第98話 地面の下
かつて東京ダンジョンがあった場所は、
いまは広い公園になっている。
芝生。
遊具。
ベンチ。
どこを見ても、平和そのもの。
カイ・シノハラは、
清掃員の制服のまま、公園の端に立っていた。
リサ・カミシロが隣で腕を組む。
「……ここ、昔は第七層の入口だったのよね」
「はい。
今は、もう何も残っていません」
ナカニシ・コウイチがベンチに腰を下ろす。
「ええ場所になったなぁ。
あの頃の地獄みたいな臭い、全部消えとるわ」
公園の中央では、子どもたちが走り回っていた。
鬼ごっこ。
砂場。
遊具の取り合い。
笑い声が風に混じる。
もちろん、
彼らは何も知らない。
この地面の下に、
かつて無数のバグが渦巻き、
清掃員たちが命がけで修復したことも。
リサが小さく笑った。
「……まあ、知らなくていいわよね。
子どもが“バグの死骸”とか気にして遊べるわけないし」
カイは静かに頷いた。
「はい。
知られないほうが、きっと幸せです」
そのとき、
カイの足元で淡い光が揺れた。
【SYSTEM LOG】
【Location : Former Dungeon Site】
【Status : Safe】
【Stored Data : Cleaner Work Logs (Archived)】
リサが覗き込む。
「……作業ログ、まだ残ってるの?」
「はい。
地面の下に、静かに保存されているようです」
ナカニシが目を細める。
「わてらの仕事、誰も見てへんけど……
世界はちゃんと覚えとるんやな」
カイは芝生の上に視線を落とした。
子どもたちの足音が、
かつての戦場の上を軽やかに跳ねていく。
「……それで十分です」
リサが横目でカイを見る。
「ほんと、あんたってそういうとこ変わらないわね」
カイは少しだけ笑った。
「変わる必要がありませんから」
【SYSTEM LOG】
【World Repair Rate : 0.0051% → 0.0052%】
【Note : Peaceful Activity Detected】
【Effect : 微小改善】
ナカニシが立ち上がる。
「ほな、帰ろか。
今日の現場はもう終わりや」
リサが伸びをする。
「……たまには、こういう日も悪くないわね」
カイは公園を一度振り返り、
静かに言った。
「……明日も、続けます」
【SYSTEM LOG】
【Archived Logs : 保持】
【World Status : 安定】
【Next Task : Cleaning Continue】
世界は今日も、静かに――綺麗になっていく。




