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12.釘を拾ったら(お礼の小話)



それは、ルクスとマギシアの街を歩いている時だった。


「ルクス?」


急に立ち止まったルクスに合わせて、私も立ち止まる。


どうしたのか、と隣にいる彼を見上げると、ルクスは少し困ったような表情をしていた。


「オデット様。少々、寄り道をしても、構いませんか?」

「うん」


ルクスは小さな球体の結界魔術を発動させた。



それに包まれているのは…………


「釘?」

「これは、西の方にある工房の紋章ですね。そこまで、この釘を届けに向かいます」

「ん?わかった」



そうして、その工房と思われる建物に近付いて来たところで、大きな声が聞こえてきた。


「おい!一本足りねぇじゃねぇか!」

「す、すみません!」

「早く探しに行って来い!」

「は、はい!」


大きな責め立てるような声と、おどおどした謝罪の声が聞こえてくる。


明らかに取り込み中だろうと思われる、とある工房の中に、ルクスは躊躇いなく入って行った。


「お取り込み中、申し訳ありません」

「こ、これは、ルクス様!如何なさいましたか?」

「こちらの釘を拾いましたので、届けに参りました。お探しのものはこちらではありませんか?」

「は!はい!ありがとうございます!」

「わざわざ、ありがとうございます。早くに見つかって良かったです。本当にありがとうございます」

「いえいえ、被害が出る前で良かったです。それでは」

「ありがとうございました!」


大柄な男性は丁寧にルクスにお礼を告げて、気弱そうな青年は感極まった様子で、感謝している。


そんな二人の言葉を、ルクスは温かな微笑みで受け止めて、さらりとその場を後にした。




気を取り直して、目的地に向かう道中。


今なら、質問しても大丈夫そうだな。


そう思った私は、ルクスに早速、疑問をぶつけてみた。


「ルクス。釘って、そんなに危ないものなの?」

「はい。釘は異なる物を繋ぎ合わせるものですから、侵食によって損傷しにくい、頑丈な素材で出来ています。そして、他のものに食い込むように鋭利に作られています。破壊が難しい、頑強な刃物と見なせます。特に魔術の釘は、結界や障壁をも破り、体内に侵食してしまう程に危険なのです」

「え、結界を破るの?」

「はい。そのような加工が施されている素材であっても、使えなければなりませんからね。それに耐えうるように作られているのです。ですから、釘には工房の紋章が刻まれ、厳しくその数が管理されています。その辺に武器を落とすのと同じようなものですね」

「なるほど」


どうやら、思っていたよりも大事だったようだ。


しかし、よく考えれば、釘という特性や役割から、ルクスの言うことが正しいということは理解できる。



「ん?それで言うと、針も危ないのかな?」

「はい。針は釘と似ていますね。魔力や侵食の影響を受けにくい素材で、そのような加工を施されます。そうでなければ、直ぐに壊れてしまいますからね。そして、布の種類によって、必要な強度や太さも異なりますから、それなりに危険なものです。更に針は、釘よりも、見失いやすい、失くしやすいですから、管理は厳しいです」

「針には工房の紋章は入れられないの?」

「はい。難しいですね。ですから、大抵は針箱という、針を保管する箱の方が、魔術具になっていたり、確認の役割を持っていたりします」

「箱の中に無かったら、紛失している、ってこと?」

「はい。針箱は針を用いる者たちにとっては、とても重要なものなのです。これは身近な裁縫道具であっても、です。服飾関係の工房では、管理者が針箱の鍵を所持します。針が紛失していれば、管理者の責任になりますし、工房の外で被害が出てしまうと、その工房の責任になりますからね」

「裁縫道具の針は?」

「そちらも、所持者の責任になります。ですが、一般人が保有する針は、少量かつ、低品質であることが多いですから、工房ほど厳しく管理されることはありません。被害が出たとしても、嫌がらせやわざとの場合も多いですから」

「犯人の追及が難しいんだね」

「はい。ですが、やはり物証にはなりますので、針を所持する場合には気を付けるようにしてください。他人の針を用いて、傷害を負わせ、他人に冤罪をかける、というのは、残念ながら、珍しい話ではありませんから」

「うん。分かった」


何と。そんなにも危ないものなのか。


ルクスの言葉に神妙に頷くと、ルクスは大丈夫だというように、微笑んでくれた。


「まぁ、我々が針を持つことは、少ないですが」

「うん…………あ、でも、ルクスは魔力結晶の針を持っているよね?」

「はい。そちらは基本的に、協会からは持ち出し禁止ですので、普通の針や釘などよりも大事になりますね。徹底的に調査と捜索が行われますし、管理もとても厳しいです。勿論、協会からの罰則もあります」

「へぇー」


そんなにやばいのか、あの針。


ただの釘や針などよりも、余程、大きな事件になってしまうようだ。



うん。まだまだ知らないことが沢山あるんだな。



本編である「私の大切な人は魔術の師匠」が累計9,000pvを達成いたしました。

お読み頂いている皆様、誠にありがとうございます。

今回も、9,000という数字には関わりがありませんが、小話を書いてみました。

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