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意地悪な姉




 母さんが死んだ翌年の春、庭に小さな木が生えていた。妹はそれを見て母さんが来てくれたと喜んだ。妹はずっと母さんの話を信じていたの。でも私は違った。


 本当に物語の中のお姫さまだったら、母さんは助かったかもしれないのに。



 物語が本当だったなら、母さんはきっとまだ生きていたのに。


 一番悲しい時に奇跡は起こらなかったから。


 だから、あの木は母さんなんかじゃないって、妹に言ったの。でも妹は譲らなかった。



 あの晩、母さんが寒がりだったことを思い出した妹が、母さんのお気に入りだった赤いショールを木にかけようとしてた。私は馬鹿馬鹿しくなってショールを取り上げた。


「そんなことをしても意味なんてないわ。ただの木よ」


「木だけれど、特別な木よ。母さんの木だもの、返してよ」


 妹はまだ信じていて、魔法の世界の中で生きているみたいに思えたの。そう思うと、なんだかとても腹が立って、意地悪な気持ちになった。その考えをくじきたくなって、私は母さんの木の小枝を折ったの。


 小さな音がして簡単に折れてしまった。


「ねぇ、この木は痛いって言ってるかしら? 私には聞こえないわ。アンタには聞こえるの? どこにでもある木よ。母さんなんかじゃない。私たちを抱きしめてくれないし、夜にお話もきかせてくれない。母さんは死んだのよ! アンタもわかっているんでしょ。魔法なんかないって」


 そう言って枝を投げ捨てた。


 いつもみたいに大声で泣くかと思った。けれど、妹はそうしなかった。唇を噛みしめて、私を見つめ返していた。目に溢れた涙が頬に流れた。


「母さんは死んだって、それくらいわかってる」


 その時、わかった。妹は母さんの話をただ信じていたんじゃない。魔法の中で生きていたんじゃない。妹の中で魔法が生きていたの。妹は乱暴に涙をぬぐうと私に背を向けた。そしてずっと木の前に立っていた。体が弱いくせに。きっと明日の朝には熱を出すことになるくせに。


 私は母さんみたいな人になりたかった。けれど、私は意地悪な姉でしかなかった。意地悪な、シエナ・マクレーン。




 エリックは、じっと目を伏せて聞いていた。


「魔法の話は嫌いよ。人を惨めにするだけ。私も母さんも望むものになんてなれっこないんだから」


 きっぱりそう言いたかったのに、出てきた声は弱々しく震えていた。シエナは情けない気持ちでいっぱいになった。


「本当に一番嫌いなのが、母さんみたいになれなかった私……」


 母親に似ていく妹が妬ましかった。


 エリックは立ち上がってシエナの傍に腰を下ろした。そして、その大きな手で少女の背中をゆっくりとさすった。渇いた土の匂いがふうわりと漂う。シエナはこらえきれなくなった。次々と涙が目から溢れだす。拭っても拭っても止まらない。


 窓の外は仄かに明るくなっていた。窓や扉は震えなくなり、風が時おり小さな音をたてるばかりとなった。

 

 赤々とした壁には二つの影が並んで揺れた。


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