、頭の中でイレーヌに教えてもらった『白いもの』と毛玉の知識を照らし合わせる。
(白い植物の根っこ……。蕪みたいなちょっとからい根っこと、大きな花の根っこが白かった!)
(白い樹の皮……。真っ白な木、知ってる! 触ると白い粉が付くの)
(あとは……一応、貝殻を探してみよう。行ったことない川に、貝が住んでいるかもしれないよね)
毛玉用のツリーハウスのある神殿遺跡へとたどり着くと、石室へと入って毛玉に戻る。森の中では毛玉の方が機動力がある。
蕪に似た小さな根菜をいくつか掘り起こし、大きな花弁を持つ豪華な花の根も確保する。尻尾を巻き付けて持ち、パタパタと飛んで石室へと戻る。
木の皮を剥いだり樹液を採取するのは、さすがに尻尾では無理だ。真っ白い木のところへは、人間の姿で向かった。
毛玉の住む森はとても広い。奥へ行けば行くほど……人間の生活エリアから離れれば離れるほど、大型で危険な動物のテリトリーとなる。以前、砦の研究所で見かけた、大猿や虎などだ。
ヒューゴの匂いを危険と判断するようになった彼らは、ミーヤには近寄らなくなったが、他の個体は変わらず危険な存在だ。
ミーヤはほどほどに未知のエリアで、川を探した。
(海の貝だから、塩を抜くのに十年もかかるんだよね? だったら川に住む貝なら、すぐに白粉が作れるかも!)
チョンチョンと跳ねながら、水の匂いを探す。途中でも白いものを見つけたら、せっせと石室へと持ち帰った。
白いキノコ、蔓草の実、蝶の羽根、セミの抜け殻、カタツムリの殻……。白い石や白ヘビの抜け殻も見つけた。
日が傾きかけた頃、ようやく淡水貝を見つけた。意外にもミーヤがいつも水鏡に使っている、神殿遺跡近くの泉だった。ミーヤのマブダチドラゴン、ルーガの水場でもある。
泉の底にある石の裏側に、いくつかの茶色い小さな細い巻貝がへばりついている。
(やっと見つけた! 巻貝だ! あっ、でも茶色いから……だめ?)
持ち帰ってイレーヌに聞いてみることにして、尻尾で石ごと採取する。石室へと帰ろうとして顔を上げると、ミーヤの鼻先をスイッと光の帯が横切った。
(わー、蛍だ!)
毛玉のミーヤも令和の小学生の美弥も、蛍を見るのは初めてだった。美弥はそこそこ都会に住んでいたし、毛玉は危険な夜は極力巣穴から出ないで暮らしていた。
(本当に光るんだ! すごい!)
美弥は蛍に憧れていて、学校の図書室で昆虫図鑑を借りたことがあった。
(蛍の幼虫のごはんは、川に住む貝だった! この貝、蛍の……)
ミーヤはそっと石を泉の中へ戻した。食べ物が見つからないつらさを、ミーヤは身に沁みて知っている。
この泉には以前、帝国がドラゴンのルーガを捕まえるために、眠り薬を仕込んだことがある。
(蛍のごはんの貝は、確かきれいな水じゃないと生きられないんだよね。そしたら、この泉はもう大丈夫なんだ)
ルーガは元帝国の村の村長になってしまったから、もうあまりこの泉には水を飲みには来ないかもしれない。それでもミーヤは嬉しかった。
覗き込めば水鏡の泉には、頭に花の生えた毛玉が映っていた。
(今度、へーかと一緒に蛍を見に来よう! さいぞうさんにも、見せてあげたいし、ルーガにも見せたいな! エレンとイレーヌ……、あっ、ヨシュアにも! それから、テオに、料理長にマルタさんに……!)
