第10話 おしゃれなカフェで
「サニアさんは、学院に入学するまでは、どのように暮らしていらしたのですか?」
ビオラの問いに、サフィニアは特に考える様子もなく答えた。
「孤児院にいました」
「孤児院、ですか……」
ビオラは少しだけ目を伏せたものの、それ以上は尋ねなかった。サフィニアがあまり自分のことを語りたがっていないように見えたからだ。
実際はボロが出るから聞かないでくれと思っているだけだが。
質問を変えようと考えていると、ふと、先ほどの授業での出来事を思い出した。
「そういえば、古代魔法陣の本はそちらでご覧になったのですか?」
「え? いや、えーっと、森? で? 見たかもしれません」
特定の場所を答えれば、そこを調べられるかもしれない。孤児院や図書館など、場所を絞られるような答えは避けたかった。
その点、森ならば範囲が広すぎて探しようもないだろう。
そう考えての返答だったのだが。
「……森?」
思いがけない返答に、ビオラは思わず聞き返した。
ここら辺には森がないので嘘だと怪しまれたのかもしれない、と焦ったサフィニアは、つい口を開いてしまう。
「私エクセイタ出身で、森がすぐ近くにあって」
「えっ、もしかしてエクセイタのマグノール大森林のことですか!?」
「そ、そうです」
「……サニアさんは、よく森へ行かれていたのですか?」
「まあ、そう、ですね?」
そこまで聞いて、ビオラは思案する。
孤児院で暮らしていたというサニア。
もしかすると、そこには彼女を気にかけてくれる大人がいなかったのではないだろうか。
誰にも頼れず、一人で森を歩き回っていたのだとしたら。
ビオラの胸が、きゅっと締めつけられた。
「……そう、だったのですね」
「?」
何かを察したように表情を曇らせるビオラに、サフィニアは首を傾げた。
「あそこはかなり危険な森のはずなのに……そんな所に一人で……。
サニアさん!! 学院で困ったことがあれば、遠慮なく私を頼ってくださいませ!」
「え?」
「では早速お勉強をいたしましょう!!」
「えっ??」
涙を拭いながら告げるビオラに、サフィニアは目を瞬かせた。
なんだかまた盛大な勘違いをされている予感がする。
ビオラは胸元のペンダントから教科書とノート、筆記用具を取り出し、テーブルの上にそれらを並べた。
まさか、今から勉強を始めるということだろうか。
確かに一緒に勉強しようと言ったが、今日からさっそく始めるとは思ってもいなかった。
戸惑うサフィニアをよそに、ビオラは教科書を開いた。
「今日の魔法陣について、サニアさんは目立ちたがりには見えませんでしたけど、どうしてあのようなことを……?」
「あー、魔法陣の言葉……全く読めなくて……」
まさか、文字が読めないから気になって直していたなどとは、口が裂けても言えない。
「まあ! 読めなかったのですか?」
ビオラはやっぱり、と頷く。
放置されていて誰も教えてくれる人がいなかったのだろう、と。
(文字も教えてもらえず、魔法陣の勉強もできないまま……。それでも自分で学ぼうと、森の中まで……!)
ビオラは胸の前でぎゅっと拳を握った。
彼女が実際どのような環境で育ってきたのか、詳しいことは何も知らない。
けれど、危険な森へ一人で足を運び、誰に教わることもできず、偶然そこで見つけた本で魔法を学ぼうとしていたのだとしたら。
(なんて健気な方なのでしょう……!)
今まで誰にも頼れずにいたのなら、せめて学院では安心して過ごしてほしい。そして学びたいことがあるのならできる限り力になってあげたい。
ビオラは決意を新たに、サニアへと向き直った。
「ご安心くださいませ! 私が一からお教えいたしますわ!」
「えっ、あ、ありがとうございます……?」
なぜそこまで力強く言われているのか分からないまま、サフィニアはとりあえずお礼を口にした。
その反応を見たビオラは、ますます胸を熱くする。
(こんなに遠慮なさって……! きっと、誰かに頼ることにも慣れていらっしゃらないのね……!)
