第96話 微かな音
東京ダンジョン管理局・地下通路。
清掃を終えたカイ・シノハラは、
背負った掃除機の電源を落としながら歩いていた。
リサ・カミシロが横で端末を操作する。
「今日の分、送信したわよ。
あんたの分もまとめておいたから」
「助かります」
ナカニシ・コウイチが後ろから声をかける。
「おーい、二人とも。
今日の修正率、ちょっと伸びとるらしいで」
リサが端末を覗き込む。
「……ほんとだ。
0.0049%から……0.005%」
カイは足を止めた。
その瞬間だった。
――ピッ。
耳を澄まさなければ聞こえないほどの、
小さな電子音。
空気が一瞬だけ震えたような、
世界の奥底で何かが切り替わったような、
そんな微かな音。
リサが眉をひそめる。
「……今の、聞こえた?」
ナカニシが首をかしげる。
「なんや今の。
機械の音ちゃうよな」
カイは静かに周囲を見渡した。
「……世界の“掃除完了チェック音”だと思います」
リサが目を丸くする。
「は? そんな機能あったの?」
「分かりません。
でも……何かが更新された気がします」
そのとき、空中に淡い光が浮かんだ。
【SYSTEM LOG】
【World Repair Rate : 0.0050%】
【Threshold Reached : Minor World Check】
【Note : 人間側の更新確認】
【Status : CLEANING EFFECT CONFIRMED】
リサが息を呑む。
「……世界が、私たちの仕事を“認識”したってこと?」
ナカニシは腕を組んだ。
「なんや、急に真面目に評価され始めたな。
わてら、そんな大層なことしとったんか」
カイは少しだけ考えた。
「…ただ掃除しているだけです。
でも、誰かが気づいてくれるなら……」
リサが横目でカイを見る。
「……あんた、そういう言い方するのやめなさいよ。
なんか……ずるいわ」
カイは首を傾げた。
「ずるい、ですか?」
「そうよ。
こっちは褒める気で言ってるのに、
全部“当たり前です”みたいに返されると……
なんか……調子狂うのよ」
ナカニシが笑う。
「まあまあ。
世界が音鳴らしてくれたんや。
ええ日やないか」
カイは静かに頷いた。
「……そうですね」
【SYSTEM LOG】
【World Status : 微小改善】
【Sound Log : チェック音(記録済)】
【Next Task : Continue Cleaning】
世界は今日、ほんの少しだけ――応えた。