次から次に、蛍を見せたい人の顔が浮かんできた。以前は、報奨金をもらっても、何か買ってあげたい人すら思い浮かばなかったのに。
ミーヤが左右の違う、ちょっと臭い靴を履いて街を目指してから、ちょうど一年が過ぎた。ひとりぼっちの森の毛玉だったミーヤは、大切なものをたくさん見つけた。
これからも、ミーヤは変わっていくだろう。それはシステムが生やしてくれるものだけではない。
変わっていくもの、変わらないもの。その両方を抱きしめて、森の毛玉はチョンチョン跳ねる。今日は背中から、腕は生えていないのだけれど。
✱ ✱ ✱
さて、最終回のようなことを言っていたが、ミーヤたちの白粉への挑戦はまだまだ続く。次の日ミーヤは森で見つけた『白いもの』を抱えて、エレンと一緒にイレーヌの家を訪ねた。今日は三人とも洗濯下女の仕事はお休みした。
「すごいわミーヤ、これなら立派な狩人になれるわ!」
ミーヤが森から持ち帰ったものを見て、イレーヌが言った。
「狩人? わたし、狩りはできないよ?」
毛玉はどちらかといえば狩られる側だ。
「狩人は森の動物を狩るだけじゃないのよ。野草や木の実、キノコみたいに森でしか手に入らないものもたくさんあるでしょう?」
そう言われてみればそうかもしれない。時々市場で狩人や木こりが、露天を広げているのを見かける。
(それなら、わたしにもできるかも。ゲームの冒険者みたい!)
美弥の頃には兄と一緒に、RPGゲームにもハマったことがある。ミーヤは懐かしく思いながら、布の上に拾ったものを並べていく。
「これはね、ちょっと辛くておいしいの。こっちはお花の根っこだよ」
「蕪の野生種だな。こっちは百合根。どっちも煮るとうまいよ」
エレンが教えてくれた。毛玉はもちろん生で食べていた。
「あら、百合根は食べても身体にいいけれど、お肌に塗ると『潤いの膜』を作ってくれるの。肌に塗り込む『練り白粉』を作るなら、最高の材料になるわ」
「これはね、真っ白い木の皮と樹液。樹液は少ししか採れなかったの」
樹液の採集には、知識と道具と経験が必要だ。ミーヤはどれも持っていなかった。
「これは白樺の木の皮だな。この白いキノコは痺れるから食べられない」
「へぇ、これが白樺なのね。白樺は美白成分があるの。樹液は高級化粧水の材料だし、皮は肌の炎症を抑える効果があるわ。エレンの鉛白粉で荒れた肌を整えてくれるわよ」
エレンは絶句した。正直、ミーヤが集めてきたものに、期待はしていなかったのだ。それはイレーヌも同じだった。だから二人で相談して、今日はミーヤを慰めて、おいしいお菓子を一緒に作る予定だったのだ。
「これはね、白い石。やわらかいから、石の床なら字がかけるの。それから、セミのぬけ殻。でも濡らすと茶色いからだめかな? こっちのヘビのぬけ殻は、たぶん白ヘビだよ」
「白蛇の脱け殻は、財布に入れると御守りになるぞ」
エレンがヘビの抜け殻をつまんでキシシと笑った。イレーヌはちょっと嫌そうな顔をした。ミーヤはエレンの豆知識に感心して頷いている。
「これは白いカタツムリの殻なの。今の季節はたくさん落ちてるよ。このカタツムリはワシャワシャーって、たくさん集まってたまごを産むの。たまごを産むと古い殻をぬいで、新しいのができるんだよ」
今度はエレンも嫌そうな顔をした。カタツムリが集まって、ヌラヌラと這い回る光景を想像したのだろう。イレーヌは腕の鳥肌をさすっている。
美弥が図書室で借りた昆虫図鑑のカタツムリは殻と共に成長する。この世界には独自の進化をした動植物も多く存在している。
「ちゃんと洗ったから、きれいだよ」
ミーヤが言うと、イレーヌがカタツムリの殻を転がしてから、そっとつまみあげた。真っ白で薄い殻を、日の光にかざしている。
「ミーヤ、これは逸品よ……」
「一品?」
「素晴らしいという意味よ。指で潰れるほどに薄くて真っ白、裏側には真珠層もある……。光沢のあるきめ細かい粉を、簡単に作ることができるわ!」
「つまり……?」
エレンがごくりと唾を飲むように聞いた。
「最高の練り白粉の材料が揃ったということよ!」
エレンとミーヤが、揃って歓声を上げた。
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《次回予告》
殻の量が足りないので、森へ三人で採集しに出かけます。そしていよいよ製作過程に……!
次話『番外編 エレンのそばかす 後編』は、自転車操業なので、書き上がったら投稿します。
新作短編投稿しました。
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