第2話 招かざる来訪者
ここも結構直しました。
流れは変わってないですが、言い回しとか、セリフが変わっています。
よろしくお願いします!
扉の前に立つ護衛は二人に気づくとノックをし、部屋の中へ入っていった。
「……か、客人が到着いたしました」
少し聞こえてきた言葉に、こっちからしたらあんたが客人だよ、と突っ込みたくなる気持ちをなんとか抑え込む。
「失礼いたします」
ダフニーが頭を下げてから部屋に入り、サフィニアもそれに続いた。
彼はすかさず口を開く。
「陛下、サフィニアを連れて参りました。先程も申し上げましたが、この者は礼儀作法に疎く、……」
「気にせずとも良い。王家に不作法した程度で咎めるなどもう古い考えだぞ」
(え、今なんて?)
サフィニアは床に落としていた視線をその人の方に向け、目を見開いてしまった。
国王はダフニーの言葉を手で制し、そのまま言葉を続けた。
「時間がないので本題を話そう。実はサフィニア殿を宮廷魔導師として受け入れようと思ってな。そのために高等学院の魔法科に入学してもらいたくて来たのだよ。
もちろん入学手続きの書類は用意させてある」
サフィニアはいきなり入ってきた情報に思考が停止するが、そんなサフィニアのことはお構いなしに話は進んでいく。
「子爵以上の者の推薦があれば入学することができる。それはオドウラサン殿に頼みたい」
ダフニーは侯爵家出身であるので、条件を満たしている。
命令口調ではないが、拒否権も無い。ダフニーは頷くことしか出来なかった。
立場が上の者に頼まれたら断れるか?
否。無理。笑顔で二つ返事。社畜万歳。
国王は横にいる護衛に目で合図を送って席を立ち、
「では、よろしく頼むよ」と言って部屋を後にした。
残った護衛らしき人も書類を机に置いて一礼して退出した。
嵐が過ぎ去ったのを確認してから、サフィニアは溜め息を吐く。
ダフニーも同じ気持ちのようで、隣で長い溜め息を吐いていた。
「というか、なんで王様がこんな所に……」
サフィニアは遠い目をしている。
偉い人だろうとは覚悟していたが、国のトップがお出ましとはさすがに予想外だった。
「視察で隣の街に来ていたのは知っていたが。まさか直接来るとは思わなかったな」
ダフニーの眉が八の字になった。
「目立ち、過ぎたんですかね?」
下を向いてポツリと漏らす。
スカウトしたいと思わせるほど目立ってしまったのではないか。
メディアを全て断っていても情報は漏れるものだ。
「まぁ、この状態で目立たない方がおかしいからな。
……すまない」
ここには二人しかいないからか、ダフニーはいつもの口調に戻っていた。
「やはり排除するより手懐けたほうが得策、だよな」
「え?」
ボソッと付け加えて言う言葉にサフィニアが反応する。
「サフィニア、君は恐らくこの世界で最強だろう。君に国を守らせれば、誰にも負けないということだ。この意味が分かるね」
「最強かどうかは分かりませんが、それが持つ意味は分かります」
サフィニアはゴクリと喉を鳴らした。
最強の冒険者を味方につける。それだけで他国への牽制になる。
国王がサフィニアを欲しがる理由は、単なる興味本位などではなかった。
「はは。そんなに戦力を集めて、何を始める気なんだろうな……」
今の国王は身分制度の撤廃に力を入れた政策を行っている。しかし貴族側はそれに猛反発しているのだ。せっかく絶対的な立場にいるのだから、その地位を失いたくないのだろう。
(反対勢力への牽制にでも使うつもりか?)
