17.例えと信じる心
ルクスの色は、明るく世界を照らす、真昼の太陽のような色だと思う。或いは、満ち満ちた月のような。
いつだったか、ルクスは私の色を、山脈にかかる冠雪のように、一面に広がる銀世界のように、と言ってくれた。
その時は、ルクスの真っ直ぐな視線に照れてしまったのだが、後から考えるとルクスだって、太陽のような、月のような、そんな色をしていると思う。
ふと、いつも通りにディグセを起動させて、鏡を見た時に、違和感を覚えてしまった。
見慣れた青色には、馴染みがありつつも、やはり自分の色ではない、という思いもある。
私はこの青色を高く済んだ青空のような色だと思っている。
ルクスにそう告げると、彼はそれに頷いてから、他の例えを出してくれた。
この青色は、未だ見たことのない大海のような色だそう。
海。
このサタロナ王国は、海に山に、森に川にと、色々な環境が揃っている。
沼地もあれば、渓谷もある。人工物で言えば、砦や港もそうだ。
だが、それらの全てを、私は知らない。
協会の窓から見えるのは、マギシアの街と、遥か遠くの城壁と森のような緑だけだ。
世界がとても広いことは地図で知っている。
そして、世界が広い、という言葉には別の意味も含まれていることも知っている。
けれど、私の世界は狭いままだ。視野も、知識も、見聞も。
だから、私は私が知るものでしか、例えられない。
ルクスの色は真昼の太陽や、満月の色だと思っている。
ジュネやカルメたちに聞いてみると、生成り色だったり、淡い金色だったりと、色々な例えが出て来る。
実際にその色を見せてもらい、納得する一方で、やはり太陽や月に思えてしまう。
その理由を考えた時に、とあることに思い至って、頬が熱くなるのを感じた。
私にとって、ルクスは光り輝いて見えるのだ、と。
ルクスは私を優しく温め、明るく照らし、温かく見守ってくれる存在なのだ。
太陽のように強い道しるべとなる時もあれば、月のように静謐な眼差しを向けてくれることもある。
「私も綺麗だと思いました。山脈にかかる冠雪のように、一面に広がる銀世界のように、清廉で、無垢で、高潔で」
うん。私も綺麗だと思った。
真昼の太陽のように力強く、満月のように静かに佇み、微笑んでいる。
元気いっぱいな子どものように見える時がある。
全てを知り得た神のように、高潔で冷静に見える時がある。
なのに、何も知らない子どものように、無垢で、可愛い、期待を覗かせた顔をする時もある。
全てを受け止めてくれる微笑みは、父母とはこういうものなのだろうか、と思わせる時がある。
けれど、ジュネやカルメに、ルクスの印象を聞いてみると、私とは全然違っていて、驚いた。
「ルクス様?第一印象は、完璧で完全な彫像のようだと思いましたね。でも、段々と魔術馬鹿の研究馬鹿なんだな、って思ってくるようになりました」
「私は、公爵令息に相応しい、威厳と貫禄がある方だと思いました。今は、何と申しますか、人生を謳歌されていると思います」
彫像は見たことがないので分からないが、完璧で完全な、というのは少し分かる気がする。
威厳と貫禄も良く分からないが、全てを見通しているかのような目をする時がある。
けれど、ルクスは実際には何も知らない、分からないことも多いらしく、確かに今は知ること、分かることを謳歌しているのだろう。
私が二人の意見に頷いていると、ジュネがこちらを興味深そうな目で見た。
「オデット様はどう思いましたか?第一印象と、今の印象」
「第一印象は、月みたいに綺麗だなって感じ?今の印象は真昼の太陽みたいに、元気で力強くて、でも、何も知らない子どもみたいで、一緒に楽しんでる感じ?うーん、これって印象かな?感想みたいだけど」
「そうですね。でも、そんなルクス様の方が、実は珍しいですからね?」
「そうなの?」
「はい。外では、冷徹でしっかりとした協会長、って感じですから」
「へぇー。それは気になるかも」
「いつか、ルクス様の出席する会議を覗いてみると分かりますよ。まぁ、オデット様がいると、協会長らしくはなれないでしょうけど」
「何で?」
「協会長という立場や体面よりも、オデット様の方が大切だからです」
さらりと、すっぱりとジュネに告げられた私は、思わず、どきりと固まってしまった。
それではまるで、ルクスの協会長である部分を認めていない、好んでいないみたいではないか。
それはない。私はどんなルクスでも好きだ。
いや、違うな。ルクスがルクスであるなら、どんな立場や表情であっても、大切なのだ。
「…………それでも、私は協会長のルクスも好きだと思うよ」
「そうですね。そんなオデット様だからこそ、ルクス様も安心して、大切にしていられるのでしょう」
確かに。ルクスは臆病で慎重だ。
そんなルクスが、大切にすることだけに専念していられるのは、私を疑っていないからだ。
そして、ルクスが私を疑わないのは、私がルクスを信じているからだろう。
自分を信じてくれているから、私を信じられる。
どちらが先かということは、分からないし、関係ない。
けれど、互いに互いを信じているから、私たちは安心して、大切なものを大切にしていられるのだ。
いつか、私がルクスを信じられなくなる日が来るのだろうか。
少し想像してみたが、やはり、そんな状況になることは思い付かなかった。
恐らく、月が太陽になるという想像ができないのと同じだ。
青空が大海にならないように。
「ルクス。私のことを疑うことってある?」
「いいえ、ないですね。でも、自分のことは信じられなくなる時があります」
「自分を?何で?」
「何故…………未知のものだからですね。よく知らないものは、わかりません。わからないものは、手にできません。手にできないものは、知ることが難しいです。知ることが難しいものは、信じがたいです」
「なるほど。自分、というより、こんな風に過ごしている今の自分を信じられないと思っているんだね」
「はい。ですが、これからだと思います。段々と知っていけば、わかっていけば、自分も信じられる気がします」
「そうだね。うん、沢山、色々なことを知ろう。一緒に経験して、体験して、それでも、大切にしていたいから」
「はい。一緒に、沢山の思い出を積み重ねましょうね」
沢山の思い出を積み重ねた、その先には何があるのだろうか。
そんな未知と未来に期待して。
今日は何でもない日ですが、今月は番外編の投稿が少なかったので、小話を書いてみました。
強いて言えば、1.1万pvのひっそりとしたお祝いでしょうか。




