第3話 新たな出会い
ここもセリフとか少し変えてますが、ほぼ変わってません。
学院準備編全部飛ばしました!
入学式当日。
門の前で並んで順番を待つ学生たち。
貴族の者たちは元から交流があるためか、すでにグループが出来上がっていた。
そんな中、最後尾から少し離れてポツンと一人佇む少女がいた。
ダークブロンドの綺麗な髪をシュシュで束ね、横に流している。
瞳は緑色で、平民に多い一般的な見た目だった。
制服も黒いワンピースのため、胸についている金色の校章だけが浮いて見えた。
彼女の名前はサニア。魔法科の新1年生だ。
もうお分かりだろう。
中身はサフィニアだ。
何故こんなことになっているかというと、2日前にサフィニアが国王へ打診したからである。
「サフィニアというSSランク冒険者のまま入学したくないんです。別人として学ばせてくれませんか」
国王は少し眉根を寄せたが、頷いてくれた。
本当はサフィニアとして大々的に入学させたかったのだろう。
こうして魔法科に通う茶髪の少女サニア・ドウランが出来上がったのだった。
サフィニアは列に並び辛かったため、人がいなくなるのを待っていた。彼女なりに端に寄っているつもりだったが、ぶつかられてしまった。
男は前を見ていなかった……というよりはただの当たり屋かもしれない。わざわざ端にいるサフィニアにぶつかっていったのだから。
「ちっ、平民が! 何ボサッと突っ立ってる! 痛えじゃねぇか!!」
おそらく何か気が立っていて、誰でも良いから弱い相手に当たって発散したかったのだろう。
サフィニアはその言葉にイラッとしたが、問題を起こしては面倒くさいので大人しく謝ることにする。
「すみませんでした」
頭を下げて謝罪していると、声が聴こえた。
『何あいつ! サフィニアに何すんのさ!』
『やっちゃいますぅ〜?』
『やっちまおうぜ!』
サフィニアは慌てて顔を上げる。
あら、前に言った、レンとロンがいるじゃない。
文句をつけてきた男の姿はもう無かったのでホッとしたが、目の前の光景に半眼になった。
『あんたたち、学校で私の前に現れたら許さないからね』
彼らはその言葉を聞いて慌てて散っていった。
「大丈夫?」
突然後ろから声をかけられて振り返ると、白い制服を着た爽やかな美青年が立っていた。
先程の光景を見て走って駆けつけてくれたようだ。
息一つ乱れてないけど。
「大丈夫ですよ、ありがとうございます」
サフィニアはお礼を述べてから「どうぞ」と自分の前へ並ばせようとする。
「君は並ばないの?」
まるで物語から出てきた王子様のような美貌の青年は、サフィニアに疑問を投げかけた。
サフィニアは目をパチクリさせる。
今まで譲り続けてきたが、そんな事を言われたのは初めてだった。
「私は勝手がよく分からないので、最後にしようかと」
そう告げると「じゃあ一緒に並ぼう、僕が教えてあげるよ」と言ってサフィニアに手を差し出した。
サフィニアは迷いつつも、ゆっくりと手を置いた。
彼はその手を優しく握ると列へと連れて行ってくれた。
「どうぞ、お嬢様。……失礼でなければ名前を聞いても?」
口元を緩め、優しく微笑む。
「サ、……サニア・ドウランです」
サフィニア、と言いかけて一瞬止まる。
慣れない名前に危うく本名を名乗ってしまうところだった。
しかし、傍から見たら緊張して噛んだようにしか見えなかった。彼の前では緊張してしまうのも無理はない。
そんな空気で。
「サニア嬢、美しい名前だね。
僕はジェンソン。制服で分かるかな? 騎士科だよ」
自分の胸に手を当てて自己紹介をする。
「サニア嬢は魔法科だね」と目を細めて笑った。
笑顔を絶やさない男のようだ。
動きの端々に優雅さを感じる。もう絶対、100%貴族だ。
光り輝く銀髪、鮮やかな薄紫色の瞳。細身でスタイルがよく、身長は180cm程度だろうか。
剣士とはもっとガタイの良いものではなかったか、とサフィニアは冒険者ギルドにいる人たちを思い浮かべて打ち消す。
「私は平民ですから、嬢、なんて必要ありません」
嬢、という敬称に違和感しかなかったサフィニアは、突っ込まずにはいられなかった。
それを聞いてジェンソンはきょとんとする。
