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気迫の上段

 うぉぉぉぉ!

 やーーーー!

 たああああっ!

 カンッ!カカンッ!キンッ!!

 屋外修練場に少年少女の気迫あふれる叫び声とともに木剣や装具が激しくぶつかり合う音が響く。

「ええええぃっ!!」

 ドロテの鋭い突きをレティシアは寸でのところで弾き落とした。

「ねえ、最近メリッサの様子が変わったの気づいてる?」

「そお?ちょっと静かかなとは思うけど、彼女は元々そんなにおしゃべりじゃないし」

「この間の自主練からずーっと目がルシアンを追いかけてるし、居間にいる時もいっつもルシアンの隣に座ってるわ」

「・・・それで?」

「あんた気にならないの?あのルシアンとあのメリッサよっ!」

「今は、修練中よっ!!!」

 レティシアは力一杯ドロテを押してメンを落とした。

 ガーン!

「く・・相変わらずマジメちゃんねっ!」

 ドロテはルシアンとメリッサが気になって仕方が無いらしい。


「おい、あれみろよ・・・」

「ほんとだ!」

 不意に場がざわつき始めた。

「どうしたのかしら?」

「きっとあれね・・・」

 ドロテの視線の先に王国騎士団の制服を着た数名の男達と剣術教官のガスパーが並んで歩いていた。

「誰?」

「教官の隣にいる紺のマントの髭もじゃは王国騎士団団長のフェリクス・ラースローよ」

 ドロテの祖母アミラは王国騎士団副団長を務めた事もある人物で騎士団でのロシュフォード侯爵家の地位はとても高くドロテも良く知った顔だ。

「団長?!な、何しに来たのかしら?」

「多分視察だと思うわ」

「あの、カチっとしたヘアスタイルの背の高い方は?」

「あれは・・・・」

 フェリクスとガスパーが何事か話をしながら校舎に消えていくと、場に残った長身の男がゆっくりとレティシアとドロテに向かって歩いてきた。

「わっ!!」

 騎士団の制服を着た男が自分達の中に歩いてくるのを見た生徒たちは目で追いつつも慌てて打ち合いを始めた。

「ど、ドロテ!あの人こっちにくるわっ!」

「・・・」

 慌てて剣を構えるレティシアをよそにドロテは歩いてくるおとこに正対して待ち構えた。

「元気そうだな、ドロテ」

「・・・」

「チームHだそうだな、騎士団に入れるのか?」

「見ているといいわっ」

「ふふ、相変わらず気の強い奴だ」

「・・・」

「貸せ」

「?」

 男はドロテから半ば強引に木剣を奪うと背を向けて歩き出した。

「なに?!ドロテ??知り合い?!」

「兄よ」

「!!!」

 大声を上げそうになったレティシアは慌てて自分の口を押えた。

 男の向かった先にはユーゴがいた。

「おい、悪いがちょっと下がってくれ」

「え?!は、はい!」

 ユーゴと対していた生徒の肩を掴んで押しやると男は素早い動作でユーゴに襲い掛かった。

 男は土煙を上げながら右足を踏み込み鋭い突きを放つ。

「!」

 ユーゴはぎりぎりで左上方に剣を持ち上げて男の剣の軌道を変えた。

 ガッ!

 男の剣が頬をかすめた。

 男は踏み出した右足を引き手首を返して高速で左胴に叩きこむ。

 ガシッ!

