明日の為に打つべし!
はっ、はっ、はっ、はっ、
5人のリズミカルな息遣いが重なる。
森の特訓場に向かう途中のいつものランニングだ。
「あ、暑くなって来ましたね・・・」
「そうね・・・。もう少し春が長くても良いと思うわね」
はっ、はっ、はっ、はっ。
自主練を始めた頃は半時程のランニングで音を上げてへたり込んでいたが。今では皆装具を装着した状態で会話をしながら走れるようになっていた。
「ちょっと聞きたいんだけどいいかな?」
「なに?ユーゴが、質問なんて、珍しいわね」
「装具って作るとどれぐらいかかるものなんだろう?」
「そうねぇ、安いもので500万バリスほどかしら?」
「!!ご、ごひゃくまんバリスっていくらなんだ?!」
ユーゴよりもルシアンの方が驚いている。騎士学校の入学金と授業料の50万バリスでもルシアンにとっては考えられない金額だ。
「そ、そんなにするものなのか・・・」
「お兄様、装具がお入り用ですか?」
「修練用で、貰ってるこの装具ではだめなのか?」
「う~ん・・・。ちょっと考えていることがあって、模擬戦用の装具と同じものが手にはいらないかなと・・」
「何セット必要なの?」
「出来れば軽装、中装、重装をそれぞれ2セットづつ欲しいんだが・・・そんなに高いじゃ無理もいいとこだな・・・」
「うちにはそんなお金はもう無いですしね・・・」
「協力はしたいがうちもそこまで裕福ではないし、すまないユーゴ」
「それぐらいなら私がなんとかするわ」
「!?」
「本当か?!」
「大丈夫よ。任せなさい」
「ロシュフォール家が凄いのは分かっていますが、ドロテ個人でそんな大金自由にできるのですか?」
「大丈夫私、けっこうお金持ちなのよ」
「おまえ凄いんだな・・・」
「えっへん。尊敬しなさい。でも作るのにけっこう時間がかかると思うわ。以前に兄達がオーダーした時2か月ぐらいはかかっていたから」
「8月の長期休暇までに出来れば有難いんだがどうだろう?」
「う~ん。執事に手紙を出して聞いてみるわ」
「ドロテ、専属の執事が居るの!?すごーい!」
「ふっふっふ。もっと褒めなさい」
「そんなに胸を張ったってメリッサよりも小さ・・・」
カン!
「~~~~~!いてぇぇぇぇ~~~っ!!」
持っていた木剣で容赦なくルシアンの頭を殴るドロテ。
「それよりもお兄様、模擬戦用の装具と同じものと言ってもどうやって作ったら良いのかしら?値段よりもそっちのほうが難しくないかしら」
「それなら心配ない。教官室に通い詰めて、形や寸法をきっちりスケッチしておいた。俺の書いたパーツ図で作れるはずだ」
「あー!ここのところ昼食を早く終わらせていたのって、その為だったんですね!」
「ちょっと時間がかかってしまったがな。はは」
「凄い。ユーゴは抜け目がないですね」
「なあ、だれか絆創膏もってないか?」
「あんたは抜け目しかないわね」
スクワットや腹筋等筋トレは皆軽々とこなせる様になった。懸垂はルシアンはユーゴと同じぐらい出来るようになり、一度も体を上げられなかったドロテも体が軽い事もあるが今では15回も上げている。
「ルシアンとメリッサは二人で稽古しててくれ。レティとドロテはこっちへ」
「いよいよ私の番ね。何をするのかしら?」
「二人とも向かい合って剣を構えるんだ」
ユーゴの指示で普段どおり”肩構え”をする。
「剣を下げて。剣先は延長線上が相手ののど元にくる高さに」
ユーゴはふたりの剣の高さを手で調整した。
「足は右が前で踵は両方浮かせる。歩幅と両足の間は剣一本の厚みぐらいでつま先は真っすぐ相手に向ける」
「剣は上から握る」
「レティ、腕は突っ張らずに少し余裕を持たせて」
「色々と窮屈な構えね・・・」
「慣れれば無駄な個所の力が抜けてラクに構えられるようになる。この構えが一番攻撃も防御も自然に対応できる無駄の少ない構えなんだ」
「そうなの?」
「ああ。学校で教わる肩構えは装具ありきである程度相手の剣を体に受けることを想定した攻撃に特化した構えだ。でも二人はチームの作戦上、なるべくダメージを受けずに持久戦に持ち込まないといけない。そこでこの”中段の構え”だ」
「防御の構えねぇ。剣を前に向けてるだけの様な・・・」
ドロテは半信半疑みたいだ。
「じゃあ、ためしてみよう。ドロテ、どんな構えからでもいい、俺は打ち返さないから攻撃してみてくれ」
「よおーし、打ってこないなら余裕だわっ!行くわよっ!」
ドロテは肩構えからジリっと前に出た。
「う・・・」
ユーゴは切先をドロテの体の中心にぴったりと付けている
ドロテは右に左にと小刻みに位置を変える。
「(・・・剣が・・・凄く邪魔だわ)」
カン!
