六話、依頼失敗?
「おいおい! お前なんで店にトカゲなんか連れ込んでんだよ!?」
「トカゲなんて言うな、ベティちゃんて名前があるんだからよ。ベティちゃんは家の害虫駆除してくれるし、この愛らしい顔を見てみろ? 可愛いだろう」
「ま、まぁ。そう言われてみると案外かわいいかもな……」
ガタッ!
突然大きな音が鳴り響き、隣に座っていた男が立ち上がると、鋭い目でトカゲを連れた男を睨みながら店を出て行く。
「待ってください、ライアス様!」
足早に歩くライアスを、慌てて追いかけるアリア。
最近、この街ではトカゲやヘビを連れた男たちが目立つようになっていた。
ライアスは、その光景を見るたび自分が侮辱されている気がしてならなかった。
そんな時、貴族街に近い上流層の建物が並ぶ裏道で、キョロキョロと不審な動きをしている人物を見つけた。
「おい貴様! そこで何をしている!?」
ムシャクシャした気持ちと、不審者に対する怒りで思わず大声で叫ぶライアス。
「何をしているのかと聞いている!」
荒がった声に、男は意に介さない様子で帽子も取らずに反論してきた。
「名前も知らない奴に貴様と呼ばれて、素直に答える奴がいるのか?」
その返答にさらに腹が立ち。
「平民だったら当然だろう!」と叫び返すライアス。
「貴族ならそうだろうが、お前さんも見たとこ冒険者だろ、そんな事言っていいのか?」
男の指摘に、今の立場を思い出し思わずバケツを蹴飛ばして去って行くライアス。
バケツを拾う男と目が合ったアリアが、頭を下げライアスを追う。
バケツを持った男――俺は、ボンヤリと二人の後ろ姿を見送っていた。
◯◯◯
仕事中に、態度のでかい男に邪魔をされたが。
最後に目が合った女の子を見て、冒険者ギルドで俺を殴った奴だと思い出した。
思い出して思わずムッとしたが、それよりも今は仕事が優先だ。
俺の害虫駆除の仕事は大当たりになっていた。
色街の顔役から認められた事で次々に依頼が入り、今日はなんと大物商人の家から害虫駆除を頼まれたのだ。
「噂は聞いていますが、くれぐれも粗相の無いようにお願いしますよ」
作業中にも執事がやってきて逐一状況を確認してくる。面倒くさいとも思うが、俺としても進行具合を確認しながら進められるので意外と作業が捗っていた。
「いつも通りなら三日後には効果が見られるはずです。
なので今度は、二日目と四日目に確認に来ます」
執事と次の日時を確認して、俺は常宿にしているあの婆さんの建物へと戻った。
「稼いでいるようだね」
「なんとかね、これも婆さんのお陰だよ」
「義理を感じてるなら、この店で遊んでくれても良いんだよ」
ニヤリと笑う婆さん、口では言わないが「そんな度胸は無いんだろがね」と言うセリフが目に浮かぶ。
(悪かったな、前世では死ぬまで童貞だったよ!)
さて明後日まで時間が出来たから、こっちの仕事でも済ませますか!
婆さんに断って部屋の隅を使わせて貰い、集めておいた材料を広げ調理に取り掛かる。
頑張っているトカゲやヘビ達のためにレプタイルピューレモドキを作ります!
といっても粉を振るって蜂蜜と菜種油と鳥肉、ミルワームっぽい虫をすり鉢で練っただけのモノだが。
森に行った時、野生のトカゲがこの虫を好んで食べていたので試したところ。
トカゲまっしぐら! って感じで、ウチのカブトも大好きなオヤツになった。
今も、俺の肩に乗っかって手元を見ながら鼻息スピスピ言わせています。
(かわいいなぁ)
二日後、約束通りの時間に屋敷を訪ねる。
「えっ!? 減ってない?」
執事から言われたのは、多少の効果は認められるが噂ほどでは無い、との事。
今回、屋敷の広さを考えて、いつもより倍の数を投入していた。
効果が「多少」程度なはずがない。
俺は首を捻りながら、作業に当たっていた子たちにオヤツを与え、様子を確認した。
うん、お腹パンパンだな。
みんな腹一杯食べている。
となると妙だ……。
「すみません、この屋敷には地下室とか秘密の通路的なものって……」
「……」
執事が無言だというのが答えだろう。
(カブト、他のトカゲ達と一緒に建物の地下を探ってくれないか? ちょっと嫌な予感がするんだ)
カブトは舌をチロッと出すと、数匹のトカゲを連れて屋敷の排水口へと潜って行った。
……数時間後。
カブトが戻ると俺の肩に乗り、興奮して指をカプカプしている。
「仲間が地下で何か見つけたようです。一緒に行って確認して貰えませんか?」
執事の眉間に皺が寄る。
「仕方ありません、付いてきてください」
そう言うと、裏庭の方に案内されて井戸の隣にある小屋の中へと入った。
小屋の中は掃除道具等が置かれていたが、執事が床の一部をズラして床板を持ち上げると――
「おおっ!」
「くれぐれも、この件はご内密に……」
鋭い視線でクギを刺される。
燭台を持って狭い階段を降りると、降り切ったところで左右に繋がる通路があった。
位置的に左が建物に続いて、右は外に向かっているのか?
俺たちは右に向かって進む。
暫く進むと、突然カブトが「ギイッ」と鳴いた。
「どうしたカブト?」
執事も立ち止まり、燭台を持ち上げる。
と、燭台の蝋燭の炎が揺れた。
「――?」
辺りを確認していると、素早く移動する影が!
何匹ものネズミが足元を通り過ぎる。
「ここだ! ここに小さいが穴が開いている」
足元の壁際に、小さいがネズミ位なら十分に通れる穴が開いていた。
「この穴は?」
「分かりません、半年前に確認した時は気付きませんでした」
執事の顔が歪む。
燭台を近寄せると炎が揺れる。
風が通っているという事は何処かに繋がっているのだろう。
後日、執事から詳しい報告を受けた。
「下水道に繋がる古いトンネルが掘られていました。
何者かが侵入経路として使おうとしていた痕跡もありましたが、途中で放棄されたようです」
放置されたその穴を伝って、害虫が大量に入り込んでいたという訳か……。
屋敷の主であるマクスウェル氏も同席しており、深々と頭を下げてきた。
「君の慧眼と……この小さな英雄たちのおかげだ。本当に感謝するよ」
「完璧な仕事をやってくれたのはこの子達です。俺はただ見てるだけですよ」
いつもの定位置にいるカブトがチロッと舌を出し、得意げに首を傾ける。
報酬は、予定の額の何倍にもなっていた。
未遂だったとは言え、屋敷に繋がるトンネルなど信頼に繋がる事への口止め料も込みなのだろう。
マクスウェル氏は今回の結果に満足されたようで、次のお客の紹介までしてくれた。
そして……顔に似合わない優しい瞳で手元のソレに視線を落とす。
「よく見てると、案外可愛い顔をしているものだな」
マクスウェル氏の手には、数匹いた候補の中から特に模様が綺麗で目がクリっとした愛嬌のある一匹のトカゲが乗っている。
ふふふふふ、順調に爬虫類への理解者が増えている。
依頼の達成より何より、俺にとってはこの事がとても嬉しい。
この調子で、この世界でもハチュラー仲間を増やして行くぞ!!