 これをユーゴは剣の鎬部分で受ける。

 が、いつ剣を引き戻したのか?次の瞬間には男の剣は右胴に迫っていた。

 ー剣が間に合わないっ!ー

「くっ!!」

 ユーゴは咄嗟に間合いを詰めて男の剣の中ほどで胴を打たせて威力を殺した。

 尚も男は攻撃の手を緩めない。

 ユーゴを突き放し、手首だけ返してメンを放った。

 剣のスピードが尋常ではない。

 しかしこれをユーゴはギリギリで受ける。

 ガッ!!!。

 手首の返しだけの攻撃にもかかわらず受けた剣を押し込まれて兜に当たった。

 踏み込みと剣の速度、強さ、全てが予測を超えてくる。

「・・・・!」

 躱すには躱したが全身から汗が吹き出す。ユーゴは戦慄を覚えた。

「ドロテの強気の要因は貴様か?」

 鍔迫り合いで男が問う。

「!・・・(何のことだ??)」

「見習いのレベルではないな。私の剣撃をこうまで躱せる者は騎士団にもそうはいない。貴様は何者だ?」

「・・・」

 この問いにユーゴは答えられない。

 男はユーゴを突き飛ばし距離を取った。

「構えろっ!」

 剣を下げたままのユーゴに男が叫んだ。

「お、お兄様・・・」

 レティシアもドロテもメリッサ、ルシアン、取り囲む生徒は皆次元の違う攻防を目にして呆然と見守っている。

「装具を付けてください」

「なんだと?」

「装具を付けてください」

 ユーゴは冷静にもう一度繰り返した。

「・・・小僧、私を誰だと思っているのだ?なめるなよ」

「・・・」

「構えろ小僧!貴様の実力を見せてみろ!」

 ・・・・・・・・・・

 修練場はしんと静まり返っていた。

 ユーゴは左足を前に出しゆっくりと両腕を上げて上段の構えを取った。

 気迫を込めた視線を男に突き刺す。

「ほう・・・面白い、この私を一撃で仕留めようと言うのか?」

 上段は初撃を交わされると無防備となってしまう。一撃に全てを込める攻撃の構えだ。

 男はユーゴの右手が柄を握っておらず、人差し指と親指で支える形に変えたのを見逃さなかった。

 瞬時に剣をトップスピードに乗せるには握ったままではどうしてもコンマ数秒遅れるからだ。

 初めて見る構えにも動じる事無く特性を見抜いていた。

「装具を付けてください!!」

 静まり返るグラウンドにユーゴの声が響く。

 ユーゴの気迫に皆金縛りにあったように動かない。

 数秒、数十秒。数分だろうか?静止画の様な静寂の時が流れた。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「なにをしている?!ユリウス!」

 王国騎士団長のフェリクスと剣術教官のガスパーがグラウンドに戻って来た。

「むう・・邪魔が入ったな」

 ユリウスは再びドロテの元に歩いてくると剣を返した。

「お兄様、うちのチームに対する嫌がらせかしら?」

 険しい表情で奪うように剣を受け取るドロテ。

「まさか?ちょっと変わった奴を見かけたので試してみただけだ」

「どうだか・・・」

「私は次の騎士団団長に推挙されることが正式に決まった」

「!」

「模擬戦で無様な姿を見せるなよ」

「泣いて喜ばせてあげるわ」

「はっはっは!」

 レティシアは自分とは違う家族の、兄妹のあり様を複雑な気持ちで見ていた。



「ユリウス、久しぶりにここに来て若者と一緒に体を動かしたくなったのか?」

 雄々しい口髭と顎鬚を蓄えた騎士団長フェリクス ラースローは片方だけ僅かに口角を上げた。

「はっ。そんなところです」

「ヒヨコと共と戯れるのも良いがお前は私の後の騎士団長だ。畏れられる威厳も必要だという事を忘れてはなるまいぞ」

「は!心得ております」

「ならば良い」

「相変わらず堅物だなフェリクス」

「ふん、顔に似合わず貴様が楽天的なだけだ。早くに一線を退いてのんびりしすぎではないのか?ガスパー」

 ガスパーは前大戦で大怪我を負いやむなく一戦を退いたのだが彼はまだ十分に戦えるとフェリクスは思っている。 

「別にのんびりしているわけではないし、カオは関係ないだろう」

「はっはっは!」

 騎士団長フェリクスと騎士学校剣術教官ガスパーは騎士学校の同期だが、髪も髭もボリュームのあるフェリクスと髭もキレイに剃り落としている坊主頭のガスパーは容姿も性格も実に対照的だ。

「フェリクス団長」

「なんだ?」

「私はもう少し師匠と話しをしていきます」

「そうか、貴様はガスパーの弟子だったな。では先に帰るとしよう」

「失礼します」

「うむ」

 ガスパーとユリウスは敬礼してフェリクスを見送った。

「師匠、ちょっと戻られるのが早すぎです」

「いや、すまんフェリクスに連絡が来て急遽王宮に向かわねばならなくなったので引き止められなかった。で、ユーゴ・シュバリエをどう見た?」

「はい。かなり鍛えられてはいますが間者ではないと思います」

「根拠は?」

「まず、騎士団潜入が目的であればもう少し事前に情報収集をして強いチームに入っているはずです。それに私に対して装具を付けろ等と甘い事は言わないでしょう。そもそも奴は私を知らない様でした」

