↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/13

第1話 チート魔導師と冒険者ギルド

話数の区切り場所を大幅修正しております。

内容は大きく変わっておりません。

 サフィニアは火山から森の入口まで転移した。


 転移魔法を使える者は少ないらしく、人に見られないようにする必要があった。ここは人通りがなく、死角もあり、街にも近い。好条件が揃っているため、とても便利な場所だった。


 近いとはいっても、街中にある冒険者ギルドまでは歩いて一時間ほどかかるが。

 


  ここエクセイタは、国の最西端に位置する街だ。街の外れにはマグノール大森林が広がっている。

 森林の奥には多くの魔物が棲息し、その中心には魔王が封印されていると言われている。しかし、そこに辿り着いた者はいない。


 そんな未踏の地に近いエクセイタは、冒険者たちで賑わう街だった。出店が立ち並び、中心部には商業施設や娯楽施設も多く、毎日がお祭りのような賑わいを見せている。


 サフィニアは白い建物の前で足を止めた。

 冒険者ギルドは二階建てのシンプルな建物だ。

 入り口は二つあり、右側の入り口の床には魔法陣が描かれている。冒険者登録を済ませた者だけが通れる仕組みだ。左側には登録申請の窓口があり、未登録の者はまずそこで手続きを済ませる必要がある。

 サフィニアが右側の扉の前に立つと、自動で扉が開いた。


 サフィニアが中に入ると、騒がしかったギルド内が一瞬にして静まり返った。

 彼女の姿を見つけ目を輝かせる者、様子を窺う者、訝しげな表情を浮かべる者もいた。


 赤髪のSSランク冒険者、サフィニア。

 この街で冒険者をしていれば、一度はこの名前を聞いたことがあるだろう。しかし、彼女が戦う姿を見たことのある者は、ほとんどいなかった。


「……あれが、本当にSSランクなのか?」

「やめとけ。本人に聞こえたらどうする」

「だって、戦っているところを見たことがないんだぞ」


 遠くで囁かれた疑念は、サフィニアには届かず消えていく。

 そんな視線をサフィニアはまるで気にする様子もなく、受付へと向かっていった。

 


「あら、サフィニア様! おかえりなさい! 依頼完了書類の提出ですね。では、少々お待ちください」


 受付の女性はサフィニアを見るなり、満面の笑みで声をかけた。


 Aランク以上の冒険者は、様付けで呼ばなければならない決まりがあるらしい。お得意様的なやつだろうか。


 こんな小娘に様付けなんてしたくないだろうに。サフィニアは申し訳なく思いながら、依頼完了書類と依頼物を差し出した。


 受付の女性はそれらを受け取ると、手に持った検知器を素材にかざし、続いてサフィニアにもかざした。

 これは不正検知器のようなもので、提出された素材に残る魔力残滓と冒険者の魔力を照合し、不正がないかを確認するための魔導具だ。


 以前は、弱い冒険者が採取した素材を強者が横取りしたり、実力もないのに他人の成果を自分のものとして報告したりする事件が横行していた。

 そのためサフィニアがなんとなーく作ってみたものだが、今ではギルド内の必需品になっている。


「はい、問題ありません! それでは冒険者カードの更新を行いますので、少々お待ちください」


 受付の女性は笑顔でそう告げると、事務室へと下がっていった。


「あの、Aランク素材の依頼ってありますか?」


 サフィニアが声をかけると、女性は振り返り、靴の踵をコツコツと鳴らしながら戻ってきた。


「色々出ていますが、これから向かわれるのですか?」


 まだ日が沈むには早いものの、太陽は少しずつ傾き始めている。これから依頼に向かうには、少々遅い時間だった。


「いえ、素材の在庫があって」


 サフィニアはそう言って、あらかじめ用意していた素材の一覧を差し出した。


「これで依頼を完了できるものがあったら、お願いしたいです」


 お姉さんはその紙を受け取り、目を通す。

 素材の多さに一瞬目を見開くが、サフィニアならなんでもありだと思ったのかすぐに笑顔を作った。

 

「では、受注確認も行いますので、お時間をいただきますね。どうぞ、そちらでお寛ぎになってお待ちください。飲み物はサービスさせていただきます」


 そう言って、女性は再び事務室へと戻っていった。

 


 

