二話、爬虫類大好き
「ただいま〜! 生きてるか〜?」
毎日クタクタで帰宅し、一番にやる事といったらコレ。
レオパードゲッコーの「レオ」が、ガラス越しにじっとこちらを見ている。
「レオ〜♪ 可愛いなあ」
つぶらな瞳とぷりぷりした尻尾、そのおっとりした感じ……うちの子最高にかわいい。
「トカゲ……最高!」
俺――蜂矢悠真、二十九歳、黒目黒髪、中肉中背。
学生時代から特に目立つ特徴もなく生きてきた俺は、唯一の癒し。
部屋に並ぶ水槽を眺めながら感嘆のため息をついていた。
爬虫類が大好きだ。
ヘビもワニもカメも、みんな大好き。
世間では「キモい」「怖い」と言われるが、俺にとっては最高のパートナーだ。
小学生の頃、窓ガラスに貼りつくヤモリの腹を見てニヤついてるのを親からも気持ち悪がれ。
大学時代は爬虫類研究サークルで活動し、社会人になっても休みの日は爬虫類イベントに通う日々。
彼女?
作ったことない。
爬虫類に夢中すぎて、普通の女の子と話すよりトカゲの世話する方が楽しかった。
そんなある夜。
「…………ん?」
帰宅途中の路地で、突然視界が白く染まった。
トラックではない白く輝く光が俺を包み込む。
意識が遠のく瞬間、白い光がトカゲのシルエットにも見えた。
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目が覚めると、そこは見知らぬ森だった。
重なり合う枝の隙間から漏れる光、手を付いた地面には落ち葉が積り、そして目の前には……。
「……マジかよ」
ステータス画面のような半透明のウィンドウが、視界の端に浮かんでいた。
知ってる、ネット小説で何度も読んだ異世界転生あるあるだ。
『名前:蜂矢悠真スキル:レプタイル・テイマーレベル:一・爬虫類限定テイム(対象を爬虫類系魔物に限定)・テイム強化(爬虫類に対する親和性高)』
「テイマー? 爬虫類限定……?」
笑った。 むしろ最高! 俺の天国だろ、これ。
周囲を見回すと、近くの倒木で小さな影が動いた。 茶褐色の体に、赤い縁取りの瞼に丸い瞳。 全長は三十センチほど……。
日本では兜トカゲと呼ばれた種類に似ている。
サイズは少々大きいが、これはこれで触り心地を堪能出来そうだ。
「お前……かわいいな」
トカゲに向けて無意識に手を伸ばす。
クンクンと臭いを嗅ぐように指先に鼻を寄せ、チロリと舌を出した瞬間――
【テイム成功】
「カブト・スパイク」をテイムしました。
カブト・スパイクは、少し警戒したがすぐに俺の指に絡みついてきた。 舌をチロッと出して、目を細めて体をすり寄せる。
(かわいい!)
「よし、お前の名前は……カブト! これから一緒に、この世界を楽しもうか」
カブトは嬉しそうに体をくねらせる。 これが、俺の初めての爬虫類仲間だった。
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森の中を彷徨い歩き、街に着いたのはそれから半日後だった。
足が棒のようになっていたが、どうしてもここに来なければと思った場所。
「ここが、冒険者ギルドか……」
異世界の定番、冒険者ギルド。
テイマーと言えば異世界モノでは花形のスキルだ。
俺の「レプタイル・テイマー」も、と考えると年甲斐もなく胸が熱くなる。
思わずドキドキしながら手に汗を握り、冒険者ギルドの扉を押した。
が、窓口で意気揚々と登録しようとした俺は、すぐに現実を突きつけられた。
「へ? 爬虫類専用テイマー? そんなスキル、初めて聞きました」
「トカゲやヘビ系か……正直、使い道が想像できねえな」
「魔物の中でも機動力も火力も低いし、見た目も地味だろ。パーティに入れても足手まといになるだけじゃねえの?」
周囲から、失笑と冷ややかな視線が降ってきた。
俺は一瞬、胸の奥がざわついた。
これまで何度も味わってきた、あの「理解されない」感覚だった。
やっぱり俺は受け入れられない存在なんだ。
そう思うと目の前が真っ暗になってゆく……。
その時、一人の男が嘲るように煽ってきた。
「そんなトカゲ程度しかテイム出来ないのか? ロックリザードやワイバーンでもテイムしてみせろよ」
その言葉に、俺の爬虫類愛が反応した。
俺の事はいい、だが爬虫類を馬鹿にするのは止めろ。
俺は思わず言い返していた。
「ロックリザードやワイバーンは詳しく知らないが、もしソレが爬虫類ならきっとテイム出来るだろうさ」
そう言い放った途端、背後から突然衝撃を感じ、押し倒された。
顔を二、三発殴られた頃、やっと他の冒険者にソイツは取り押さえられ。
俺も、訳がわからない内に場所を移動させられ治療された後、少額の硬貨を突きつけられて冒険者ギルドを追い出された。
真っ暗になった空を見上げ、俺は肩をすくめた。
「……まあ、いいさ」
お前達がどんなに嫌おうと、俺は爬虫類が大好きだ。 カブトは俺の相棒。 これからもっと仲間を増やして、俺はこの世界を楽しんでやる。
ロックリザードにワイバーン? ああいいさ! 何ならドラゴンだってテイムしてやるよ!
抱いているカブトから伝わるヒンヤリとした体温が気持ちよく感じる程に、俺の心は静かに燃え上がっていた。
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