決して逃れられぬ終焉
固有魔術はその魔女だけが唯一使える特別な魔術。
それは特殊な魔術だったり、上級魔術を凌ぐ強大な力を持っている。
大魔女であるならばより、強大な固有魔術を持っているのは確かだ。
「分かってるなライア?」
「ええ、任せなさい」
ライアとマリーは互いに目を合わせ、合図しているように見える。
ライアは前に、大魔女は普段は仲がそこまで良くないと言っていた。
だが戦闘の時になればそれは違う。
長年一緒に戦っているからか、信頼しているからなのか、二人はお互いの考えていることが分かっているようだ。
その後マリーは、固有魔術を発動するためか杖を両手で持ち力をためている。
だがそれをメアリが放っておくわけが無かった。
「あなたさまの固有魔術ですか……どんなものかは知りませんが、確かに使われるのは厄介そうですわね…………ならば使われる前に殺るだけですわ!」
「っ!?」
メアリはすぐさま尻尾の剣でマリーの脳天めがけて突き刺す。
でもそれは、マリーの体をすり抜けるように地面に突き刺さった。
マリーはもうそこにはいなかった。
「馬鹿ね、それは幻影よ」
ライアはにやにやと笑いながら、左手で剣を持ち戦闘態勢を取っていた。
すでにマリーは、ライアの幻術によって姿を眩ませていた。
「ぬぬぬ…………そうでしたわね。あなたさまを先に殺さなければ、マリーさんを殺せませんでしたね。お望み通り殺して差し上げますわ!」
メアリはライアに向かって攻撃を仕掛けはじめた。
ライアははじめからメアリが自分だけを見るように囮になったのだろう。
実際、はやくマリーを殺さなければいけない焦りがある。
だから他の事に気を取る時間は無く、ライアを殺すことしか眼中がなかった。
一方マリーはというと。
「おい、アイリス」
「マリーさっ!?」
メアリが自分を見てないからかマリーは突然、姿をアイリスの前に見せた。
驚いたアイリスを見てはマリーはすぐさまアイリスの口を塞ぐ。
「あまり大きな声を出すな。ついてこい」
「ついてくってどこへです?」
二人は互いに聞こえないよう小声で話した。
「今から、固有魔術を使う準備をするんだ」
◇
一方ライアは囮になるかのようにメアリと戦っていた。
幻術を見せながら自分がどこにいるのか分からないようにし、そして剣で攻撃を仕掛ける。
分かってはいたことだが、メアリの体の皮膚はとてつもなく固く一切傷が付かない。
本気で傷を付けようとしたらむしろこの剣が壊れてしまうだろう。
でも今、ライアがすべきことはメアリを倒すことではない。
マリーが固有魔術を発動させるまでの時間稼ぎだ。
マリーの固有魔術は、とてつもなく強大な力を持っているがその分、デメリットが多かった。
だから自分や、仲間が協力してやっと発動できる魔術なのである。
「ほらほらどうしたのよ。殺すんじゃないの?」
ライアはメアリを煽るように、言う。
今はただ、自分に意識を集中してくれればいい。
それが勝利するのに必要なことだから。
「くっ……わたくしは傷一つ受けませんが、接近戦だけであなたさまを殺すのは厄介ですわね……」
メアリは悔しさと憎さを表情に現していた。
攻撃が当たらない。
それはメアリだけでなくライアも同じ。
メアリは体が固く、マリーの上級魔術を喰らってもほぼ無傷だった。
対してライアは幻術によって攻撃があたらない。
普通ならばこのまま延々と時間が過ぎるだけだろう。
でもそれは最終的にメアリが不利になるのだ。
「こうなれば!」
そこでなにか思い付いたのか、メアリは長い尻尾を伸ばし回転させるようにまわる。
石で出来た村の建物は次々と尻尾の回転で壊れていった。その破壊力は見る通りで凄まじい。
そのまま勢いを衰えさせずに次は手の鎌を使い無差別にいろんな方向に素早く空中を切りさばいていく。
「あぶなっ……!?」
その鎌の攻撃は間一髪、当たらずに済んだがライアは焦った。
一見無意味な行動に見られるが、ライアにとっては意外と有効な手段なのだ。
幻術は相手が視角で錯覚をして本来ないものを攻撃する。
でも無差別に攻撃するということは、見えても見えてなくても関係ないのだ。
これは非常に厄介である。
「そこですのね……このまま押しきって差し上げますわ!」
ライアの声を微かに聞いたメアリは、その方向に向かい両手の鎌を振り下ろす。
その攻撃を剣で受け防ごうとするが、如何せん使える手は左手のみだ。
完全に力で押されている。
「や、やばいねこりゃ……力じゃ圧倒的に不利よ」
「力で勝とうが負けようが関係ないのですわ! わたくしにはこれがあるのですもの!」
その攻撃に対してメアリは追い討ちを掛けるように、尻尾の剣をライア目掛けて突き刺してきた。