「そうかな? 嬢は貴族の令嬢だから付けるわけじゃない。僕がそう呼びたいから付けているんだよ」
当たり前の事のように言う彼に、サフィニアは目を見開く。
紳士とはこういう人のことを言うのだろう。貴族も平民も関係なく接してくれる。
なんだかとても騎士が似合っているように思えた。
「そうなんですね。でも、私が恥ずかしいのでやめてほしいです」
サフィニアは眉を下げ、困ったように笑った。
「わかったよ。サニアちゃん、なら良い?」
彼もまた同じように笑う。
妥協点、ということだろうか。
サフィニアにとってはその笑顔さえ眩しくて、思わず下を向いた。
そこでふと気付く。
いつまでこの手を乗せておけば良いのだろうか。
こちらから放すのを待っているのではないか。
どうするのが正解なのか。
と。
サフィニアは勇気を振り絞って発言する。
「あの、手は、どうしたら良いのでしょう……か?」
その間もサフィニアは手に視線を注いでいた。
イケメンオーラが輝きすぎて、顔を見ることが出来なかったのだ。
こんなイケメン、冒険者ギルドでは見たことがなかった。
ダフニーもそれなりに美青年だったようだが、歳には勝てない。
「このまま繋いでおく?」
ジェンソンはいたずらを楽しんでいる子供のような笑顔で、下を向いているサフィニアの顔を覗き込んできた。
明らかにからかっていると分かるその顔。
分かっているのに赤面してしまうサフィニア。
撤回。
ジェンソンは紳士じゃない。
間違いなく悪魔だ。
そんな顔を近くで見たら誰だってそうなる。それを分かっててやっている。
サフィニアの赤くなった顔が元に戻る頃には、もう門が目の前に迫っていた。
そこでは書類を渡して確認してもらうだけの簡単な受付が行われていた。緊張していたがあっさり終わり、サフィニアたちは正門をくぐった。
それは見上げるほど高く、白い石造りの柱に繊細な金の装飾が施され、両脇には学院の紋章が刻まれていた。
その先には、学院の建物へと続く太い道が真っ直ぐに伸びている。
先程のことで恥ずかしくなったサフィニアは、ツカツカと敷地内を進んでいた。
それを追いかけるように歩くジェンソン。
正門から建物までは結構な距離があるようだ。
学院の建物まで続く舗装された太い道が、真っ直ぐに伸びていた。道の両側には広々とした庭園が広がり、所々に横道が交差している。
左手には、開けた空間の中央に噴水が設けられていた。水を噴き上げる噴水の周囲には色とりどりの花壇が並び、整然と植えられた花々が庭園を彩っている。
右手には、背の低い低木が点在し、その奥には針葉樹や広葉樹が植えられていた。木々の間にはゆとりある空間が設けられ、庭園の一角には、ティーパーティーなどの交流に利用される会場も備えられていた。
「……まだ怒ってるの? からかったこと」
ジェンソンは申し訳無さそうな声で沈黙を破る。
「からかった」と直接言われてサフィニアはムッとしてしまった。
「怒ってませんよ、ええ。全くもって!」
言葉ではそう言っているが、明らかに怒った口調で話す。語尾の主張も激しい。
サフィニアは急に立ち止まり、ジェンソンの方を振り返る。
ジェンソンはビクッとした後、固まった。
「ジェンソンさんはもう少し自分の顔の美しさを自覚した方がいいんじゃないですか?」
冷ややかに告げる声。
一息で言い切る様は、まるで彼女から冷気でも出ているのではないかと錯覚するほどである。
いや、実際に氷魔法が発動しかけていた。
「わっ、ちょストップ! 学院を凍らせる気!?」
ジェンソンは両手を前に突き出して止める仕草をしながらも、かなり大きな魔法陣を冷静に解析していく。
初めて見る魔法陣だった。
(古代魔術語……? まさか、こんなところでお目にかかれるとは)
焦りとは裏腹に、ジェンソンの胸は高鳴っていた。
平凡な少女だと思っていたが、この魔法陣を見てサフィニアに興味が湧いた。
はるか昔に失われたとされる古代魔術語の魔法陣。
もし本当に発動できるのなら、とんでもない魔力の持ち主ということになる。仮にハッタリだったとしても、あれほど精巧な魔法陣を描けるだけの知識があるのだ。
どちらにしても、ただの平凡な少女ではなさそうだ。
ジェンソンは込み上げる好奇心を抑え、困ったような顔をサニアに向けた。