ドロテは上からユーゴの剣を叩く。
ユーゴは動じず切先で喉元を狙ったまま一歩退く。
「どうしたドロテ?俺は打たないんだぞ?」
「わ、わかってるわよっ!」
ドロテが右前方に鋭く踏み込み剣を振ろうとするがユーゴは両腕を伸ばして切先で胸を押してすぐにまた一歩引いた。
「うう・・やあああ!」
今度はユーゴの剣を無視して強引に前に出るドロテ。
しかしまたしてもユーゴの切先がドロテの胸を押しているために。それ以上間合いを詰められず、腰を入れた打ち込みが出来ない。
ユーゴは切先をドロテの胸に押し当てた状態で左右に体を揺らしてドロテの剣を躱す。そして右、左、右と剣撃を躱した後切先でドロテを押して素早く退いた。
「お兄様凄い・・・(凄いけど・・・)」
レティシアはユーゴの動きを食い入るように見ている。
「こ、このっ!」
ややムキになって来たドロテは今度は肩構えから一度振り下ろし、ユーゴの剣を跳ね上げて前に出る。
ユーゴはドロテに合わせてほぼ同時に踏み込んで体をぶつけ、左方向にドロテの体を押して自身は素早く飛び退き距離を取った。
「あーーもうっ!イライラしてきたっ!」
「大事なのは自分の中心に相手を入れない事だ。正しい構えはなかなか崩せないということだ」
「わ、わかったわよ、それを練習するわ・・・」
練習すると言ったドロテだが、何故か浮かない顔だ。
「どうしたんだ?ドロテ」
「・・・」
「お兄様」
「なんだい?レティ」
「多分ドロテも私と同じ事を考えていると思うのですが・・・」
「?」
「私とドロテはルシアンやメリッサに比べたら相手を倒す力が弱いです。なので我慢して支援を待つという作戦は良く分かります。でも、その・・・私も堂々と戦いたいです!」
「レティ・・」
「うん。私もこの作戦理解はするわ。でもこれでチームが勝っても自分が勝ったって思えないかもしれない・・・・」
「お兄様、ルシアンの拳やメリッサの体格を生かした上段の様に私達でも立ち向かえる方法が何かないでしょうか?」
「二人とも強いな・・・今やっているのはあくまでも数的に不利な状態から1対1にするまでの練習だ。心配するな。二人の特性を生かした秘策がある」
ユーゴはニッと笑った。
「本当ですか?!」
「ほんと?!」
「ああ、その為にもこの中段の構えをしっかり稽古しておいてくれ」
「やる気が出て来たわっ!」
「行くわよっ!レティ!」
「次はルシアンとメリッサか」
「・・・」
メリッサは一見豪快に打ち込んでいるように見えるがどうしてもワンテンポ遅れる。相打ちでは特に顕著に表れる。競技ではないので必ずしも相手より先に当てる必要はないのだが、常に先を取られていると相手のペースで戦いを進められて行き劣勢を強いられることになる。
「メリッサ!」
メリッサとルシアンは構えを解いてユーゴに体を向けた。
「メリッサ、上段は”火の位”と言われる程強い気持ちで攻めないといけない構えなんだ。何が何でも相手より先に打つ、相手が先に動いても自分が先に一撃入れる。それぐらい攻めないといけない。時代が時代なら自分より目上の相手や技量が上の相手に対して上段を取るのは無礼だとされていた事もある。そういった重圧を撥ね退けて挑む気持ちが必要なんだ」
「・・・ユーゴ、それなら私は尚の事自信がありません・・・」
「俺はメリッサに今の自分を超えてもらいたいと思って上段をとらせたんだ。それに例え上段の構えをとらなくてもこのままでは勝てないと思うぞ。せっかく騎士学校に入ったんだ。残り半年、人生の中で半年でいいんだ。みんなと頑張ってみないか?どうしても君の力が必要なんだ」
「・・・」
「メリッサは考えすぎるからなぁ。色々考えないで一撃ぶち当ててよっしゃあああ!で楽しいと思うけど」
「楽しい・・・?」
「うん、ホントの戦になったらどうかわからないけど、楽しくないか?学校の修練や自主練はつらいけど、俺は今楽しいぞ?。嫌な事とか考えなくなるしな」
