疑惑
「おぅい、聞いたかマティス?さっきフェリクス様と一緒にいたのは次の騎士団長だとよっ!」
「そうですか、あの方がロシュフォール侯爵家のユリウス様でしたか・・・」
「それにしてもなんで”チームH”の奴が次期騎士団長に剣術指導なんてしてもらえるんだ?!気に入らねぇぜ」
食堂はユリウスとユーゴの話題で持ち切りだった。
「ユリウス様が騎士団長に就任されることは随分前から決まっていた。さっきの事だってチームHに妹がいるからだろう。あまり大声を出すなトマ。他のやつらにバカにされるぞ」
金髪を肩まで伸ばしている少年がトマをひと睨みした。
「あ、ああ・・・すまないユベール・・・」
「(ユベールのやつ、自分がスルーされてしまって気が立っているんだ。ほうっておけ)」
ケフィがトマの耳元で囁いた。
「(そ、そうだな、ケフィ・・・)」
「それにしてもチームHにあんなに強い奴いたかぁ?誰だアイツ?変わった構えしてたなぁ」
間延びした口調のイヴァンが首を傾げた。
「ユーゴっていう、ほら、ときどき座学でおかしな質問する人ですね」
「あー、あいつかぁでもあいつは修練ではたいしたことない感じだったのになぁ・・」
「ユリウス様の突きをまぐれで一回躱しただけだ。大騒ぎするほどの事じゃない。構えだって思い付きで威嚇の姿勢をとっただけだ。誰でもああして上に構えることはある」
ユベ-ルがややイラついた口調で吐き捨てた。
彼はユーゴとユリウスのスピードについて行けず突きを躱したところまでしか見えなかった様だ。
「ユベールのいうとおりだぜ。俺たちはみんな幼いころから剣術を習ってきた名家の集まりだ。相手が誰だろうと負けるはずがねぇ」
「でもほっといて良いのですか?さっきCチームの奴らが話していたのを聞いていたんですが、ユーゴを引き抜こうとしているみたいですよ」
「じゃあ、ユーゴと入れ替わるか?マティス」
「じ、冗談はやめてください・・・」
ユベールの言葉にスプーンを落として狼狽えるマティス。
「ふん・・・」
ユベールは王国騎士団でも上位の小隊に在籍する父に幼いころから剣術指導を受けており、その才能を買われて入学前は特待生として騎士団で手ほどきをうけていた。若干15歳ながら剣の才能は父親以上だと言われている。Aチームでも実力でリーダーのポジションを勝ち取ったエリートだ。
食堂のあちらこちらからユーゴという名前が聞こえてくるのが気に入らないのだろうユベールは不機嫌そうに席を立った。
「・・・他の家から領地を奪って大きくなっただけの蛮族じゃないですか、なにを偉そうに・・・」
「よせ、マティス。聞かれたらどうする」
「・・・」
「全ては騎士団に入るまでの事だ」
「そぅだ。それまでいう事をきいてやればいいよ」
「・・わかりました、ケフィ、イヴァン・・・」
「・・・」
「・・・」
視線を感じて顔を上げると皆そっぽを向く。
横を見るとひそひそ話を止め、慌てた様子で食事を始める。
「う~ん・・・」
「どうかされましたか?お兄様」
「なんていうか、さっきから凄く見られている感じがして・・・」
「そりゃそうでしょ、修練場の真ん中でいきなりうちの兄貴と打ち合ったりするから」
「さっきの人、ドロテのお兄さんだったのか」
「ええ?!今?!」
皆驚いてユーゴを二度見した。
「もうずっとその話で持ち切りですよ?」
「午前中の剣術修練を見に来てたのは現騎士団長で、一緒にいてユーゴと打ち合ったのは次期騎士団長のドロテの兄貴なんだと。俺も『あれはドロテの兄か?』とか、『なんでオマエのとこのユーゴだけ手合わせして貰えるんだ?』ってあまり話したことのない奴からもずーーーっと質問されて修練どころじゃないぞ。誰にも何も聞かれなかったのか?」
