第87話 ナカニシのザマァ
東京ダンジョン第五四層。
黒い渦が通路を塞いでいた。
壁が削れ、床が波打ち、空間が歪んでいる。
リサ・カミシロが魔力探知を走らせる。
「……吸収型。触れたら終わりよ」
カイ・シノハラは淡々と頷く。
「危険ですね」
その横で、ナカニシ・コウイチが腕を回していた。
「任せとき」
リサが即座に怒鳴る。
「任せないわよバカ!!」
ナカニシは笑った。
「わてのザマァは、あとで世界がやってくれる」
そのまま走り出した。
黒い渦へ。
リサ。
「ちょっ……バカ!! 死ぬ気!?」
カイも動くが、間に合わない。
黒い渦が跳ね、ナカニシの身体を飲み込む。
肩まで沈み、皮膚に紫色のエラーが走る。
ナカニシ。
「っ……ぐ……! なんやこれ……!」
身体がデータの砂のように崩れかける。
リサは散弾銃を構えた。
「液体窒素、全開――!」
白い霧が渦に撃ち込まれるが、吸収される。
「くっ……効かない……!」
カイはモップを握り直した。
「行きます」
リサが叫ぶ。
「ちょっと! あんたまで飲まれたらどうすんのよ!!」
カイは渦へ踏み込んだ。
モップの先端が、白く光った。
カイがモップを振り下ろす。
黒いデータが弾け、
渦の中心が白く染まる。
ナカニシの身体を覆っていたノイズが剥がれ、
崩れかけたデータが再構築されていく。
ナカニシ。
「……おお……生き返っとる……?」
カイ。
「修復されただけです」
【SYSTEM LOG】
【破損データ:再生処理】
【分類不能:Reconstruction Protocol】
【警告:清掃員装備の挙動が規格外です】
ナカニシは地面に座り込んだ。
「カイくん……なんやその……反則みたいな……」
リサが駆け寄る。
「ナカニシ! ほんっと……バカなんだから!!」
ナカニシ。
「すまんすまん……でも助かったわ……」
リサは顔を背ける。
「べ、別に心配なんかしてないし……!」
小声で。
「……死んだら許さないんだから……にゃん」
カイはモップを見つめた。
白い光は、まだ微かに残っている。
「……次の現場、行きますか」
ナカニシ。
「ちょ……ちょっと休ませぇ……!」
リサ。
「五分は短い!」
カイ。
「では、七分で」
ナカニシが吹き出す。
「なんで増やしても七分なんや」
【SYSTEM LOG】
【Cleaning Complete】




