第88話 用務員室バグ侵食
東京ダンジョン管理局・清掃員用用務員室。
清掃員だけが使える、唯一の休憩場所。
狭いが、静かで、落ち着く空間。
……だった。
「ちょっと待って。なにこれ」
リサ・カミシロが扉を開けた瞬間、固まった。
室内の壁が、黒いノイズに侵食されている。
ロッカーは半分溶け、床は波打ち、
休憩用のソファはデータの砂になりかけていた。
ナカニシ・コウイチが頭を抱える。
「わてらの休憩所が……」
カイ・シノハラは淡々と状況を確認する。
「破損データの侵食ですね。
放置すると、部屋ごと消えます」
リサが叫ぶ。
「ふざけんな!! ここしか休む場所ないのよ!!」
ナカニシ。
「わてのコーヒー豆も消えとる……」
リサ。
「そんなのどうでもいいわよ!!」
カイ。
「では、掃除します」
三人は部屋に入る。
黒いノイズが、まるで生き物のように広がっていた。
リサは散弾銃を構える。
「薬品切り替え……浄化水。
まずは表面のノイズを剥がすわよ」
ドンッ。
銀色の散弾が壁に着弾し、黒い膜が剥がれ落ちる。
ナカニシはたわしを蹴り上げた。
「ほいっ」
バシュッ。
圧縮デバッグデータをまとったたわしが回転し、
ロッカー内部のバグ核を貫く。
崩壊。
リサが振り返る。
「ちょっとナカニシ! ロッカー壊さないでよ!」
「いや、もう壊れとったで」
「うっさい!」
カイはモップを構えた。
「参照元は……天井ですね」
天井の角に、黒い渦が渦巻いている。
リサ。
「吸収型……またこれ?」
ナカニシ。
「わて、突っ込んだら怒られるやつやな」
リサ。
「当然でしょ!!」
カイは静かにモップを振り上げた。
先端が、白く光る。
リサが息を呑む。
「……またその光……」
カイは渦に向けてモップを叩きつけた。
白い波紋が広がり、
黒い渦が逆再生のようにほどけていく。
壁が再構築され、
床が元の形に戻り、
ソファがデータの砂から復元される。
ナカニシ。
「おお……新品みたいや……」
リサは腕を組んだまま、そっぽを向く。
「……まあ、悪くなかったけど」
カイ。
「ありがとうございます」
「べ、別に褒めてないし!」
小声で。
「……ほんと、休憩所まで壊されたら困るんだから……にゃん」
【SYSTEM LOG】
【Room Restoration : Complete】
【Reconstruction Protocol : Active】
【Warning : 装備挙動が規格外です】
カイは掃除機を背負い直す。
「では、次の現場へ」
ナカニシ。
「ちょ、ちょっと休ませぇ……ここで……」
リサ。
「五分だけよ!」
カイ。
「では、七分にします」
ナカニシが吹き出す。
「なんで増やしても七分なんや」
【SYSTEM LOG】
【Cleaning Complete】