「しまっ!?」
剣がぐさりと心臓に突き刺さり、口から血が吹き出てくる。
そのままライアはピクリと動かなくなりドサリと倒れた。
「ウフフ……ちゃんと刺した感覚がありますわね! 嘘じゃないですわ! これであなたさまは死んだ! アハハハッ! アハハハッ!」
ライアは死んだ。
メアリはそう思っている。
この血は本物だ。
この人を刺した感覚は本物だ。
これは事実なのだ。
それを実感するとメアリは狂ったように笑いだす。
大魔女を《魔眼の魔女》を倒したのだ。
これ以上嬉しいことはない。
でも喜んでばかりはいられない。
「さて……マリーさんを探さねばなりませんね」
これで邪魔なライアは消えたのだ。
だからはやくマリーを探しだし、攻撃を阻止して殺さねばいけない。
メアリはそう思っているだろう。
◇
一方アイリスから見るとそれは奇妙な事であった。
「なんであの人は死体を刺して喜んでいるんですか……」
「ありゃライアの幻影で、ライアだと思い込んでいるんだろ。あいつもあそこにいたらただじゃすまねえしな」
場所を移動したアイリスたちには、それがライアには見えなかった。
というよりメアリが尻尾の剣で突き刺していたのはライアではなく、メアリが操っていた死体の一つであった。
ライアがメアリの鎌の攻撃を防いでた時、足元にはすでに死体があった。
おそらくはじめから死を偽装させるためのものだったのだろう。
そしてメアリが尻尾の剣を突き刺してくるその瞬間、ライアは剣を手から離し、その手で死体を持ち上げメアリの尻尾の剣に向ける。
その後手から離れ落ちかけた剣を拾い、攻撃をすべて避けライアは消えた。
左向きに回転するように一連の動作が行われた。
その動きは素早く真似できるものではない。
相手を錯覚させる。それに特化したライアだからこそ出来る至難の業だ。
死んだ人間をこんな事に利用するのは、申し訳なく感じるが騙すためには仕方がないことなのだろう。
「ほいほーい、来たよ」
「あ、ライアさん」
ちょうどライアがこちらへ手を振ってやってきた。メアリには気付かれず、ここまでこれたようだ。
というよりメアリは、ライアでなくマリーを探すことに必死なのだろうが。
今アイリスたちはこの村全体が見渡せる崖に来ていた。
アイリスはマリーに手を引かれるようにここまでついてきて、ライアが後からやってきた。
マリーはここに来てからずっと、固有魔術を発動させるために杖を握りしめ、力を集中していた。
マリーの足元からはマリーの胴体がすっぽり入る大きさの、白く輝く魔術陣が発動されている。
その魔術陣はシンプルでありながら、とてつもない魔力を感じることが出来た。
「マリー、もうそろそろよね?」
「ああ、もうすぐ発動させるぜ」
ライアはマリーに近付いて言った。
もう発動するのに時間は掛からないようだ。
しばらくして、村の方に異変が起きた。
「こ、これは!?」
マリーを探してたメアリは、異変に気付くと驚いた顔をする。
いつの間にか自分を中心に、白く輝く魔術陣が発動されていたこと。
ただそれだけでなく、魔術陣は複数まわりに何十個いや百個以上も発動されており、アイリスたちから見るとそれは巨大な円、魔術陣にも見えていた。
「逃げなければっ!」
マリーを探し殺す前に、マリーに固有魔術を発動されたのを悟りメアリは恐怖する。もしこれに当たれば、さすがのメアリもただじゃすまないのは分かっているのだろう。
相手は黒魔術最強の大魔女。
その固有魔術なのであるから。
メアリは必死で逃げた、悪魔の姿になっても、素早い動きが出来るのもあり、魔女の姿の時より早かった。
その必死な走りの末、ついにメアリは魔術陣の外へと行った。
「魔術陣の外へ来ましたわ……当たらなければ問題ありませんじゃありませんの……ウフフフっ!?」
笑っていたメアリだったが、それはすぐさま絶望の顔へとなった。
魔術陣は再び、メアリを中心とした場所にあった。
ぱちんという指を鳴らす音とともに。
「はい残念」
ライアはニヤリとメアリに向かって言った。
メアリはライア姿を見たときますます、絶望した顔になっていた。
仕方ない。
死んだと思ってたはずの人間が、自分を見下ろすように、高い場所から笑っていたのだから。
「な……なんで…………死んだんじゃありませんの!? いえ、それよりどうしてここに魔術陣が!? 元からわたくしがここへ来るとわかったですの!?」
メアリは混乱していた。
一度に二つの真実を見せられたのだ。
目に見える事実が本当の真実とは限らない。
それを実感させられたのだ。