 サフィニアは休憩スペースの椅子にちょこんと腰掛けた。

 少し高めの椅子から、靴先が床に届かない。彼女はそんなことを気にする様子もなく、ふわりと揺れる髪を指先で払った。


 その姿を、少し離れた席の冒険者たちが見つめていた。


「……今日も可愛いな」

「お前、毎回それ言ってないか?」

「うるせぇ。見ろよ、あの小動物みたいな姿を」


 いかつい男が両手で顔を覆い、隣の男が呆れたように肩を叩く。


 その一方で、別の席では美しい女性冒険者が胸を押さえていた。


「くっ、無理……可愛すぎる……!」


 当の本人は、そんな視線にも会話にも気づかず、運ばれてきたりんごジュースを両手で受け取った。


「ありがとうございます」


 小さく頭を下げ、ストローに口をつける。


「……生きてて良かった」


 誰かが呟いた。


「バカモノっ!」


 すかさず隣の年配の冒険者が、その男の頭を叩いた。



 それからしばらくしてジュースがなくなりそうになった頃、受付の女性が戻って来てその場で話すことになった。

 彼女の話によると、50個ほどの依頼を完了できるという。他にも今は依頼が出ていない素材がまだまだ余っているので、依頼が来次第連絡するとのことだ。

 サフィニアは都合の良いように処理して構わないことを伝え、提案されたものをそのまま完了手続きにまわしてもらった。


 報酬は冒険ギルドの銀行に行くようにしてあるので、そのうちそちらに入金されるだろう。

 サフィニアにはこれといった趣味もなく、正直言ってお金を全く使用していない。お店を外から眺めることはあっても、中に入ったことはなかった。しつこく誘ってくる人が一人いるのだが、頑なに断り続けているのだ。

 その男はそんなサフィニアを気遣ってか、服や装飾品などを押し付けてきた。

 しかし可愛らしいフリフリー、ヒラヒラーなものが多く、全くもって冒険者の仕事着に向いていない。


(まぁなんだかんだ言ってあの人貴族だからな。ドレスが普段着という感覚が抜けないのだろうが……)

 

 サフィニアは冒険者用の服や防具などを買いに行くことすら面倒くさいようで、その普段着の中からなんとか動きやすそうなものを複写(コピー)して洗浄魔法で着回しているのだ。

 このことに関しては普段着用にくれた服から選ぶサフィニアの方が悪いのだが、冒険者用の服は硬い重い着心地が悪い、と最悪の3拍子が揃っていて正直着たくない。それでも命を守るために着用するのが常識であるが、幸か不幸かサフィニアにはその必要もなくそこら辺が無頓着なのである。

 

 食べ物は森にいくらでもある。住む場所は森に小屋を作ったし、家具一式ももらいものを使っていた。

 衣食住にも満足していた。

 全てのことを自分(+精霊)で出来てしまうため、お金を使う場面がない。

 最後に通帳を確認したのはいつだろうと思い返してみるが、一度も確認したことがないことに気付いてしまった。おそらくものすごい金額に膨れ上がっているであろう事は容易に想像がついた。



 

「サフィニア様! 本日は貴重な依頼をいくつも処理していただきありがとうございました!」


 急に声をかけられ振り向くと、そこには満面の営業スマイルを振りまく壮年の男性がいた。

 彼は冒険者ギルド長のダフニー・オドウラサン。

 彼女が孤児院を出て森で暮らしていた所を拾って冒険者にしてくれた恩人。服を押し付けてくる貴族とは彼のことだ。

 ダフニーは人目があることを気にしてか、営業口調で話していた。ダフニーが育ての親だということは秘密にしているからだ。

 サフィニアはその調子に歯がゆい気分になりながらも、滅多に1階に来ないダフニーが降りて来たことを訝しむ。

 案の定、ダフニーは気まずそうに言葉を続けた。


「それで、申し訳ないのですが貴女様にお会いしたいというお方がいらっしゃいまして……」


 サフィニアは眉を顰めた。

 彼女に会いたがる依頼主はたくさんいるが、全てダフニーに断ってもらっている。

 彼はこの国の中でもかなりの権力者、最上位クラスの貴族である。その彼が断れず会わなければならない相手なんて、王宮関係者しかいない。

 サフィニアは逡巡したあと、口を開く。


「ええと、知っての通り、私は礼儀作法は何もわからないんですが……」


 サフィニアは眉間に皺を寄せ、露骨に嫌な顔をした。


「その事に関しては伝えてあるから、気にしなくても大丈夫ですよ」


 大丈夫だと言いながらも、ダフニーの目は泳いでいる。


(絶対面倒くさいやつだ、会ったら取り返しつかないやつだ!)


 サフィニアは咄嗟にそう思った。


「会わないという選択肢はないようなお方なんですよね……? そうじゃなかったらギルド長は断ってますよね」

「……ソウデスネ」


 ダフニーの視線は斜め上を向いたまま戻ってきそうにない。

 サフィニアは貴族でもそんな態度を取りたくなるような事があるんだな、と同情しつつも頷く気分にはなれなかった。

 しかしこれは命令であり、背くことは許されないような状態である。ダフニーは言葉を濁して下手に出ているだけで、「どうするか?」とは聞いていない。最初から彼女の意思なんて関係ないからだ。

 サフィニアは仕方なく頷いて、ダフニーと共に2階の客間の前まで歩いていく。二人とも足取りが重く、二階へと続くたった数十段の階段が永遠に続いているような気分に陥った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。