「むう・・・それもそうだな、この王国に潜入してきて次期王国騎士団団長のお主を知らないというのは妙な話だ。わしの思い過ごしかもしれん、手間をかけさせたな」

「いえ・・・ご自分で確かめてもよかったのではありませんか?」

「おいおい冗談をいうでない。わしの立場で一人の生徒を特別扱いするようなことは出来ない。それに、負けてしまったらどうするのだ?」

「”鋼鉄の重騎士”の異名を持つ師匠の言葉とは思えませんぞ」

「はは、その二つ名も返上するかな」

「なにを仰います。師匠の騎士団への復帰、私は諦めてはおりません。せめて”騎士団付き”という事でご指導願えないでしょうか?」

「お前もしつこいな。あれだけ第一線にこだわり続けた同期のフェリクスも引退するのだ。わしらの時代は終わりだ。これからはお前たちが王国を騎士団を盛り立てていくのだ」

「・・・」

「それよりも、ここのところニネ公国の動きが怪しくなってきているそうだな。ローゼンヌ王女との縁談も進展ないまま半年が経過している。このような状況でアミラ様が王国最後の聖騎士であったという事を断じて他国に知られるわけにはいかん」

「素性のよくわからないユーゴが騎士団入団となった場合は監視が必要だということですね」

「うむ。奴がシュバリエ家の養子となったのはつい数か月前ということだ。加えてあの知識、身のこなし、剣術の腕、警戒はしておかなければならん」

「は!。ところで師匠」

「なんだ?」

「今年の新人の質は如何でしょうか?」

「おお、今年はなかなか面白い素材が多くてな。見てて楽しいぞ」

「面白い素材・・・やはりユーゴ・シュバリエですか?」

「うむ、奴はもちろんだが・・・」

「クルーゼ家のユベールとティエリー家のイザーク・・・の事でしょうか?」

「入学前に騎士団で修練を積んだという特待生だったか?その二人は確かに良いものを持っておる。ここでは頭一つ出た存在だが・・・面白くはないのぉ」

「ではアルバン・グロッソですか?」

「そうだのぉ、体格に恵まれたアルバンは将来必ず王国騎士団の中軸になるであろう素晴らしい素材であることは間違いない。・・・しかしな、面白くはないのだ」

「・・・申し訳ございません、師匠の言われる面白い素材というものが私には分かりかねますが、他に将来性のある者がいるということでしょうか?」

「ははは、おぬしはフェリクスにタイプが似ていてちと頭がカタいのぉ。面白いというのはな、何をしでかすかわからない、本番で思いもよらない活躍をするようななんというかな、見ていてワクワクする者の事だ」

「そのような生徒がいるのですか?」

「うむ。おぬしの妹な、なんと言ったかな?」

「まさか・・・ドロテの事でしょうか?」

 ガスパーは含みのある笑みを浮かべた。

「しかし、師匠あ奴は・・・」

「騎士になるには体が小さいという事で入学を猛反対したそうだな」

「ご存じなのであればドロテは一見して期待薄とおわかりではないでしょうか?」

「しかしあれもおぬし同様聖騎士アミラの孫だ。受け継いでいるものはちゃあんとあるぞ」

「・・・師匠も祖母と同じことを言われるのですね・・・」

「アミラ様も生前そう言われたのか?それならばますます面白い。ユーゴの影響かドロテだけではなく皆成長度合いが群を抜いておる。チームHは本当に楽しみだ。間違いなく今摸擬戦の台風の目となるだろう」

「ユベールやイザーク、アルバンよりもユーゴのチームHの方が有望だといわれるのですか?」

「お?では賭けてみるか?」

 楽しそうに長身のユリウスを見上げるガスパー。

「ご冗談を、他のものならいざ知らず次期騎士団長の私が賭け事などできません」

 ユリウスはチラっとだけ師をみやると仏頂面で否定した。

「ふふ、冗談だ。相変わらず面白くない奴だ。だが今年の御前試合は面白くなりそうだの!。はっはっは!」

 ガスパーは雲一つない空を見上げ豪快に笑った。






                   ~毎週土曜日更新します。よろしくお願いします(*‘∀‘)~

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