「ええ、ええ!! まずは魔法陣に使われている文字から覚えてみましょうか!」
そう言って、ビオラは紙面に並んだ文字の一つを指差した。
「こちらがA、そしてこちらはBですわ。順番に覚えていけばそれほど難しくはありません」
指先を隣の文字へと移しながら、一つひとつ丁寧に説明していく。
「こちらがCで、その隣がD。こちらはEですわね」
ビオラは文字の形と読み方を教え、ときおりサフィニアが理解できているかを確かめながら先へと進んでいった。文字の形こそ異なるものの、今使われている言語のアルファベットと一対一で対応しているようだ。
一通り文字を説明した後に、ビオラはあの炎の魔法陣を描いて見せた。
「つまり、この中心にある文字が、FIREになります。そして周りに、『紅蓮を司りし炎よ、我が魔力を糧に顕現せよ。燃え盛る灼熱の力をもって、眼前の敵を焼き払え』と描いてあるのですわ。そしてこの一番外側、縁の部分に魔力を操作するための公式を入れてありますの」
説明を聞きながら、サフィニアは魔法陣をじっと見つめた。
(今の紅蓮を、なんとかって何?? というか縁の部分に魔力操作の式?? 炎に?)
こんな簡単な魔法にわざわざ必要なのかと疑問に思ったが、この間の魔視の魔力操作の下手さを考えたら不思議でもないかもしれない。
(でもそうだとしても、この公式とかいうやつ、私の知ってるものと全然違うんだけど。どんな操作を魔法陣にして欲しいのか全く分からない)
分からないことだらけの魔法陣に、サフィニアは混乱する。中心に書いてある文字とその周りの文字は先ほど教わった文字だが、縁には模様が入っているだけ。
この縁にはどんな意味があるのだろうか。
サフィニアの知っている魔法が所謂精霊から教わった古代魔法だとしても、魔法陣がどのように作用し、どのような仕組みで魔法を補助しているのかは変わっていないはずだ。
魔力の流れを整え、抵抗を減らすことも、魔力操作を補助することも、術者の魔力を自動的に取り込むことも。
(いや、精霊に教わったものは古いだろうし、私の式は効率が悪すぎて使われてないのかも)
「魔力操作についても、基本が大切ですわ。魔力をどれくらい出すのか、どのように制御するのか。これができなければ、魔法を正しく使うことはできませんもの」
どうやら、ビオラは本気でサニアに勉強を教えるつもりらしい。
サフィニアは並べられた教材を見つめた。
(……これは、相当骨が折れそうだな)
ちょうどその時、注文していた料理が運ばれてきた。
「お待たせいたしました。苺とクリームのミルフィーユと、ローズブレンドティーでございます」
魔導人形は慣れた手つきでテーブルに品を並べていく。
幾重にも重なったパイ生地の間には、たっぷりのクリームと苺が挟まれ、表面にも艶やかな苺が可愛らしく飾られていた。隣に置かれた紅茶からは、ふんわりと華やかな香りが漂っていた。
「わあ……!」
サフィニアは思わず目を輝かせた。
なんて可愛らしいお菓子なのだろう。見ているだけでも幸せな気分になってくる。
さっそくフォークを手に取り、一口。
「おいしー!」
サクサクとしたパイ生地に、なめらかなクリーム。そこに苺の甘酸っぱさが加わり、口の中いっぱいに幸せが広がった。
続いて紅茶を一口飲むと、華やかな香りが鼻を抜ける。甘いミルフィーユとの相性も抜群だった。
サフィニアはすっかり夢中になって、ミルフィーユを味わった。
そんな彼女を微笑ましそうに見ていたビオラだったが、やがて手元の教材へと視線を戻した。
「さて、それでは続きを始めましょうか」
そう言って、ビオラは再び教材を開く。
「魔力操作の話でしたわね。魔力をどれくらい放出するのか、そしてどのように制御するのか。ここをしっかり理解することが大切ですの」
(あ、まだ続くんだ……)
サフィニアは開きかけた口をそっと閉じ、名残惜しそうにミルフィーユを見つめてからフォークを置いた。
どうやら、ゆっくりお茶を楽しめるのはまだ先になりそうだった。
メニューもその表現もAIがやってくれています。
すごいですね♪( ´▽`)
私の下書きでは美味しそうなものが来る、しか書いてない笑