「それは違うぜ。オレの固有魔術は発動したが最後、必ず相手に命中する。おまえがどこへ逃げようが魔術陣が発動した時点で無意味なんだ」
だが魔術陣の真実は少し違ったらしい。
本当はメアリがどこへ動こうが、中心となっているため意味がないと言うことだ。
それはつまり、ライアはわざと魔術陣は動かないと思い込ませ、メアリがほっとしたとき真実を見せたのだ。
なぜそんなことをしたのかは理由は不明だ。
ただ推測であるが、ライアは人間を道具として使ったメアリに対して酷く憎しみを見せていた。
だから最後はメアリに絶望をさせ苦しめたかったのかもしれない。
無差別に殺されたこの村の住民たちのためにも。
するといよいよマリーは、固有魔術を発動させるために詠唱をしはじめた。
「黒き力は全てを破壊し、崩壊へと導く……その結末は残酷で、決して逃れぬ事は出来ぬ……故に我は全身全霊を捧げ、一つの力に致すとしよう……」
詠唱が唱えられると同時に、白く輝いていた魔術陣はすべて黒い輝きに変化していた。
ただ邪悪な黒さではなく、美しい黒い輝きだった。
そして最後にマリーはこう言った。
「滅ぼせ……《決して逃れられぬ終焉》ッ!」
その叫びによりついに魔術が発動する。無数の魔術陣からは黒く輝く山のように膨らんだ魔力の塊が生み出される。それらのまわりに囲むように白く光る稲妻のようなものが飛び散っていく。
それらは闇でも光でも他の属性でもない。ただ謎で、ただ美しかった。
そして魔力の塊は次々と、メアリを包むように渦を巻いて襲ってきた。
「い、いえ……落ち着くのですわ…………先ほどだって無傷でしたものこれくらい……かはっ!?」
突然メアリは口から血を吐き出す。
体を見てみると彼女の腹には大きな穴が空いていた。
「ど、どうして……」
メアリは驚きと恐怖を隠せなかった。
当然であろう。
さっきマリーの魔術を受けても、一切傷を受けなかったのに。
それなのに今は、簡単に腹に風穴を入れられたのだ。
「《決して逃れられぬ終焉》はどんな物質であろうとも、消滅させられる……最強の黒魔術だ。その分……オレに来る代償もやべえけどなっ……」
するとマリーは手と足の血管が破裂し血が吹き出ていた。
「マリーさんッ!?」
体がよろめき倒れそうになったマリーを、アイリスは急いで支える。
「これでしばらく、オレは魔術が使えねえ……この固有魔術は強い分デメリットが大きいんだ」
立つのも精一杯だというのに、マリーは言った。
マリーの体からいきなり血が吹き出てきたのは、魔力の使いすぎによるものだった。
発動すれば相手に必ず命中し、相手を必ず消滅させる最強の黒魔術。
それ故にマリーの体に来る負担は異常ではないのだろう。
黒い魔力の固まりは次第に一つとなりメアリを飲み込んでいった。
メアリの体は尻尾も腕も足も無くなっており、残るは魔女の姿と変わらなかった胴体のみだった。
それでもまだ彼女に意識はあった。
そして彼女は、自分が死ぬのを実感し、受け入れようとしていた。
「わたくしはもう……終わりですのね。ウフフフ……こんな快感も……こんな最期も悪くありませんわ……もっとわたくしに快感をぐださいませ……アハハハハッ……アハハハハハハハ………………」
最期の不気味な笑いの最中に、彼女の声は彼女の体とともに消え去った。
その後、黒い魔力の塊は柱のように太く高くなり、そして大爆発した。
その爆風は森を伐採するように破壊し。
地面が大きく揺れ、地響きがするように土砂崩れが起き。
そして雲を吹き飛ばし隠れていた青空を現せた。
破壊の中で光が差した。
その光はちょうどメアリがいたところに当たる。
「やっと終わったんですね……」
もちろんメアリはもういない。完全に消滅した。
だが同時に、ここにあった村と村人たちを消滅させてしまった。
これらは二度と取り戻すことは出来ない。
失ったものは取り戻せない。
それが本来の在り方。運命だから。
悲しんだところで、同情したところでなにも変わりはしない。
だから彼女たちは、今あるべきもの、今ある自分たちの命を再確認し安堵する。
「そうね……最初から最後まで不気味な奴だったわ。できればもう二度とあんなやつには会いたくないね」
ライアはメアリの異常な行動を思い出したくないようであった。
「ほんとだ。こうなるならやっぱ、おまえを助けようなんて、しないほうがよかったぜ」
アイリスに支えられながらも、ライアに対してマリーは皮肉を言う。
だがそれは心から思ってることではないとアイリスは思った。
彼女の頬は少し緩んでいたから。
大切なものを守れた。
それが嬉しいように見えた。
そんな二人を見てライアはにっこり微笑みこう言った。
「さて……帰ろっか!」