「楽しい・・・・」
ルシアンの言葉にメリッサは難しい顔をした。
「ほらまた考え込む。はは」
ルシアンはおかしそうに笑った
「メリッサのそれはもうクセだな。どうせならどうやったら勝てるかを考えろよ」
ユーゴとメリッサはあ!、という顔をした。そうなのだ。一番の原因は剣術に、戦いに集中できていないという事だ。ルシアンのストレートな思考は時々皆を唸らせる。
「(はは、ルシアンはひょっとしたら大物なのかもしれないな・・・)」
「わ、分かりました・・・がんばってみます・・・」
メリッサは普段はチームの姉の様な存在なのにルシアンと二人でいる時は何故か立場が逆になってしまう場面が多い。
「(メリッサの事はルシアンに任せた方がうまくいくかもしれないな)」
ユーゴはこれ以上は口出しせず、ルシアンに任せて暫く様子を見てみようと思った。
「がっしゅくぅ?!!」
何事かと周囲の生徒が一斉に振り向いた。
「こ、声が大きい、食堂だから・・・」
「あ、ごめん・・」
「す、すみません・・」
「みんな夏季休暇は帰省しないんだろ?」
「私は・・・おばあ様は居ないし・・・家はもう居心地の良い場所じゃないわ・・・」
「俺は手ぶらでは帰れないし帰っても・・・」
「私も色々あって家族とはあまり話をしたくないので・・・」
「私はお兄様といっしょにいます」
「いいわね、レティはいつもお兄様お兄様~って」
「わ、私は・・・」
下を向いて赤くなるレティシア。
「からかい甲斐のある子ねぇ」
「ま、まぁ俺とレティはみんなと一緒にって決めてたし、みんないろいろ事情があるみたいだからそれならウチで合宿はどうかなと思って」
「・・・」
「??」
「ユーゴ、がっしゅくって、なんだ??」
「あ、あら・・?」
(そ、そうかこっちの世界には合宿っていう概念がないのか・・・。)
「合宿っていうのは、チームで寝食を共にする事で信頼関係を築きながら集中して修練に励むというイベントだ」
「・・・」
「・・・」
「あ、あれ・・??」
「ユーゴ」
「な、なんだいドロテ??」
「それって今やってる事とどこが違うの?」
「え・・・・・・・・・・・・・・」
確かに騎士学校の居室はチームごとに建屋が分かれており、”寝食を共に”している。放課後も休日も皆で自主練に汗を流している。もしかしたら騎士学校はそういった事を考えられたシステムなのかもしれない。
「う・・・」
ドロテがちょいちょいと手招きしテーブル上で集合をかけた。
「やっぱりユーゴって天然だわ」
「確かにシュバリエ家で寝泊まりしても同じことですが、気分転換にはなるのではないでしょうか?」
「ほ、ほら、ベッドはうちのほうが柔らかくて気持ち良いですし、食事もこことは少し違う味の物を食べられますから・・・」
「よくわからないけど、なんか楽しそうだとは思うな」
「ルシアンはユーゴチーム決定ね」
「なんでだ!?」
「さ、賛否両論あるかと思うけど、ど、どうかな?・・・」
「まあいいんじゃない?メリッサの言う様に気分転換にはなりそうだし」
「そ、そうだろ?」
「うちからだと森の特訓場までの距離もここから行くのとそんなに変わらないから普通に利用できますしね」
「よ、よし!じゃあ決まりだ。」
「私たちは良いが二人のご両親、セルジュ様とイザベル様の意向をお聞きしなくても良いのですか?」
「ユーゴとレティの父さんと母さんはレティがいるだけでご機嫌だから大丈夫だろ」
「確かにそうかもしれませんね。うふふ」
あはは。
数か月前特訓場を作った時号泣しながら帰って行った二人を思い出して皆笑ってしまった。
「私も大丈夫だとは思いますが準備も必要かと思いますので一応手紙をだしておきますね」
「そうだな、頼むよレティ」
「やることは同じかもしれないけど、なんかちょっと楽しみだぞ!」
「うふふ。そうですね」
~毎週土曜日更新します。よろしくお願いします(*‘∀‘)~




