第83話 清掃員募集(高収入)
東京ダンジョン第六層。
入口付近に、若者が三人、座り込んでいた。
顔は真っ青。
手は震えている。
「……無理だろ、あれ……」
「広告と全然違うじゃん……!」
「“ラクに稼げる清掃バイト”って……嘘じゃねぇか……!」
彼らの足元には、破れたチラシが落ちていた。
《未経験歓迎! 清掃員はラクに稼げる! 時給5000円!》
その裏で、ダンジョン内部は――地獄だった。
通路の奥から、黒い塊が這い出してくる。
紙屑。
壊れた武具。
意味不明の残骸。
そして、形容できない“ノイズの塊”。
「ひっ……来るな来るな来るな!」
若者の一人が叫んだ。
「なんでゴミが動くんだよ!!」
「広告に書いてなかったぞ!!」
「“掃除機で吸うだけ”って……吸えねぇよこんなの!!」
黒い塊は、壁を這い、天井を這い、
まるで生き物のように増殖していた。
そのとき。
通路の奥から、作業服姿の男が歩いてきた。
「……ああ、また出てますね」
若者たちが振り返る。
「だ、誰……?」
男は軽く会釈した。
「清掃員です」
背中の掃除機を下ろす。
スイッチを入れる。
ゴォォォォ……!
黒い塊が、吸い込まれていく。
壁に張り付いたノイズが剥がれ落ちる。
床の残滓が、跡形もなく消えていく。
若者たちは呆然とした。
「……え?」
「なんで……吸えるんだ……?」
男――カイ・シノハラは、淡々と答えた。
「これはゴミではありません。
ダンジョンの“破損データ”です」
「デ、データ……?」
「広告の“清掃”とは、意味が違いますよ」
カイは、最後のノイズを吸い込みながら言った。
「参照元は上層。
放置すると、街まで溢れます」
【SYSTEM LOG】
【破損データ:削除完了】
【世界修正率:微増】
掃除機を背負い直す。
「……では、次の現場へ」
そう言って、静かに歩き去った。
若者たちは、しばらく動けなかった。
「……あれが……清掃員……?」
「無理だろ……」
「俺ら、帰ろう……」
チラシは、足元で風に揺れていた。
《ラクに稼げる清掃バイト!》
その文字だけが、虚しく残っていた。