「ああ、そういえば色々話かけられたけど、あの人次期騎士団団長なのか?どおりで強かったわけだ。咄嗟に上段に構えたけど実は久しぶりすぎてあまり自身がなかったんだ。団長が止めてくれて助かったよ。あはは」
「・・・」
「・・・」
「はい、審議!」
ドロテの合図でメリッサ、レティシア、ルシアンの4人が身を乗り出して広いテーブルの上で顔を付き合わせた。
「あんたの兄貴ってばちょーっと天然はいってるの??」
「天然かどうかは分からないけど物事をあまり深刻に考え無い様なところはあると思う・・・」
「そう言われればユーゴはそんなところああるわね」
「さっきの件にしてももし私だったら教官に問いただしたり、あれは誰だったのかってみんなに聞いて回って大騒ぎしていたかもしれません」
「異国の人だからでしょうか?」
「そうかぁ?俺はフツーだとおもうぞ?」
「フツーじゃないあんたのフツーだはフツーじゃないってことねっ!」
「ドロテ、もうすこし分かりやすく言ってくれ」
「・・・どうする?コレも審議対象にする?」
「い、痛っ!」
難しい顔で考え込むルシアンの耳を引っ張るドロテ。
ユーゴには四人が何を話しているのかははっきりとは聞き取れなかったが仲良さげな四人を微笑ましく思い眺めていた。
「やあ、ユーゴ、ちょっと君に話があるんだが良いかな?」
そこへ突然少年が話しかけてきた。やや釣り目で髪を真ん中で分けた中肉中背の少年だ。
「僕Cチームのリーダーのイザーク・ティエリーだ。初めまして」
「あ?ああ、ユーゴ。シュバリエです、よろしく。何の用かな?」
「単刀直入に言おう。うちのチームに来ないかい?」
「!!」
「ちょ!あんた、チームのみんなが揃ってるところでよくそんな話を出来るわねっ!」
「みんな揃ってるから都合が良いんじゃないか。分かりやすいだろ?」
「早速引き抜きにきたのか?」
「勝つために強い者を引き入れるのは当たり前の事だしあのユリウス様の目に留まったのだから当然だ。それから僕は今ユーゴと話しをしているんだ黙っててくれないかな?農民や、残念な妹に用はない」
「なな、なんですってっ!」
「お前、喧嘩売ってるのか?!」
「喧嘩なんて無駄な事は僕はしないよ。君達用は無いから黙っててくれと言っているだけだ」
「このっ・・・!」
立ち上がろうとしたルシアンの手をユーゴが抑えた。
「俺はこのチームが気に入ってて今楽しくてしょうがないんだ。俺も君には用が無いからほっといてくれないかな?」
「お兄様!」
「ユーゴ、良く言ったわっ!」
「いいぞユーゴ!」
「そうか。でもはっきり言ってこのチームでは騎士団には入れないよ。君が一番それをわかっているんじゃないのかい?。もし君が承諾してくれたらそっちのメリッサお姉様も一緒に誘おうと思っていたんだが、残念だ。きっと後悔するよ」
・・・???私?・・・。
何故自分なのだろうか?自分の事を”お姉さま”と言った彼は何者だろう?
立ち去るイザークをメリッサはずっと目で追っていた。
「なによアイツ!失礼に手足がついてるみたいねっ!」
「あいつ、メリッサの事をお姉様って言ってたぞ。知り合いか?」
「・・・一生懸命考えていたのですが、全然知らない人です。初めましてです・・・」
「遠い親戚とか?」
「分かりませんが、それにしても引き抜きの対象がどうして私なのでしょう?それも謎です・・」
「あ!・・なあ!」
「ルシアン、なにか思いついたのっ?!」
「失礼に手足が付いた場合、どんな文字になるかな?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「審議ね」
「審議です」
「審議でしょうね」
「ルシアン、大変だな」
お前もなっ!
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