三話、害虫駆除
「痛っつ!」
はぁ、全く何だってんだよ。
この世界ちっとも楽しく無いじゃないか! 爬虫類に囲まれて、楽しくウハウハ過ごせるのかと思ったのに。
何が「爬虫類に囲まれた新たな人生を歩んでください」だ。
腫れた頬の傷を冷やしながら、俺がこの世界に送られる直前の事を思い出した。
……白い光の中で女神に会っていた。
「あなたの『爬虫類愛』に感銘を受けました。
異世界で、爬虫類に囲まれた新たな人生を歩んでください。
スキル『レプタイル・テイマー』を授けます」
なんて言われてウキウキしていたと言うのに――
やっと泊まれた安宿の固いベッドに寝転がり、カブトのウロコの感触を楽しむ。
酷いよな、俺がテイマーで、カブトもテイムしている仲間だといくら言っても。
「トカゲは部屋から出すな、食堂に連れてきたらスープの出汁にするぞ」だと?
黒い奴やネズミが這っている食堂のクセに、トカゲだけ贔屓するなんて酷いオヤジだ。
その時、視界の隅で動く黒い影が見えた。
素早い動きで、あっという間にソイツを捕まえたカブト。
パリパリと噛み砕く音が聞こえる。
「カブト、そんなばっちいの食べなくていいよ」
とは言え、代わりの餌をすぐに用意出来る訳もなく、時々現れる黒い奴をカブトが次々と捕食する。
「寝る時に這い回られるよりマシか」
固い布団に潜り込んでウトウトしていると、俺の頭にちょっとした名案が思い浮かんでいた。
翌朝、宿をでて森へと行くと、爬虫類を見つけてはテイムして回った。
昼過ぎ……そこには十数匹のトカゲとヘビが、綺麗に整列して並んでいた。
チロチロと舌を出し、クリンとしたつぶらな瞳がジッと俺の事を見てる。
(みんなかわいいなぁ)
やっと森から帰れて安宿に戻ると。昨日と同じく嫌味を言われる。
黙って鍵を受け取り部屋へと入る。
部屋の鍵を閉じ、外に誰もいない事を確認してから背負っていた袋を開いた。
「さてさて、お前達にひと仕事して貰うよ」
新しい仲間達に伝えたのは、この宿の害虫、黒い奴やネズミを追い払う事。お腹が空いてたら食べても良いが、出来る限り追い払うようにと指示しておく。
そして、仲間に仕事を任せて三日ほどが過ぎた。
「安宿の割に、黒い奴やネズミも見ないなんて当たりの宿だったな」
「お前も気付いたか? 食堂でも嫌な気持ちにならずに飯が食べられたよな」
「オヤジ、また泊まらせてもらうよ」
俺は、常連客や旅客のそんな会話を、食堂の隅でニヤニヤしながら聞いていた。
コトリ。
不意に、テーブルの上に肉串の皿が置かれる。
「頼んでないけど?」
「お前が泊まり始めてから黒い奴やネズミが減った。お前が何かしているんだろう?」
無愛想な顔をした宿屋のオヤジがソッポを向きながら「店の奢りだ」と言って厨房に消えた。
爬虫類達には、厨房から重点的に仕事するように伝えていたから、もしかしたら見られていたのかも知れない。
それからは。
「他に客が居ないときは食堂にトカゲを連れて来てもいいぞ」
「ソイツの名前は何て言うんだ?」
「食堂に出る白いヘビ、どうしたら仲良くなれる?」
ふふふふふ……店のオヤジが少しずつ爬虫類愛に目覚めてきたぞ。
こうやって爬虫類の可愛さを広めて行くのも良いな。
それから暫く経った頃、こちらの思惑通りの話しが舞い込んで来た。
「宿屋で害虫を見なくなったという噂を聞いた、いったいどんな魔法を使ったんだい」
話しを持ってきたのは、この街の色街からだった。
色街で遊んだ客が、色々と女の子に噂を振りまいてくれたようだ。
そして、宿屋のオヤジに貰った地図を頼りにたどり着いたのが、色街の外れにある少し古びた洋館。
キチっとした身形の執事に案内されて通された部屋には、王様然として座った婆さんの姿があった。
長いキセルのタバコをふかし、値踏みするような目でこっちを見ている。
「噂は聞いているよ。冒険者ギルドでライアスの坊やに殴られて、ギルドも追い払われたテイマーらしいね」
たった数日前の話しだぞ、何て噂が広まってるんだ。
「その辺にいるヘビやトカゲを使って害虫駆除なんて考えたじゃないか。
嫌な害虫に指一本触れる事なく始末が出来て、そしてお前さんは上前だけをはねるってわけだ」
婆さんの、下品で下衆な笑い声を聞いていると、思わず握った拳に力がこもる。
「悪いが、帰らせて貰う」
立ち上がり、背後の扉へ向かって出て行こうとした背中に嫌味な声が聞こえた。
「お待ちよ。このまま帰って、ヘビやトカゲの評判を悪いままにしておくつもりかい?」
婆さんはニヤリと笑い、指の先でテーブルを軽く叩いた。
「一週間だよ。一週間でこの屋敷の害虫を片付けてご覧。
成果を見てから雇うかどうかを決めようじゃないか」
俺が少し答えを置いたままでいると、婆さんは楽しげに目を細めた。
「どうしたね? 自信がないのかい?」
「……いや。一つだけ条件がある」
「ふん、条件だと? まあ言ってみな」
「前払いか、せめて飯だけでも出してくれ。腹が減って死にそうだ」
婆さんは一瞬目を丸くした後、喉の奥でククッと笑った。
「随分と可愛いお願いだねえ。……いいだろう。
夜に戻ってきたら食事は用意させるよ。寝床は屋根裏で構わないね?」
そして、俺が立ち上がろうとしたタイミングで甘く粘っこい声が追いかけてきた。
「ただし、成果を出せなかったら――三ヶ月、タダ働きしてもらうよ。
この屋敷の地下で、ヘビやトカゲと一緒にね。
どうだい? お前さんにとっては天国なんじゃないのかい?」
冗談……婆さんの目は本気だった。
「分かった、じゃあ仕事は明日から始めさせて貰うよ」
そう言って建物を出た俺は、一目散に森へと向かって走った。今度は宿屋とは比べ物にならない大きな建物だ、見つけられるだけのヘビやトカゲをテイムしまくった。
翌日、フラフラになりながら婆さんの建物へと近づき――
袋に入った爬虫類達を放つ。
「そらお前達、頼んだぞ!」
効果は三日で現れた、一週間待たずに婆さんに呼び出されたのだ。
「お前さん何やったんだ?」
「何って? 害虫駆除だろ?」
暫くの間の後、婆さんが頷いて執事に告げた。
「金を払っておやり」
よし! この方法で、爬虫類の可愛さ訴求と地位向上の為に頑張りますか!
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