五話、ライアスの凱旋
四百年ぶりの英雄、ドラゴン・ナイトの誕生は、王都を越えて瞬く間に領地全土に知れ渡った。
ライアスの帰郷の日、領都はまさに祭りの様相を呈していた。
外の歓声と音楽が、屋敷の厚い石壁の内側にまで響いてくる。
その様子を、まるで他人事のように眺めながら。
「まったく……まだスキルが『ドラゴン・ナイト』だと分かっただけなのに」
王都からの旅を終え、自宅の居間でようやく寛いだライアスはため息をついた。
すると、部屋の隅――
一番目立たない影の部分から、じっとこちらを見つめる視線を感じた。
「彼女は?」
付き人が慌てて答える。
「アリアでございます、ライアス様」
「……アリア?」
その名を聞いて、ライアスは改めてその人物をまじまじと見た。
地味なメイド服に、きっちりと一つに結った髪、そして銀縁のメガネ。
幼い頃の記憶にある元気な少女の面影は、どこにも見当たらなかった。
アリアは一歩前に出て影から顔を出すと、恥ずかしそうにメガネを外した。
しばらく無言で見つめ合った後、ライアスは静かに口を開いた。
「……そうか、しっかりメイドになれたのだな。
これからも屋敷のために、頑張ってくれ」
それだけ言うと、彼は軽く手を振って自室へと下がっていった。
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その夜――
アリアは自室のベッドで、枕を強く抱きしめていた。
(ライアス様……)
昼間の、興味のなさそうなライアスの視線を思い出すたび胸が締め付けられる。
花冠を頭に載せてくれたあの日、笑顔で交わした約束。
壁にかかるのは、ただの萎れた草。
ただその草が、五年間どれだけ励みになったことか。
涙が枕を静かに濡らしていった……。
一方、ライアスの部屋では。
「くそっ!」
苛立ちのあまり枕を叩きつける音が響く。
傍に控えていたメイドは、肩をすくめて小さくなっていた。
「何故だ……! 何故アリアは何も言ってこない!
あの約束を忘れたとでも言うのか!?」
メイドは恐る恐る口を開いた。
「……恐れながら、ライアス様。
第三王女キャサリーン姫様との婚約の話は、屋敷の者全員が承知しております。
アリアはそのことを知っているからこそ、何も言えないのではないでしょうか……?」
ライアスの動きが止まった。
「まて……何故、それを……!?」
「旦那様が、ライアス様の卒業パーティからお戻りになったその日に、屋敷中に言いふらされておりました」
ライアスは頭を抱えた。
まだ正式に決まった話ではない。
このまま民の間に広まれば、王家の面子を潰すことになる。
「……明日、父上に厳重に注意しなければならんな」
布団に潜り込みながら、彼はため息をついた。
本当は、アリアには自分で直接話したかった。
しかし、どう切り出せばいいのか分からず「知られていて良かった」と勝手に自分を納得させるのだった。
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華やかに見えたスキルの恩恵は、無惨な姿で帰ってきた。
『ドラゴン・ナイト』
無敵のドラゴンを使役し、途轍もない力を発揮するスキル。
が、スキルのレベルが低いうちは到底ドラゴンなど使役出来るはずが無いのだ。
またドラゴン自体の数が少なく、その存在は災害級。一度現れたら、存在する全てが破壊されてしまう。
ではどうやってスキルのレベルを上げるのか。
一つ、魔物を倒して自身のレベルを上げる。
二つ、コツコツと弱い魔物を使役してスキルのレベルを上げる。
三つ、稀に見つかるダンジョンの秘宝で一気にスキルアップさせる。
四つ、ドラゴンまたは竜種の魔物の卵か幼生を拐い、小さなうちから育て懐かせる。
どれも時間と金と、努力を必要とする方法だった。
父親は金にモノを言わせ冒険者を雇い、ライアスをダンジョンへと向かわせた。
強い魔物を倒して自身のレベルアップと、運が良ければ秘宝を手に入れて一気に問題を解決させる目論みだった。
さらには、秘密裏に手を回してドラゴンとは言わないが、ワイバーンを生きて手に入れようとしていた。
幼生であれば最良、たとえ大人であっても弱らせていればライアスのスキルで従属させられると考えたのだ。
しかし、計画はことごとく失敗した。
確かにライアスのレベルは上がり強くなったが、どんなにレベルの低い魔物も使役が出来なかったのだ。
アースドラゴン、ロックリザード、リザードマン、果ては普通のワニまでも使役に失敗する始末。
そんな時、遂にワイバーンを捕らえたと冒険者達から連絡が入った。
今までの魔物はドラゴンからは遠く離れた存在、ドラゴン・ナイトはドラゴンのみ使役出来るのだ、ドラゴンに最も近いワイバーンであれば必ず成功するだろう。
そう祈りながら息子にスキルを試させた。
が、失敗……。
使役に失敗したワイバーンが暴れて冒険者達にも大怪我を負わせ、その治療費も膨大な金額になり遂に――
「ライアス!!」
その怒声は、領主館の石造りの屋敷の隅々まで響き渡った。
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