ダフニーはソファに寄り掛かって天を仰いだ。
サフィニアは、先程からダフニーが意味深な発言をしていることには気付いていた。しかしそれはサフィニアの知らない世界の話(政治)なので突っ込む気はさらさらなかった。
これでもある程度は空気を読める子なのだ。
「ま、まぁ過ぎたことは仕方ないですよね! 自重せずに狩りまくってたのは私ですし。切り替えます。
とりあえず入らなきゃいけない学院のこと教えてほしいです」
色々な思惑はあるにせよ入学は決定事項で、起こってしまったことを悩んでも時間の無駄だ。深く考えるのが嫌なのか、ポジティブなのかは分からないが、サフィニアはそういう人間だった。
サフィニアは全身をダフニーの方に向ける。
考え込んでいたダフニーはハッとして顔をあげ、サフィニアの方を向いた。
「あ、ああ、そうだな。
まずクリサンセマム王立高等学院は主に貴族が通う超名門校だ。今は平民であっても能力があれば通うことが出来る。王宮で務めるためにはここに通わなきゃらない。陛下がサフィニアを入学させたいのも、これが理由だ。
学院内では身分差別が禁止されているが、実際はあるぞ。嫌になる程な」
「いや無理無理。無理ですって」
サフィニアは死んだ魚のような目になった。
それに対してダフニーは苦笑いで返事をする。
「そもそも私、初等部も中等部も通ってないんですよ? 授業についていけるわけないじゃないですか」
その言葉にダフニーは口角をあげる。
「それについては問題ないだろう。君はすでに高等部までの教養を全科目終わらせている。魔法についても、精霊から教わっている君の右に出る者はいないはずだ」
ダフニーが自信満々に言うのも無理はない。一般教養は、主に彼が教えていたのだから。
しかしサフィニアはそんなダフニーを見て半眼になった。
「はぁ。それは私が内容を覚えていればの話ですよね」
ポツリと呟いてからサフィニアは小さく溜め息を吐いた。
ただ話を聞いていただけだというのに、ダフニーにとっては履修したことになっているらしい。
「で、入学って何歳のいつなんです?」
サフィニアは学校に行こうと思ったことがなかったため、入学時期がいつなのかすら知らなかった。
「16歳になる歳の4月だよ。あれ、サフィニアって今何歳……」
来年16歳だったか、と思いながら年齢を数えていると、サフィニアが答えた。
「確か、5月で16歳ですね」
今日は3月28日で、今年の入学式は4月7日らしい。
入学式まであと2週間を切っていた。
げっ、と二人で顔を見合わせる。
そして一瞬の静寂の後、ダフニーは今にも爆発しそうな爆弾を抱えているかのように早口で話し出す。
「いやいやいやいや、もう推薦の締め切り過ぎてるぞ!? いやそれどころか入学までもう10日くらいしかないんだが! どうするんだこれ!?」
「わ、私にそんなこと言われても! 王様がなんとかしてくれるんじゃないんですか!? とりあえず王様が持ってきた手続き書類確認して下さい!」
彼女もつられて声が大きくなってしまう。早く爆弾を処理してくれと言わんばかりの形相だった。
ダフニーは慌てて書類に目を通す。
「……特に追加の書類等は入っていないようだが、……ん!?」
ダフニーはある部分を見て目を見開き、何度も確認する。
「これ、既に学院長の承認印が押してあるぞ……」
サフィニアはその言葉の意味がよく分からず、小首を傾げた。
「それって、何か問題なんですか?」
「問題というか……普通は推薦書類を提出して、学院長の承認をもらってから入学手続きを進めるんだ。だが、これは最初から承認されている」
「……はい?」
サフィニアはますます分からなくなった。
「つまり、入学が決まっているということだ。あとは必要事項を書いて、入学式にこの書類を提出すればいい」
「え、でも、それって普通じゃないんですか?」
書類を提出して入学する。それ自体は何もおかしくないように思えた。
しかしダフニーは頭を抱える。
「違う。君はまだ推薦すらされていないんだぞ」
「……あっ!!!!」
サフィニアはようやく理解した。
つまり、書類審査をせずに無条件合格ということか。
通常なら推薦を受けて書類を提出し、審査が行われた上で学院長の承認印が押される。ところが、今回はその手順が丸ごと飛ばされている。締め切り後にねじ込んでいるので完全なる裏口入学である。
フセイダメ、ゼッタイ。
(お偉い様は何を考えているのやら。いきなりこんな辺境まで来て学院に行けなんて。
これなら王の命令で宮廷魔導師にしてくれた方がマシだった。というかそうしてくれ)
そんなサフィニアの虚しい言葉は、誰に届くこともなく消えていった。




